農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム

民営化のツケ

 先頃、真っ黒に日焼けした戦友(?)に会った。かつて、山陰の小さな県で米販売担当の役職員を長くやり、大阪、九州に販路を求めてやってきた人物。何でも、農協の理事も70歳定年とかで辞め、今年から百姓専念だと、安堵と寂しさの混じる複雑な表情を見せる。用件は、例の集落営農の関係で、神奈川に居る県外地主の協力を得に上京したという。いやいや、ご苦労なこと。
 今、国会は小泉首相念願の郵政民営化関連法案の本格的な審議に入ろうとしている。民営化の先例はJR。その分割・民営化されたJR西日本が連休前、死者107人の大事故を起こした。「安全」よりも「利益」を優先した経営体質に問題があったと指摘されている。
 鉄道事業はいわば公益事業。何よりも「安全」が第一のはず。しかし、民営化すれば、「利益」追求に走り勝ちなるのも否めない。このことから、安全と利益はときとして相反する、公益事業を民営化するにあたっては、単に経済合理性だけの物差しで計ってはいけないことを教えられる。その意味で、ひとりJR西日本だけが悪いのではなく、民営化にともなうマイナス面の配慮を忘れた国の監督責任も問われるべきだろう。
 もう一つ、「米」という、いわば公益事業の民営化でガタガタになっている組織がある。JA組織だ。農協事業の根幹である米穀事業が食糧法の改正で、すっかり自由化、民営化された。そんな中、今回全農あきた県本部の米不正取引問題が起きた。この問題、一般の人からみれば、100人が100人、また全農は悪いことをしたと言うだろう。全農マン、米に関わる人も「系統共販を壊してしまった」「不正は不正、断じて許せない」という正論が圧倒的。国もここぞとばかり「全農の解体的出直し」を迫る。
 でも、一言言わせてもらえば、この問題も米流通を市場経済に任せ、米価安定の舵取りを忘れた国の責任、民営化がもたらした事件、いや事故ともいえる。先の御仁にいわせれば、10アール10万円の米収入があっても、肥料・農薬代、収穫・乾燥賃で消えてしまい労賃も出ないという。秋田問題も農家に払った高い仮渡金が引き金だったと聞くが、とくに専業農家の多い東北や北海道にとっては、他人事ですまない問題だろう。1万円米価に誰がした!
 という訳で、この問題もJR西日本の事故と本質は同じ、食糧行政の貧困、民営化のツケと言っては、短絡すぎるだろうか…。(だだっ児)

(2005.6.10)

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