農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム

『街道をゆく』

 今、朝日新聞社から週刊『司馬遼太郎 街道をゆく』が刊行されている。その創刊記念シンポジュームで、作家の井上ひさしさんが、司馬さんの「日本人はコメに甘えすぎている」という見方がでてくることを紹介している。
 『街道をゆく』全43巻のどこにでてくるのか、膨大な量なので、井上ひさしさんの引用を借用させてもらう。まず「この農業(米作)が西日本でテストされ、多数の人口を養ううえであまりにもすばらしいものであったために、日本人は歴史的にコメに甘え、この農業を中心とした社会と宗教とモラルをつくり、それを水田耕作には不適地の東北にまで及ぼした」とある。
 つづけて、「工業が興れば工業に殺到して工業に甘えるというふうの、国土経営に冷厳な感覚と能力をもたない民族的性格ができあがった」とあり、それは「この民族を2千年にわたって養ってきてくれた弥生式水田農法があまりにもすばらしすぎたことによるといえるかもしれない」と結んでいる。 
 日本人(少なくとも団塊の世代まで)は、「お天道様と米の飯はついてまわる」との意識が頭のどこかにあり、国も農家も消費者も、米に頼り米に甘えてきたきらいがあるのはたしか。気がつくと、宮沢賢治の「一日に玄米四合と味噌と少しの野菜…」じゃないが、米の消費は1日4合から1日1合(年60kg弱)に減り、3割も4割も減反する始末。米に頼ってきたばかりに自給率も急降下。
 先日、東北のある県をお邪魔したが、米が倉庫から動かないと嘆く。おまけに、米の値段は60kg1万5000円を割り、また、いくら無農薬・減農薬米(特別栽培米)をつくって付加価値を求めたところで、値段は通らず骨折り損という。米の消費が減る、減反を拡大する、米の値段が下がるでは農家もJAもそれこそ飯が食えない。この解決には、司馬さんのいう、すばらしいわが国の水田農法を目一杯活用する以外にない。それには何度もいうが、東アジア米備蓄構想と民主党の掲げる300万tの棚上げ備蓄を早期に実行することだ。
 『街道をゆく』は高度経済成長で、かつては祭りの場であったり、修羅の巷であった歴史の証言たる四つ辻や街道が消えてしまうという、司馬さんの危機感が書かせたという。日本人が司馬さんのそれこそ冷厳な見方に目を覚まさず、このまま能天気でいると、水田はやがて跡形もなく消えてしまい、この民族は滅びるかもしれない。(だだっ児)

(2005.3.3)

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