農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム 落ち穂
"甲子園の詩"

 メジャーリーグでは、7回裏のホームチームの攻撃がはじまる前に、「私を野球に連れてって」がスタンドの観客全員が総立ちで歌われる。TVでこの光景を観ていると、家族連れや、グローブをはめた子供たちの野球を楽しむ姿が目につくが、日本の場合は、外野席の応援団の笛や太鼓だけがやたら煩く、折角、球場に来た子供たちも余りいい思い出にならないように思う。
 でも、日本には高校野球夏の甲子園大会がある。ぜひ、子供たちは「私を甲子園に連れてって」と、親にせがむがいい。夏の甲子園大会といえば、その感動を「甲子園の詩」として、毎年、スポーツ紙に寄稿していた阿久悠さんが先頃亡くなった。阿久さんは、「昭和」を歌に紡いだ巨人といわれるが、野球への思い入れも半端じゃない。瀬戸内海の淡路島で8歳で終戦を迎え、それまで封印されていた流行歌、映画、野球、阿久流にいわせれば「民主主義の三色旗」が一斉に飛び出してきたという(8月3日付、朝日「天声人語」)。
 なかでも、野球には「神が降りてきた感じ」を受けたといい、用具はなく、すべて手作り、毛糸を巻いたボールで熱中した日々が、小説「瀬戸内少年野球団」に、そして20数年間、少年たちが躍動する甲子園を見続け、その感動を美しい言葉で綴った「甲子園の詩」に結実したのではないだろうか。甲子園には、毎年、毎年、野球少年が登場する。その少年たちの姿に、阿久さん自身をダブらせ、平和を噛み締め、少年時代の心のまま詩にしたのだろう。
 ちなみに、昨年の夏「甲子園の詩」は、「ありがとう」「2006年いい夏」「終わりなき名勝負」の3篇を残している。また、その詩のなかには「溌剌の少年たちを見て だらけた大人たちは身震いする」「寒々としたことばかりの社会で 歓喜の瞬間を待つ心の準備を足踏みしながら整えたことがあるか」と、今の大人たちや、社会を風刺している。何でも、河島英五が歌った「時代おくれも」世の中がバブルで浮かれているときの詩だという。
 阿久さんの時代を見る目の確かさには驚嘆するが、彼には「生きっぱなしの記」(日経新聞)という自伝(?)があるそうだが、その生き様はまさにぴったり。UFOの「地球の男にあきたところよ」は、女性のセリフだが、案外、阿久さん自身のセリフだったのかもしれない。「一日2杯の酒を飲み、さかなは、とくにこだわらず...」、ビールと枝豆で阿久さんの冥福を祈りつつ、プロ野球のTVチャンネルを捻る、だらけた大人の一人なのです。(だだっ児)

(2007.8.8)

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