農業協同組合新聞 JACOM
   

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農業協同組合研究会

第5回シンポジウムを開催
格差社会への対抗軸を考える―農村の現実から(1)
政治評論家 森田実氏


 農業協同組合研究会(会長:梶井功東京農工大名誉教授)は4月21日、第5回シンポジウムを東京大学弥生講堂で開催した。今回のテーマは「格差社会への対抗軸を考える−農村の現実から」。わが国では個人間の所得とともに地域間の格差が拡大しており大きな社会問題となっているが、シンポジウムでは農村の現実をもとに農協組織がどう対抗軸を打ち出すかを議論することが狙い。政治評論家の森田実氏の講演と明治大学教授の小田切徳美氏が農村の実態報告などを行った。

第5回シンポジウム

 政治評論家の森田実氏は「日本の政治・経済状況と進むべき道」と題して講演。地方講演や取材で得た地域の生活、労働、医療などの崩壊の姿を紹介しながら、こうした現実をもたらした小泉構造改革の背景にあるものを指摘した。
 とくに構造改革が米国の意向にそって進められたことを強調し小泉政権のもたらした過度な競争社会を批判した。そのうえでブッシュ政権後を見据え、世界では、市場原理主義の見直し、環境、福祉、平和重視といった新たな胎動が生まれていることもあげ、日本の政治、経済が新たな方向転換に向かうべきことを訴えた。
 明治大学の小田切徳美教授は「農山村の現状と地域再生の課題」を報告。再生の課題として、新たなコミュニティの構築に向けた「手作り自治区」の可能性や、地方中核都市と農村部の交流の重要性などを指摘したほか、基本的な政策の視点として地域の「自立促進と格差是正のパッケージ化」が求められていることなどを強調した。
 シンポジウムには約150人が参加。参加者を交えて地域再生のための農協の課題などをめぐって熱心な議論が行われた。
 今号では森田実氏の講演要旨を掲載。次号で小田切氏の報告と全体討論の概要をレポートする。

講演  弱肉強食社会に決別を
世界で生まれる新たな胎動

◆小泉内閣の残したもの

森田 実氏
森田 実氏

 昨年から今年にかけて続けて2回天草を訪ねました。市長さんや地元の経済会のリーダーから話を聞くと生活水準は非常に低くなっていると感じます。
 たとえば中卒で就職希望しても地元には職がないので熊本に出る。けれども職はなく福岡や大阪に行くというんですが、大阪は失業率が高いばかりか最近では大阪の企業がどんどん東京へ移転している。だから結局東京へ行ってフリーターになる者が多いという。
 一方、大学進学をめざす高校生は熊本市内に下宿して進学しなければならず親は月に10万円の仕送りだそうです。その後、東京の大学に行くとなると月に25万から30万。親は生活をものすごく切りつめている。どこも同じだと思いますが、一方で爪に火を灯すような生活をしながら、競争に勝つためには高い学費がかかっても有名大学へという、すごい競争社会になってしまった。
 そして勝った者はすべてを得て、負けた者はすべてを失う。これは自己責任だというわけです。大新聞もそう主張してきた。

◆米国の意向で進んだ改革

 米国はすばらしい、日本は米国のようになるべきだと学者や大新聞は叫んできましたが、そこには米国の知識人層から指導を受けた日本人が関わっている。
 2002年2月、CIAの極東部長も務めたハーバード大学のエズラ・ボーゲル教授の教え子の日本人たちが小泉内閣発足1年後に、「21世紀における日本の方向」について決議した。
 そこで決めたことの基本は、日本は、米国が責任も持って導かなければ自立できない国家だということ。しかもこの決議を行ったのは日本人の指導者です。困ったものです。
 その決議のなかには、グローバル化の時代に日本は自分でやっていけないから米国が手伝わなければいけない、そこで5つの分野は責任を持つ、がある。製造業、食料、流通、建設業、そして金融です。この分野を米国はどんどん押さえてきた。食料もそうなってきています。
 そして決議の最後に、戦後、米国が日本に対してとってきた中心的な政策である民主化という任務は終わったといっている。日本を平等化するという政策をずっととってきたけれど、もうそれはやめた、階級社会になるのは当然である、と言うのです。
 今、この5年間を振り返るとこの決議どおり進んできました。自然を相手にした農業を真っ正直にやっている人たちにとっては住みにくい社会になりました。
 結局、共通しているのは金。すべての価値の上に金を置いている。

