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コラム
 

「プロジェクトX」

 先日、中島みゆきのCD「地上の星/ヘッドライト・テールライト」をやっと手に入れた。「風の中のすばる 砂の中の銀河…」。きれいな声?美しい声?いや、どちらかと言えば、女性にしては野太い声(失礼)で、朗々と歌う。
 なぜ今、中島みゆきなのか、と言われるくらい、世は時ならぬ中島みゆき現象を呼んでいるそうだ。ある音楽評論家に言わせれば、彼女は、かつては“女の味方”、今は“中高年男性のアイドル”的存在でもあるという。
 氏は、続ける。彼女は、デビュー当時から一貫して“地上の星たち”や男性社会のしがらみの中で生きる“女の闘い”へ向けられてきた。その歌の根底に流れている視線が、それまで彼女の視界の外にあった中高年サラリーマンへ向いた。ちょうど、そのとき、家族を抱え、リストラに脅かされ、孤立無援の闘いを強いられるビートルズ世代の中高年男性の心をとらえたのでは、と。然り、然り。
 「地上の星」は、NHKのドキュメンタリー「プロジェクトX」の主題歌。この番組は、「厳冬 黒四ダムに挑む」や、「青函トンネルの大工事」、「世紀の難工事・瀬戸大橋」、「テレビの父・高柳健次郎」など、高度経済成長期の日本で、前人未到の仕事を成し遂げた無名の人々の物語。
 仕事柄記憶に残っているのは、農林漁業関係のプロジェクト。岐阜県木曽川から、愛知県知多半島先端まで、幹線水路112キロにも及ぶ「愛知用水」の建設物語。「襟裳岬に春を呼べ」では、「襟裳砂漠」といわれた荒涼たる大地にクロマツを植え、土砂で赤くなった海を緑に蘇らせ、襟裳昆布を復活させた漁師の物語を映す。
 「うまいごはんを食べたい」。日本一のブランド米と言われる「魚沼産コシヒカリ」の誕生物語は、試験田を提供した小林正利さんの冒頭の言葉から始まる。魚沼の地は、土壌が浅く、掘ればすぐ石ころばかり。この痩せ地に、コシヒカリが、まだ、越南17号という試験段階の名前の時代から取り組み、ついに小林さんの夢がかなう。昨秋から、「魚沼ロマン」の名で販売しているが、名前の裏にこんな苦闘の歴史があったとは…。
 ビートルズ世代は、そろそろ職場をリタイアする年代。振り返ると、我ら中高年世代は、先輩たちのプロジェクトが産んだ遺産をただ、食いつぶしてきたように思う。次世代にずっしりと重い借金だけ残して。でも、「地上の星」の旅は続く。次世代よ、プロジェクトXを超えろ! (だだっ児) (2003.3.6)


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