農業協同組合新聞 JACOM
   

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農業協同組合研究会

農業協同組合研究会課題別研究会開く
経済事業改革はどう進めるべきか

種市一正 JAおいらせ会長理事
(青森県中央会会長、前JA全農会長)
増田佳昭 滋賀県立大助教授 
司会:田代洋一 横浜国立大学大学院国際社会科学研究科教授


  農業協同組合研究会(会長:梶井功東京農工大前学長)は、7月22日、東京都内で2006年度第1回課題別研究会「経済事業改革を考える」を開いた。JAグループに求められる当面の課題は経済事業改革にある。そのなかで全農は新生プランを打ち出し組合員へのメリット還元に向けて、改革の具体化を進めている。
 課題別研究会では、全農の前会長、種市一正JAおいらせ会長理事(青森県中央会会長)が生産者、JA組合長の立場から経済事業改革への提言について報告し、研究者の立場では増田佳昭滋賀県立大学助教授が課題を指摘した。参加者は約90人で熱心な議論が続いた。

全体

多様なJAと連合会の機能再編をどう考えるか
販売を基軸とした統合全農の実現が最大の課題

◆意識改革が重要

たしろ・よういち 昭和18年千葉県生まれ。東京教育大学文学部卒。経済学博士(経済学)。昭和41年農林水産省入省、林野庁、農業総合研究所を経て50年横浜国立大学助教授、60年同大学教授、平成11年同大学大学院国際社会科学研究科教授。主な著書に『新版 農業問題入門』(大月書店)、『農政「改革」の構図』(筑波書房)、『食料・農業・農村基本計画の見直しを切る』(同)など。
たしろ・よういち 昭和18年千葉県生まれ。東京教育大学文学部卒。経済学博士(経済学)。昭和41年農林水産省入省、林野庁、農業総合研究所を経て50年横浜国立大学助教授、60年同大学教授、平成11年同大学大学院国際社会科学研究科教授。主な著書に『新版 農業問題入門』(大月書店)、『農政「改革」の構図』(筑波書房)、『食料・農業・農村基本計画の見直しを切る』(同)など。

 種市会長は報告のなかで生産者、JAの立場からは販売事業への期待がもっとも高いと指摘し、一歩、外に向かって踏み出し、流通業界や消費者と積極的に連携した戦略の構築を求めるとともに、こうした改革のためには役職員の意識改革が重要だと強調した。
 また、増田助教授は、JAグループの経済事業改革では担い手重視論が強調されているが、地域の実態にあった担い手をつくっていくという視点が弱いのではないかと指摘。大規模農家への対応だけではなく、農地と人をいかに集めて農業振興をはかっていくか、その戦略が基盤になるべきだとしてJAが自ら地域で力をつけて改革を進めるべきだとした。
 そのうえで多様なJAを支えるための全農など連合会の機能は、専門性を発揮してサポートすることになるが、それらの機能に応じて組織のあり方も会社化なども視野に再考察されるべきではと将来の課題も示した。
 パネルディスカッションでは田代洋一横浜国大教授が司会をつとめた。報告を受けて食料の安定供給の主体はだれかという種市会長の指摘は重要で、JAグループの改革にとっても、担い手論は組織事業基盤に関わる問題などと指摘した。そのほか支店統廃合、JAと連合会の機能分担と全農の新たな事業部制との関連などが改革の焦点だと整理した。
 全農の加藤一郎専務も参加者として出席し、議論を受けて「販売を基軸とした統合全農の役割発揮が最大のポイント」などと述べるとともに、将来の連合会組織のあり方はあくまで組合員で議論を積みあげていくことが重要ではないかと話した。

 




