農業協同組合新聞 JACOM
   

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農業協同組合研究会

激変する世界の食料事情
食料安全保障への国民理解を
自由民主党衆議院議員 谷津義男氏
民主党参議院議員 平野達夫氏
司会:梶井功会長(東京農工大学名誉教授)


 農業者、JAグループ関係者と研究者らが参加して活動している農業協同組合研究会(会長:梶井功東京農工大学名誉教授)は2月16日、東京・大手町のJAビルで「当面する農政展開について」をテーマに07年度第3回課題別研究会を開いた。
 研究会には自民党衆議院議員の谷津義男・農林水産物貿易調査会長と民主党参議院議員の平野達夫・政策調査会副会長が出席。品目横断対策の見直し策や米の生産調整などをテーマに両氏からの食料・農業政策をめぐる説明をもとに参加者との質疑応答で議論を深めた。とくにバイオ燃料生産や温暖化の影響で世界的に食料供給が不透明になるなか自民党の谷津氏は「近い将来の食料不足が目に見えてきた。国家としてどのように食料生産をしていくか」と強調、食料安全保障を検討する対策本部を党内に設置する意向があることや、自給率向上のための財源確保など抜本対策に取り組んでいく意向を示した。
 また、民主党の平野氏は農地の維持のため、小規模・高齢農業者層も含めた政策支援で食料自給力の基盤を確保していくことが大事だと指摘。とくに米の需給調整と経営の安定のためには米に対する一定の所得補償策が有効であるなどを強調した。

当面する農政展開について

国策として「食料・農業・農村」
政策の長期ビジョン確立が急務

◆長期的な食料確保策を

梶井功会長(東京農工大学名誉教授)/司会
梶井功会長
(東京農工大学名誉教授)/司会

 研究会には生産者やJA組合長、生協関係、研究者ら約80人が参加。両氏に対しての質問や意見が相次いだが、共通したのは党派を超えた長期的な食料・農業の国家ビジョンの確立だった。
 谷津氏がまず強調したのは、バイオ燃料増産などの影響による国際的な食料事情の激変をふまえて、国家として食料確保の観点に立った政策の必要性。輸出規制をする国が出てくるなどWTO交渉にもこれまでにない不透明な要因となることを指摘した。
 そのうえで食料増産、自給率向上については生産者が再生産できる所得が必要でコストがかかることを国民に理解してもらう必要があるとした。
 予算額の試算として自給率を10%上げるには1兆円程度が必要だとし、昭和35年の自給率70%を念頭に「全部で3兆円かけて昭和35年の数字になる」などとした。そのためのコスト負担について「自分の生命を維持するものという認識を国民のみなさんにご理解をいただかなければならない」などと話した。そのためにも食料・農業政策を抜本的に検討する食料安全保障対策本部を党内に立ち上げたいと強調した。
 一方、平野氏も民主党も食料自給率を10%上げるには6〜7000億円必要との試算を公表していることを強調し、コスト負担をどうするかについては生産農業所得が10年前の5兆円代から現在は3兆円代にまで下がっていることなど、農業所得が下がっていることを消費者にも理解してもらうことも必要だと話した。参加者からは戸別所得補償法案について消費者は農家へのばらまきとのイメージがあるとの意見もあったが、これについて平野氏は「農村が崩壊寸前にあるという認識に立ち、今がんばっている人たちにきちんとがんばっていただく、農地が守られなければ自給率の向上はない、と説明していく」などと話した。

◆当面は米の生産調整

 当面の課題としては価格と経営安定のための米の生産調整対策をめぐる議論が中心となった。
 谷津氏は米の需給調整は需給バランスの崩れという現実があることから、需給調整は必要だが、今回の対策では飼料用米の生産を大きな目標としていることを強調し「150万トン程度」が飼料として活用が可能だとの試算があることを示した。
 ただ、昨年の緊急対策については政府米の買い入れを決めた時点では多くの農協にはすでに米は売却済みだったのではないか、とその効果が限定的だったことを指摘、流通段階への政策介入は課題が多いとし、同時に農家の経営安定のためにはJAによる米の買い取り販売などJAの販売力強化が課題だと提起した。
 また、20年産対策で提示した長期の生産調整拡大への支援策について、達成県など地域によってはメリットが少ないとの声があることも認め今後の検討も示唆した。
 平野氏は「国と自治体の関与が明確でないと需給調整は進まない」とし、生産調整参加メリットの充実が重要と話した。
 その手法として民主党案に盛り込まれている米への一定の所得補償について「認められれば、これは需給調整に参加する人に限ることにする」とした。
 谷津氏はこの点について非参加者が増えると価格の暴落と、一方で所得補償総額が増大するのではないかと疑問を呈したが、平野氏はその場合は一定の固定額とする考えもあることも表明。「参加した人は補てんされる、参加しない人は市場価格の影響を受ける。こういう構図で考えるのが自然では」と話した。ただ、試算では3000億円程度であり「コストパフォーマンスはきちんと考えなくてはいけない」とした。
 谷津氏はこうしたやりとりのなかで、米についての民主党案は「農家にはピンとくる」と話し「取り入れてもいいんじゃないかと言う話がある」と踏み込み自民党内でも検討対象になっていること明らかにした。
 研究会の梶井会長は議論をふまえて「食料安全保障のための自給力強化に関しては意見がほとんど同じ。具体的に筋道を立てていくことを期待したい」と述べ、研究会としても政策提言を続けていきたいと話した。

