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コラム ―― 農民は考える
協同組合にもうひとつの旗印を

 “蚕”という漢字は、本来“ミミズ”と読むとのこと。“カイコ”という漢字はむずかしいので、その略字として“蚕”という漢字をカイコに使うようになったとのこと。
 「ミミズは天の虫である」と表した昔の人は、すごいと思う。「ミミズは天の虫である」という蚕には、「人間のための経済」と「持続可能な社会」との、二ツの意味が含まれていると考える。
 「ミミズは天の虫である」という先哲の教えを無視して、単に簡単だから、便利だからという理由で、“蚕”という字をカイコの当て字に使い、今日に至っている。
 「ミミズは天の虫である」という道から、「カイコ(商品作物)は天の虫」という道へ、人間は歩いてきたが、この二ツの道は全く異なる道である。
 「ミミズは天の虫」の時代は自然界の循環の手のひらの内での生産であった。「カイコは天の虫」は、カネのために、より自然を人工化する生産への道となった。それでもまだ、「カイコは天の虫」の時代は、「人間のための経済(農業)」の時代であったと思う。
 だが、「カイコは天の虫」の道を極端にまで押し進めてきた現代は、「人間のための経済(農業)」から「経済のための人間」に変わり、土壌消毒剤と称して土中の微生物を皆殺しにするし、殺虫剤で虫を皆殺しにするし、絶滅する種はあとを絶たずという、他の生物を皆殺しにする思想の上にたった農業等になってしまった。
 今は「ミミズは天の虫である」という先哲の教えを、もう一度かみ締める時であると思う。抗生物質の多用で耐性菌が生まれ、バイオマイシンすら効かない耐性菌が生まれ、どのような抗生物質も全く効果がない耐性菌が生まれてくるのに、あと2〜3年かと思われる。さらに、日本に狂牛病が発生して、狂牛病が人間に感染しても何の不思議もない。
 このように、人間の都合の良いように自然を管理(支配)するという思想は通用しないと、自然は誰の目にも明らかなように、その答えを出している。
 遺伝子組み換えも同じだと思う。カネ儲けのための遺伝子組み換えは、作物の組み換えから、人間の遺伝子組み換えとなり、人間自身が自分で自分の遺伝子を組み換え、生物の種である人間をやめて、別の種に変わろう(進化?)としているように見える。
 協同組合は、もっと人間にこだわったらどうでしょうか、と言いたい。
 国の農政も農協も、その旗印は「他産業並みの所得」だけのように見える。
 スウェーデンは「人間のための経済」「持続可能な社会」を国の旗印にしている。このスウェーデンの真似をせよとは言わないが、協同組合なら「他産業並みの所得」の他に、「人間のための農業」「持続可能な農業」を旗印に掲げてもよいとおもう。
 農水省のナントカ試験場はミミズの実験データを発表した。それによると、耕さず、ミミズが増える環境をつくった畑と、現在のトラクター・農薬農法による畑との比較では、前者の方が作物の収量は多かったという。このような自然界の循環の手のひらの内での技術開発から、「持続可能な農業」が見えてくるし、生物の多様性を維持する農業は「人間のための農業」にもなっている。
 サルからヒトへ、ヒトから人間へと進化するとするなら、「ミミズは天の虫である」という、もうひとつの旗印を掲げて、ヒトから人間へ進む仕事をするのが、協同組合であろう。旗印が「他産業並みの所得」だけでは、協同組合の存在理由はない、と考える。
(岩手県東和町在住・渡辺矩夫)


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