一歩、外に打って出る改革を −種市一正氏

たねいち・かずまさ 昭和16年青森県生まれ。青森県立三本木農業高等学校卒。昭和62年三沢市農協(現おいらせ農協)組合長理事、平成5年同代表理事組合長、8年青森県農業協同組合中央会会長、信用・経済・共済各連合会会長、11年全国農業協同組合連合会理事、13年同青森県本部運営委員会会長、16年JA全農経営管理委員会会長。
たねいち・かずまさ 昭和16年青森県生まれ。青森県立三本木農業高等学校卒。昭和62年三沢市農協(現おいらせ農協)組合長理事、平成5年同代表理事組合長、8年青森県農業協同組合中央会会長、信用・経済・共済各連合会会長、11年全国農業協同組合連合会理事、13年同青森県本部運営委員会会長、16年JA全農経営管理委員会会長。

 農業という仕事を続けていく限り、コストを下げて有利に販売していくことは鉄則で、追求していかなくてはならない。自分も就農以来、課題としてきたし、そのためには仲間、組織が必要で農協に関わることになった。
 今は低価格の輸入農産物が入っているなかで、今回は改善ではなく改革をしなければならないということ。そのために制度を改革していくことと、連合会だけではなく単協も一緒に改革しようということになった。そうでなければメリットも出ないし、改革を成し遂げられないということだろう。
 しかし、統合都府県は36にとどまっている。行政との関係で各県固有の事情があってすべて一本化することは難しいのかもしれない。ただ、統合をはじめるときに、現状を把握せず将来像を描かないままだったことに問題があったのではないか。今回は、現状を分析して改革を考えて進めていると思う。
 改革といえば小泉改革だがそれは何かといえば、競争と効率化だと思う。JAグループもそれをやっているが、ただ、大事なのは主人公はだれかということ。主人公はまぎれもなく国民であり、JAグループにあっては組合員であり、消費者である。そこで考えなければならないのは、何でもかんでも経済原理だけで改革していいのかということだろう。
 JAの経済事業改革も、たとえば、LPガスの供給でも南北20キロもあるようなJAでは遠い山間部へは配送コストが高いから、といって切ることはどうか、となる。しかし、効率化は必要だから、これは難しい課題だが、組合員のなかには単に価格ではなくサービスを求めている人もいる。そうであれば配送回数は減らすが商品の規格は大型化するなど、主人公が何を求めているかを把握する努力が大事だと考えている。

◆無駄を省くのは当たり前

 全農の統合では統合によって役員数などもスリム化して組合員にメリットを返すということは大事だが、しかし、ムダを省くだけでなく新しいことをやっていくことがもっと大事だ。節約だけによる効果ではなく、統合して何が本当にできるのかを考えていく必要がある。
 そのなかでも組合員がいちばん期待しているのが販売事業。有利販売がきちんとできれば、経費が少しかかってもそうは文句はでない。そこに耳を傾けるべきだろう。
 販売事業も単なる集荷ではなく、北海道から九州までの組織力によって大きなことができる。生産の場面でも南北に長い日本の特質を生かして農業機械の協同利用をしコストダウンをはかろうということぐらい考えてはどうか。これまでと視点を変える必要がある。
 生産者は生産のプロだが残念ながら消費者がどんなものを求めているか定かではない。そこで他の業者、生協なども含めてお互いに知恵を出し合って販売を考えてはどうかと思う。
 外に向けて一歩打って出る改革がないと組合員の期待に応えられない。
 ただ、食料の安定供給というときに、それを担うのは誰かという問題がある。安全なものを作るのは当然としても、生産者がばらばらにつくったのでは、今日はすばらしいものが売っていたが、次の日はまったくなかった、ということになりかねず、それでは産地としても信頼されない。安全な農産物を安定供給するにはやはり組織がやらなければならないと思う。競争とは価格だけはなく、安全なものを安定供給するという信頼を売る時代でもある。そこに向けて全農がどう一歩踏み出すか、主人公の心を忘れない改革を期待したい。