食料安全保障対策本部の設置を検討
自由民主党衆議院議員 谷津義男
農林水産物貿易調査会会長

発言要旨

谷津義男

 FAO(国連食糧農業機関)の政策委員もしており10年ほど前、世界人口の伸びに対して地球規模で食料生産がどうなるかシミュレーションをした。世界人口は年間7000万人づつ増えていくが、そのときは人口増によって食料が不足する事態は当分ない、こういう結論だった。
 ところが、すでにエタノール問題が出ておりもし食料からバイオ燃料を作ることになると急激に増えてくるだろう、これが食料不足に陥らせる原因になるかもしれないという話が出た。また温暖化の影響も出ていた。ただ、そのとき食料にどう影響を与えるか分析したのだが、今日のように多くの影響が出るとは正直言って予測してなかった。
 最近、FAOのデュウフ事務局長が来日したとき福田総理と3人でこの問題を話し合い、現在も人口増によって食料が不足する事態はまだ見受けられないがバイオ燃料生産、地球温暖化の影響が大きい、近い将来の食料不足が目に見えてきた、これを基本にした農業政策を各国がとっていかなければだめだという議論になった。
 もうひとつ、WTO(世界貿易機関)交渉でも変化が出ている。
 1月21日にWTO本部を訪ねてラミー事務局長らと話をした。昨年10月にも訪ねて地球温暖化とバイオ燃料生産によって、穀物の価格が上がると同時に輸出規制する国が出てくるのではないかと話したときは、そんなことはありえないと一蹴された。しかし、今回はいくつかの国で輸出禁止をする、輸出に対する税金を取るということを始めた。こういうことになってくるとこのWTO交渉とは何か。輸出規制は一枚の通告で済んでしまい日本のように輸入の多い国はたまったものではない。だから確実に輸出をしてくれるという保証が成り立たなくなりつつあるという状況であり深刻な問題になりつつある、どう考えるか、と農業交渉のファルコナー議長に申し上げた。(議長は)そういう事実が出てきたことは間違いなく見えてきた、しかし、今、(交渉を)決めておかないとずっと決められなくなるから、できれば3月いっぱいに決めたいという。ただ、非常にみな深刻に考え出してきた。
 こういうことを考えた場合、国内でしっかりと自給の体制をとっていかなければならない。これからのWTO交渉も少し変わった次元の交渉になってくるのではないか。3月いっぱいまでにもしモダリティを決めるんだということになっても、(譲許表交渉をするなかで)状況が秋口までに一変してきた場合、実際に(モダリティを)守っていけるのかどうか、これすら不安になってくる。
 いちばん大きいのは輸出規制が起きた場合、日本は輸入できなくなったらどうなるんだということ。そこもふまえて昨日は福田総理とこの問題で話し合いをした。
 党として立ち上げたいものがある。食料安全保障対策本部というようなもので、これを立ち上げることによって農政、あるいは流通、消費者の面などを総合したなかから対策を打ち抜本的にやり直さなければだめではないかという話をした。
                             
 自民党としては(これまでに)こういう世界の流れが大体分かってきたことからずっとプロジェクトチームで勉強会をやってきて、それで農水省と一緒になって作りあげたものが品目横断の経営所得安定対策だ。これは、将来の日本の食料を考えた場合に、日本の農業はどうあるべきか、日本の生産の体制はどうあるべきか。あるいは土地取得など農地法、そういう制度もかみ合わせていろいろと考えなくてはいけないということだ。
 昨年の参議院選挙では惨敗し、その中身には農業問題がかなりの要素としてあった。ただ、私たちの考え方のなかには、WTOとの関係も加味しながらということ。実はWTOが決着がつかなければ、そのままUR合意が続くわけだから、まずそういうものをふまえながら対策を立てなければならない、ということで決めてきた。
 食料が地球上に絶対的に足らなくなる日をXデーとして、それからさかのぼって逆算して15年ぐらい前に日本の体制をとっておかないと、農業は一夜にして増産に移るのということはできないから。そうした逆算をした結果が、いわば品目横断対策になってきた。
 しかし、この問題についてはいろいろな批判を受けているので見直し作業もやった。たとえば高齢者についても担い手としてしていくことや法人化についても弾力的にした。ただし私どもは品目横断対策で決めた政策の根本は間違っていないと思っている。
 これから食料不足が起こるであろうという時に、実際に農業をやろうという食料生産者はどういう対応をしていかなければならないか。2種兼業の人たち、あるいは高齢の方たちが意欲をもってやるだろうか。今、日本にある土地で食料をまかなうだけのものにするにはどうするのか、どうしても日本で穫れないものがあるからその場合はどういう形で輸入するのか、こういうことも含めて戦略をきちんともった政策を立てなければだめだということだ。
 世界的な規模、そのなかの日本の農業、これにきちんと対応しなければならない。

