農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム

「桜の花の咲く頃に」

 「桜の花の咲く頃に」。これは北海道・別海町、日本最果てに生きる高校生たちの卒業までの日々を描いたドキュメンタリーテレビ番組。家業の酪農や漁業を手伝いながら、夢や目標に向かって、真っ直ぐに、懸命に生きる高校生たち。そこには、都会の高校生にはみられない(失礼)健気で真摯な姿がある。
 別海町といえば、酪農で日本一。だが、学級数を減らす動きのなかで、昼間定時制の酪農科が減らされそうとしている。酪農を学ぶ子がいて、日本の酪農が成り立つのに、何とも不思議な国。それに、1年間の臨時教員として学校を転々とするケイコ先生の姿を描いていたが、教師に夢を持ち、熱心に生徒と向き合う先生が何年も教員免許をとれない制度はなんか変だ。
 年の瀬、振り返れば、この国は年々おかしくなるように思う。先月には広島で、師走には栃木で小学校1年の女児が殺される。そして「地震大国」でありながら、マンションやホテルの耐震強度を偽装するという信じがたい事件が起きる。将来「遊園地をつくりたい」という有希ちゃんの夢は、たった7歳で壊され、マイホームという一生に一度の庶民の夢もあえなく潰える国。
 おまけに「耐震偽装」では、与党幹部が「悪者探しをすれば業界がつぶれる」発言。大臣のとき、全農解体か改革かを迫った人だが、どうも頭の構造が尋常ではない。この人だけでなく、先のJR西日本の列車事故といい、今度の「耐震偽装」問題は、誰かのセリフじゃないが「金で買えないものはない」という、倫理観なき日本人が蔓延している証拠。また、学校から家までフツーに帰れない社会は、日本の地域社会が壊れている証拠…。
 話は別海町に戻る。野っぱらに立つ1本の桜の老木。冬の間、風雪に晒され木肌がボロボロになっても春になると、花が咲く。桜、それは日本人の「控えめな懸命な美しさ」と、ナレーターが言う。その桜の花の咲く頃、入学し、旅たつ。風連湖で漁師をする家族の女生徒は看護学校へ、酪農家の8人兄弟の長男は酪農大学へ、父を亡くし、地元に就職するバレーボール部キャップテン、などなど。そして、ついに教員免許を手にしたケイコ先生の笑顔でジ・エンド。
 一緒にテレビを見ていた女房に「まだまだ、日本も捨てたもんじゃないか」と、感想をもらすと、「そうよ、あんたもブツブツ文句ばかり言ってないで、学校帰りの児童の見張り番でもやったら」ときた。よいお年を!(だだっ児)

(2005.12.22)

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