農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム
二人のサムライ

 今、欧米で「サムライ」が注目されているそうだ。そのせいか、受賞こそ逃したものの、今年のアカデミー賞に俳優の渡辺謙が米映画「ラスト サムライ」で助演男優賞に、「たそがれ清兵衛」が外国語映画賞部門にノミネートされた。
 「無言でいるだけで伝統、品格、男らしさ、知性が感じられる貴重な逸材」と「静かなサムライ」をハリウッドの映画関係者は絶賛。たしかに、主役のトム・クルーズがかすむぐらい渡辺謙は存在感を示す。
 一方の「たそがれ清兵衛」、「トワイライト(夕暮れ・たそがれの意)・サムライ」の英題で米国で公開されるそうだが、さすが山田洋次監督、この映画の出来は秀逸。清兵衛役の真田広之は「ラスト サムライ」では、剣の達人を演じたが、ここでは清々しいサムライ役、米国のメディアでは、これが同じ俳優?と驚きの声があがったとか。
 ところで、欧米で今、なぜ、サムライなのだろう。それは、アジアでいち早く近代化を成し遂げ、経済大国になった原点は、「サムライ精神」にあるということらしい。サムライ精神といえば、新渡戸稲造の『武士道』。この本は今から105年も前、しかも、英語で出版されているというから、凄い日本人がいたものだ。
 日本語訳で読んでみると、サムライ精神のなかで、一番の徳目は「義」。それは、「人間としての正しい道」、「正義」をいい、あの西郷隆盛がこの「義」=「正義」を貫いた最大のサムライとある。渡辺謙が演じた「最後の侍」は、西郷隆盛がモデルと言われるのもうなずける。
 もう一人のサムライは50石取り、今流に言えば下っ端役人か、平サラリーマン。主従関係の厳しさや集団・組織の一員としての苦労、なぜか、今の官僚組織や企業社会をみているような気がしたが、形は同じでも彼らとは精神構造が違う。サムライは「民の見本」、たとえ貧乏でも「正しく・美しく生きる」という、彼らの自らを律する強い精神力は、損得・打算に明け暮れる現代人とは際立った違いだ。
 話は飛躍するが、イラク戦争はブッシュ米大統領の武士道ならず、騎士道精神の欠如なら、米国に追随した小泉首相も武士道精神のない男なのだろう。いや、モラルハザードやコンプライアンスが叫ばれる昨今の世相は、日本人みんなが武士道、サムライ精神をなくしてしまった表れなのかも知れない。(だだっ児) (2004.3.10)

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