品目ごとの所得補償で自給率向上を図る
民主党参議院議員 平野達夫
政策調査会副会長

発言要旨

平野達夫

 国会では農業者戸別所得補償法案は衆議院で引き続き審議される状況になっている。どういう問題意識でこの法案を策定したか。
 一点は米価格が下落を続けている問題。米卸売価格はかつては60kg2万3000円ぐらいだったが一貫して下がり続けて18年産の平均価格は1万8425円。卸売価格が1000円下がりそれが農家の手取りにそのまま影響すれば農家生産所得は1300億円ぐらい減じるという相当なインパクトを持っている。
 18年産平均は1万4825円だが、農家の手取りは4000円程度差し引く必要があり1俵あたり1万600円程度になる。問題なのは1俵あたりのコスト。18年産の全算入経費は全国平均で1万6824円かかっている。これだけですでに農家手取りと6000円ぐらい差がある。物財費だけをみると全国平均は9795円でほとんど農家の手取りに近づいている。
 2点めは農村が今まで経験したことのない大変な変化を迎えているということ。 農業従事者の数は大きく減り、また、基幹的農業従事者の6割は65歳以上だ。一方、都市圏にはまだまだ流入超過が続いている。人口減少社会に入っていながら流入超過の地域があるということは、どこかの地域では輪をかけて人口が減っていくということ。それは間違いなく農山村だと思う。
 米価が下がり農家の高齢化も進んでいると、経済学者には米価がもっと下がったほうがいいという人もいる。経営ができなくなり農業をやめるだろう、やめて農地の流動化が進むだろうという。今の政策は、品目横断対策にしてもその感じは濃厚にする。米価については放っておけばいいんだ、と。それで構造政策をやろうというように勘ぐられも仕方がない状態だ。
 本当にそういう流動化が起きているかといえば研究者の分析によると、農地流動化は予想されたように起きていない。中堅といわれる5ヘクタール層の規模拡大が全然進んでいない。そして農家の減少率と耕地の減少率がパラレルになっている。つまり、農地は出てくるが、その受け手がいない。米に関していえば最大の理由は米価が安いからだ。
 耕作放棄地が今39万ヘクタールと言われて大変だと言われているがまだこの程度で済んでいるというのが実態ではないか。今、誰ががんばっているかといえば、高齢者の方々。日本の農山村を支えているのは高齢者。
こういう方がいるから、まだ39万ヘクタールの耕作放棄地で止まっていると思う。ただし5年も10年もがんばれないから一気にやめてくるときには耕作放棄地は一気に増え農村の機能そのものが破壊されるのではないか、こういう危機的な状況にある。
                             
 こういうなかで米については少しは所得補償をしてもいいのではないか、ということだ。生産費と市場価格の差、今すでに6000円ぐらいあるが全部補償するのではなくて家族労働費の何割か、たとえば8割、6割を補償してもいいのではないかということで、農業者戸別所得補償法案のなかで米にゲタをはかせるということを考えている。
 家族労働費に8割の補償をするとなると1俵あたり3000円程度。これに要する財源は3000億円ぐらいになる。これが高いか低いかというのは皆さん方の判断だが、これをやりながらまずは今、がんばっている農家の方々にできるだけ最後までがばってもらおう、しかし、同時に農業従事者は確実に減ってくる。だから、農地の流動化、農業の集団化は大事だ。
 大事だが品目横断対策では、現段階で個別農家は4ヘクタール以上、集落営農は20ヘクタール以上、それから経理の一元化をしろ、将来的には法人化をという大変難しいハードルを設定してしまった。あの対策は根幹ではそんなに間違っているとは思わないが、ハードルが高すぎて分からない。一方で農村が崩壊するという危機の状況のなかで、彼らががんばっているから今保っているんだというこの状況を大事にしなくてはならないというのが問題意識だ。
 3点めは日本の米価格が下がっているなかで、世界の4大穀物の価格は全部上昇していること。
 こういうなかで日本の自給率をなんとかしなければならないがこれは簡単なことではない。
 小麦や大豆の国際価格が上昇したといっても国産の生産費と比べるとまだまだ大きな差がある。これをどうするかだが、われわれはこの差額分を負担するという覚悟を決める必要があるのではないか。そして麦、大豆など品目ごとに生産費と市場価格の差を補てんするような制度を導入する。自給率を上げようと思えば、麦・大豆、あるはナタネなどの生産振興を図っていくしかない。しかし、生産振興をするにはだれがコスト負担をするのか。
 そのコスト負担について、自給率を10%上げるためには6000億ぐらいかかると大変高い数字の試算となった。この6000億円が高いかどうかはみなさんの判断だが、本当に自給率を上げようと思えばこれぐらいのコスト負担は必要であると明確に示していかなくてはならないと思っている。

(2008.2.25)


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