農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム 落ち穂

「出口のない海」

 10月1日、「ごはんミュージアム」が東京・丸の内の国際フォーラムにオープンした。食農情報発信ステーションの機能を担い、都市と農村の共生のシンボル、また、食と農のかけ橋の役割と期待するものが大きい。当日、女優の吉永小百合さんが来るとの連絡もあってかけつけた。米をイメージした白いワンピース姿は清楚そのもの。
 話はそれるが、彼女は東京6大学、早稲田大学の出身。その早稲田に今夏、甲子園大会で優勝した早実のエース「ハンカチ王子」、斉藤佑樹君がプロ野球を蹴って進学するという。早稲田が優勝したら新宿、慶応は銀座、立教は池袋へと繰り出し、それは賑やかだったが、今や新聞のスペースも小さく、6大学野球ファンは寂しい思いをしていただけに、実にいいはなしだ。
 もう一つ、野球に関連した話を紹介しよう。横山秀夫の小説「出口のない海」だ。甲子園の優勝投手・並木浩二がヒジを故障、大学野球を棒に振っていたが、「魔球」の完成をめざして…。「魔球」、なんか漫画みたいな話だと思っていたところ、元職場の先輩と会ったとき、この映画の話になり俄然興味が湧く。小説ではA大だが映画では明治大学(我が母校)になっているというのだ。早速、文庫本を読み、映画館にかけつけた。
 市川海老蔵の演じる並木浩二は海軍服や戦闘服といい、胸にmeijiとロゴの入ったユニフォーム姿はうつくしい。だが、映画は小説で横山秀夫が描く「戦争」の惨さ、人間魚雷「回天」に乗る若者の苦悩があまり伝わってこない。同世代の司会者みのもんた(立教出身とか)が「61年前にあった戦争という事実は風化させてはいけない。だから僕はこの映画を応援します」というが、なぜか感動がいま一つ湧かない。吉永小百合やみのもんたと同世代だが、実質戦争を知らない世代。歳とともにいつのまにか、あの大戦を風化させているのかもしれないと自戒。
 この国は安倍首相という正真正銘の戦後世代に国の舵取りを委ねた。戦後レジームからの新たな船出、新しい憲法の制定などその口振りに、あの大戦を風化、歴史の彼方に追いやろうという感じすらみえる。どうか歴史のネジを逆回転させないでください。若者を「出口のない海」に向かわさないでください。あなたのセリフを使えば、この国の将来を背負う子供が「しっかり」ごはんを食べ、思いっきり野球ができ、勉強のできる「美しい国」にしてください。(だだっ児)

(2006.10.26)

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