JAは自らの足下を鍛え改革を −増田佳昭

ますだ・よしあき 昭和27年静岡県生まれ。京都大学大学院農学研究科博士課程(農林経済学専攻)終了。滋賀県立短期大学助手、助教授を経て現職。専門分野は農業経済学、農協論、農産物流通論。『農協運動の展開方向を問う』(家の光協会、共著)、『不良債権問題と農協系統金融』(農林統計協会、共著)、『協同組合のコーポレート・ガバナンス』(家の光協会、共著)
ますだ・よしあき 昭和27年静岡県生まれ。京都大学大学院農学研究科博士課程(農林経済学専攻)終了。滋賀県立短期大学助手、助教授を経て現職。専門分野は農業経済学、農協論、農産物流通論。『農協運動の展開方向を問う』(家の光協会、共著)、『不良債権問題と農協系統金融』(農林統計協会、共著)、『協同組合のコーポレート・ガバナンス』(家の光協会、共著)

 JAグループは担い手対応を強化することをJA全国大会議案でも掲げているが、きちんとしたビジョンを描いているのかどうか。たとえば農政改革に関する日経調の農業提言では、要件を満たす担い手が増えることが政策の目的ではなく、要件を満たす経営がさらに規模を拡大し効率化していくことが目的だとしている。つまり、農家を減らすことが改革の目的だという。では、JAグループの担い手重視というのはどんな地域農業戦略を描いたうえでの主張なのか。現場からは、担い手への施策重視によって、兼業農家からこそ土地はがしが起きて、それが地域農業への関心を低めていくことになるとの懸念も指摘されている。
 一方、JAによっては地域の建設業者が農業に参入し、JAはパッキングセンターを設置し販売で連携しているという例もあるが、それによって他の家族経営もJAを利用するようになったという。取引先とも密接に連携しながら、地域では組合員農家が改めて結集し始めている。また、有名なJA甘楽富岡の販売事業も、いわゆる担い手ではなく自給的農家を基礎にして多品目生産とインショップ販売などで実績を上げてきた。
 こういう例をみるとJAグループの担い手議論は、現場の成功事例から何を学んでいるのかと問いかけたい。JAとしての地域農業戦略論が改革論議には欠かせないだろう。

◆個別事業対応は何を意味するのか

 JAの今後の事業展開のうえで課題としているのが、担い手重視による「個別事業対応」である。しかし、個別事業対応の基本とされているのは、大規模農家を含む組合員への訪問活動。これはコミュニケーション活動だし、大口利用割引、利用料金の値下げなどはこれまでやってきたことではないだろうか。大事なことは専業農家のニーズをきちんと把握することだろうが、それは専業農家だけを選別して別枠で扱うことではない。
 全農は5年間で240億円を登録された担い手に還元するとしているが、かりに40万経営体を対象とすると、1経営体あたり年間1万2000円程度にすぎないという研究者の指摘もある。JAや県域の営農経済渉外担当者の育成にその費用を使うほうが有効とも指摘しているが、その通りだと思う。やはり求められているのは、担い手育成論に振り回されずに、JAグループとして地域の実態を直視した地域農業戦略を示し、地域農業を守るという姿勢を打ち出すことだろう。
 また、JA合併により、金融の論理で支店の統廃合が進んでいるが、支店廃止によって貯金が増えるかといえば増えていない。支店をどう考えるか。金融に特化させているが、女性部や高齢者対応などの機能をどう考えるかも課題ではないか。一方、現場に近い営農センターなどは組合員が日常的に訪れるため、実質的なJAとして位置づけられている。JAの総合性をどう再構築するかの問題もこれら支店、支所、センターの機能とあわせて考えるべき課題だろう。
 JA大会議案では、多様なJA論が柱で、それぞれが何らかの分野でナンバーワン宣言をしようということになっている。日本では単協の主体性を保持しながら組織の結合を考えてきたが、多様なJA論は、連合会との役割分担の多様化論でもある。JAの存続のためにこれまでの合併方針も見直されているが、多様なJAの存在を可能にする連合会の機能とはどうあるべきか、専門事業機能を発揮すための連合会組織のあり方も課題だ。一方でJAは自らの足下を鍛えながら改革を進めることも求められている。社会が農業、農村を見る目は確実に変化しており期待も高い。組合員と地域、社会の期待に応えることが望まれている。

(2006.8.3)


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