JACOM ---農業協同組合新聞/トップページへジャンプします

コラム  大仁田厚のファイヤー農業革命


不透明な時代もう一度足下見つめよう

 先月は衆参統一補欠選挙戦で各地を回り、プロレスとはまったく違う体力の使い方をした。選挙地から選挙地へと飛行機を乗り継いでいたら、急に耳が痛くなってきた。耳抜きができなくなり、耳鳴りがし始めた。 時にはまったく面識のない候補の応援にも、「この男は信頼のおける男です」「必ず即戦力になります」などと、いかにもよく知っているふりを装わなければならない、この矛盾は何なのか。そこでオレは考えた。有権者には、絶対に嘘はバレているのである。本音で語る方がいいと。 
 これだけ全国を選挙応援に回ると、芯から心を入れて応援したい候補もいれば、つい流したくなる候補がいるのは人情である。もちろん、たとえ初対面であっても“この人間なら!”と、本人以上に声を枯らしてしまうほど応援したくなる候補もいる。今回で言えば福岡6区の候補などは、そんな1人だった。
 それにしても「勝てば官軍、負ければ賊軍」という昔の言葉があるように、選挙には人生の縮図めいたものを感じる。そんな中、ある地区で選挙カーが畑の前を通りかかった時、一人のおばあちゃんがせっせと畑を耕している姿が目に止まった。
 「この候補をよろしくお願いします」と声をかけると、優しい笑顔で「はい、わかりました。頑張ってね。若い人がどんどん政治の世界に行くのはいいことだよ。応援するからね」。おばあちゃんの口から自然に出る言葉にオレは感動したのだった。
 代々受け継いだ畑を守り、毎日々々畑に出て農作物を育ててきたおばあちゃんの後ろ姿を見た時、戦後の日本を支えてくれたのはこの人たちではないかと、その哀愁を帯びた背を目にして、そうしみじみ感じたのだった。
 どうしてもオレは一言、候補の顔を見て言いたくなった。「この人たちのことを考えない政治家は政治家じゃない。オレたちの時代に絶対に、この人たちが安心して暮らせるふるさと作りをやらなきゃいけない」と。
 “ふるさと”と言えば思い起こされるのだが、北朝鮮による拉致事件の5人の被害者の方々が日本へ帰って来られた中で、帰国当初、曽我ひとみさんが暗い表情をなさっていた。しかし、故郷へ帰り、家族を感じ、友人の方々と再会するうちにどんどん笑顔が戻ってくる様子がテレビの報道番組の画面から見て取れた。
 そこに今、オレたちにあるテーマが投げかけられているように思わずにいられなかった。家族、友達、そして故郷−−。国会議員も人の子。家族や故郷の友人たちに支えられているのである。何かと政治とカネにまつわる疑惑が取り沙汰され、不透明な時代と言われる昨今だが、もう一度、足元を見つめ直さなければいけない。
 家族や友人をはじめ、支えてくれる人たち一人々々への感謝を常に忘れてはならないのだ。そんな当たり前のことを、ふと思い出させてくれたのが、曽我ひとみさんら拉致被害者の方々の笑顔であり、多忙をきわめた選挙戦のさなかに出会った、あのおばあちゃんの優しさだった。


農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
webmaster@jacom.or.jp