農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム

‘猿の惑星’

 日本の出来秋は地方地方で実に多彩な顔をみせる。9月後半、北陸の富山・石川・福井を回ったが、もはや田んぼには一穂も残っていない。福井から北陸本線上りで米原に出、岐阜・愛知の田んぼを眺めると、稲はまだ収穫の時期を待っている。月末、群馬にでかけると、ここは昔ながら(失礼)の米麦二毛作体系が健在、稲刈りまでにはしばらくかかりそうだ。
 旅の途中、金沢で一泊。JR駅をはじめ駅周辺は超モダンな姿に一変している。駅前はホテルが乱立。かっては加賀百万石といわれた農業県もどうやら、古都金沢の数々の史跡や日本の原風景といわれる能登・「霊峰」と呼ばれる白山などの名所で観光県に生まれ変わろうとしているようだ。
 この金沢で、北陸をエリアにしている農薬会社の営業マンから興味深い話を聞いた。人間が都市部に移動するにしたがって、猿・イノシシ・熊などの動物たちも山から降りてきて、とくに中山間地に住む農家はその対策におおわらわだという。猿が農家に入り込み冷蔵庫を漁ったり、イノシシに畑を荒さるのは日常茶飯事で、農薬販売の商売よりも鳥獣害の侵入を防止する機器の方が売れるというから笑うに笑えない深刻な話。
 今、朝日新聞で「山下惣一の佐賀・唐津の田んぼから」という、エッセイが載っているが、山下さんも、田んぼやミカン畑をイノシシなどから守るため電気牧柵を買ったそうだ。これは電気を流すだけに、今度は漏電しないようにしょちゅう見回らなければならず、生産性のない仕事がまた一つ増えたとぼやいている。先だっては、伊豆に住む友人もイノシシや狸に畑をほじくられるので防柵ネットを張ったが、猿が木の上から虎視眈々と獲物を狙っているので処置なしと嘆く。
 先の金沢在住の人は、人が山を降り、中山間地に人が住まなくなくなると、後、10年もすると自然環境が完全に壊れてしまうと言っていたが、たしかに笑い話ですまない事態。今、正念場になっている品目横断的経営安定対策における担い手論議、とくに、どんな形であれ集落営農を担い手と認められなければ、集落は、いや、日本は猿や動物たちの天国になりかねない。映画「猿の惑星」は核戦争で地球が壊れた話だが、自然破壊で日本が、世界がつぶれ、本当に地球は‘猿の惑星’になるやもしれない。(だだっ児)

(2005.10.12)

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