◆産院が6年間で半減

 とくにひどい例は医療です。医師不足で廃業の危機に立たされている病院から相談を受けます。しかし、厚労省は医者は不足していない、偏在しているだけだと言い張る。医師不足を認めず病院が潰れるのを放置している。
 これには金融機関も関わっています。不良債権処理が終わったといっていますが、実は金融庁がすべての金融機関を支配していることが隠されている。金融は全部国家管理のもとに置かれていてその上には米国がいる。そして経営が悪いところはつぶしていいということをやっている。病院経営者から聞いた話では、融資のドタキャンがあるという。たとえば、職員へのボーナス支払時期の直前に融資を突然打ち切る。これで倒産させて二束三文になったものを米国のファンドが買いにくる。
 医療危機は深刻です。とくにひどいのが産婦人科です。01年に小泉内閣が登場したときお産のできる医院が約6000あったのが、今はなんと約3000です。
 だから安倍内閣がいくら少子化対策といってもお産のできる医院がない。お産ができない社会をつくってしまった。これも米国主導の医療改革の結果です。
 さらに決定的なのは労働問題です。憲法の基本的人権に基づく労働法を根本から変えて、経営者は首切り自由、という法制度にしてしまった。今の経営者はわれわれはなんでも自由にできるんだ、と思っています。何のために経営者になったのか、社会のためではないかと問いかけると、その考えは古い、と言う。結局、小泉内閣がもたらしたものは地域の崩壊、医療の崩壊、貧困層の拡大です。

◆安倍内閣の本質

 安倍首相は「美しい国へ」のスローガンを掲げていますが、その前に出版した安倍晋三対論集に安倍政治の本質が表れています。これは安倍首相のブレーンとの対談で構成されていますが、ブレーンの考え方は右翼で、たとえば中国と台湾が戦争になったら日本が中国と戦うべきだなどと言う人もいる。
 そういう公然と戦争を主張している人間をブレーンにしているわけですから、安倍首相の本質は右翼です。戦後は間違っていた、歴史を見直し、戦後レジュームを打破するなどと言い続けている。これが安倍首相の路線です。自民・公明が選んだ首相です。

◆日本の進むべき方向とは

 『孟子』のなかに「民を尊しと為し社稷(しゃしょく)之に次ぐ」とある。社稷とは国家のことで、これは国民が第一であって国家のことは第二だという意味です。私は2月に衆院予算委員会の公聴会の席で、今年度の予算案はこれとは逆で、国家を第一に大事にして国民が二の次になっているのではないかと指摘しました。
 それから、論語には「遠慮無ければ近憂あり」がある。長期的展望を持たないままに事に臨めば必ずつまずきが起きるということです。私はこの予算案には長期的展望がないというよりも、長期的展望が間違っている、ブッシュ政権がいつまでも続くことを前提にした予算である、とも強調し批判しました。
 ブッシュ大統領は1年数か月後には退陣します。今は新たなる胎動が世界的に起こってきている。英国ではあの保守党が思いやりある政治を掲げているほどです。
 環境や福祉重視、戦争はもう止めるべきだという新たな政治の潮流が出てきているのです。
 これも衆院予算委員会で言いましたが、徳富蘆花の言葉に「国家の実力は地方に存する」があります。これを守るべきです。そして予算委員に問いかけたのは政治は何のためにあるのか、ということでした。政治の根本は調和です。国際間の問題を調和させて平和を守る、国内間の利害対立を調和させる、それが政治の目的ではないか、と。
 小泉前政権の経済政策は完全に間違っていると私は思う。完全な自由というのは弱肉強食の社会をつくるしかない。一定の規制を加える修正資本主義、あるいは社会民主主義のように、一定の規制を加えて資本主義の凶暴性を抑えるということをしなければ多くの人間を不幸にする。
 日本でも今後ブッシュ・小泉的な流れを止める動きが強まるのではないか。そこから見直しが始まってくると思います。

農協研が第3回総会 事業計画などを承認

 シンポジウムに先立ち同会場で、農業協同組合研究会第3回総会が開かれ第3年度の事業計画や予算などが承認された。
 事業計画では、第6回シンポジウム「新生産調整政策と農協の課題」を8月に開催する予定。場所は新潟県のJA十日町で行い、現地研究会を兼ねる。
 また、課題別研究会は年に3回開催する予定。研究テーマは農協の担い手対策と集落営農信用、共済事業の課題と方向組合員資格と組合組織の再編問題などが候補となっており、今後、開催時期なども含めて常任理事会で決める。

(2007.4.27)


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