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農業協同組合研究会

第6回シンポジウム in十日町 地域活性化と農協の役割を考える
地域住民を巻き込んだ農業振興にどう役割を果たすのか


 農業協同組合研究会(会長:梶井功東京農工大名誉教授)は現地研究会として第6回シンポジウムを8月25日に新潟県のJA十日町管内で開いた。現地での研究会は昨年8月に続き2回目で約150人が参加した。今年のテーマは「地域活性化と農協の役割」。JA十日町では、集落の生産組織や、JA経済事業を法人化して地域活性化につなげる取り組みをしているが、同JAの尾身昭雄組合長の実践報告などをもとに話し合った。

第6回シンポジウム in十日町 地域活性化と農協の役割を考える

◆農地政策改革も課題

 シンポジウムでJA十日町の尾身組合長が強調したのは「地域と同化するJA」だった。福祉、自動車、農業機械などの事業部門を株式会社化してきたのも広く地域住民に事業支持されるためだった。そのため職員教育も重視、企業向けの研修カリキュラムなどを積極的に利用しているという。また、集落の生産組織も株式会社化していく方針で、地域ぐるみで多角的な経営に取り組めることや、若者の就業の場としても有効であることなど報告した。
 同研究会会長の梶井東京農工大名誉教授は、現在の農地政策改革の議論が地域農業に与える問題を指摘した。
 新潟大学の青柳教授は90年代以降の農協経営の推移をもとに今後、農協が対応すべき方向を提言した。青柳教授によると、とくに農業地帯の農協では職員削減や支店統廃合などリストラが行われて収支維持が行われてきたが、それは組合員との距離拡大など事業基盤のさらなる弱体化というスパイラルに陥りかねないと指摘。一方で農協の利用構造を分析すると信用、共済では准組合員利用を増加させる傾向にあり利用者の多様化がみられるという。今後はこうした准組合員の理解と参加を得ながら地域農業振興を軸にした地域活性化への取り組みが求められている、と指摘した。

◆地域ぐるみの時代

 シンポジウム開催日の先日に農地政策をめぐって所有と利用の分離促進のための新たな機関の設置や、企業の借地参入の自由化などの方向で議論再開が報じられたこともあって、会場からもこの問題への懸念が示された。
 農地利用のついて地域合意で進めている農用地利用改善団体などの「ムラの論理の仕組みは農協運動の根源であり農協の経営のエネルギー」、地域合意を無視するかたちでの所有と利用の分離は「現場に大きな混乱をもたらす」との意見があった。地域活性化策の根幹に関わる問題との指摘だ。
 梶井名誉教授は農用地利用改善団体は集落レベルの組織として初めて法定化されたもので、最近の農政改革の動きのなかで、その組織数が1万を超える水準まで達しており、集団的な農地利用の促進のためには「その機能を強めていくことのほうが筋」と強調した。

◆総合性は発揮できているか

 関東の都市型地域から参加したJAからは地域づくりに向けたJA運営の基本として「正・准(組合員)一体」を掲げていることが紹介された。それも直接的なJA利用増をめざしたものではなく、教育活動のなかで地域住民に協同組合を学んでもらう活動に力を入れコミュニティ形成を図ろうとしているという。ただし、農業への関心は高いものの、地域の農業者と一体となった活動にまで結びつける難しさも報告した。
 また、別の地域からは、地域のニーズに応えるために療養型病院や葬祭事業など、農協も法人の設置で事業運営をしてきたが、それを農業振興という成果に結びつける難しさも指摘された。
 四国のあるJAからはJAグループ全体で掲げた営農部門の黒字化など経済事業改革の目標達成という経営面と、地域活性化策を「どうリンクさせるのか」が課題となっているとの声もあった。
 これらの点に関して青柳教授が指摘したのは、実態として農協内部で営農・経済事業と信用・共済の分離が進んでいるのではということ。支店を金融業務に特化するなどの例だ。「意識的に総合性を追求すべきではないか。総合農協のメリットを発揮して地域活性化策を探るには、だれがどう農協を利用しているのか利用者データベースを整備するなどもっと農協は持てる力の発揮を」と提起した。
 最後に尾身組合長は「われわれの組織は結局自己責任が問われる。われわれ自身が(地域活性化とJA改革に)取り組まなければならない」と呼びかけた。

棚田から農の文化を発信 JA十日町の松代地区

棚田から農の文化を発信 JA十日町の松代地区

 現地研究会ではシンポジウム開催前にJA十日町管内の棚田やJAの施設などを見学した。
 山間部の松代地区には棚田にさまざまなオブジェを設置し「大地の芸術祭」を行っている松代雪国農耕文化センターがある。中山間地域農業と現代アートの結びつきには外国人アーティストも参加。アートだけでなく地元の伝統料理の販売などで注目を集め東京からのバスツアーも。棚田はこの地域の景観を形づくっている風景だが、6割が天水田。田植え直前まで雪に閉ざされているため、秋の収穫後すぐに翌年に備えて畦などを整備。地元では米づくりを「稲をつくる」ではなく「田を作る」という。
 一方、幹線道路沿いにあるのがJA十日町が経営する「ぴっとランド」。地元の若者たちにも人気で設立から5年。年間1500台の販売を誇る。「地域住民に喜ばれる場づくり」がJAの方針だ。
(梶井功氏・青柳斉氏・尾身昭雄氏の報告へ)

(2007.9.19)


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