農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム
  「いつか来た道」

 衆議院総選挙が終わった。「11月9日の投票日はベルリンの壁が崩壊した日」、「自民党独裁政権の壁を打ち破ろう」と訴えた民主党の菅直人代表。民主党は大躍進すれども、与党3党の壁は厚く、また、社民党の土井代表は辞任に追い込まれ、共産党も大きく議席を減らすなど、左派勢力が大きく後退した。
 ところで、今回の総選挙の最大の争点は何だったのだろう。イラクへの自衛隊派遣、年金問題、景気回復、雇用問題…ある識者に言わせれば、憲法改正問題だという。改憲、創憲、護憲、加憲など、さまざまな議論があったわりには、いつのまにか、「政権選択」議論の陰に追いやられ、護憲を唱えた社民党や共産党が惨敗。「戦争」より「平和」がいいのは、決まっているが、この議論は、憲法9条の良し悪しではなく、北朝鮮の核やミサイルの脅威を前にして、現実に平和をどう担保するかが優先しているようだ。
 農政問題にしても、選挙期間中、日本農業新聞は各党首のインタビューや、社説等で連日扱ったが、自民党と民主党は、農業の国際競争力を強め、自由貿易協定(FTA)の締結や農業分野の規制緩和を推進する方向でほぼ一致。首相は選挙期間中、FTA交渉が思うように進まないため「農業鎖国」発言をするほど苛立ったが、今後「農業開国」をよりいっそう進めることだろう。
 また、今度の総選挙のマニフェストでも、自民党は「やる気と能力のある農業経営のあと押し」というように、その底流にあるのは、永年の自民党(官僚?)農政の願望である小規模経営農家を切り捨て、大規模経営をめざすもの。おまけに、自民も民社も株式会社の農地取得や農業参入を推進するというのだから、日本農業を支える「家族経営」を根本から否定する論理。
 この点、農業政策でも、共産党や社民党は、家族経営を守り、自給率向上をはかる、食の安全・環境保全(社民)、生産費をつぐなう価格保証(共産)など、極めて分かり易く、納得できる。どうも、小選挙区制は、こうした弱者の視点に立つ、少数政党には不利に働くようだ。
 自民党にしろ、民主党にしろ、今の二大政党の政策では、いずれ、憲法は改悪され、戦争をする国の道を歩み、農業は農業で株式会社に蹂躙され、農家は賃金労働者、いや、新興地主・株式会社の小作人になる道を歩むのでは?
 日本は今、あの忌まわしい「いつか来た道」に戻りつつあるように思う。 (だだっ児) 

(2003.11.27)

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