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この人と語る21世紀のアグリビジネス


直接販売75%目ざす
ノーベル賞・野依教授の成果も活用して
シンジェンタ ジャパン(株)
デニス・ターディ社長
 
 
 ターディ社長は最初、フランスの鋼管メーカーに就職し、営業担当で日本の製鋼各社と関わった。日本とは縁が深い。そして夫妻ともに日本の歴史や伝統文化に興味が深く、京都、奈良や金沢には、もっと足を運びたいという。日本の工芸もやる。食文化の視点からは、日本はカキやナシを輸出品目に育ててはどうかと「攻め」の発想を説いた。同社の事業についても「攻め」の姿勢を随所に示した。また、日本では企業同士のつながりでビジネスを展開してきたが、これからは、つながりとともに各社それぞれの「企業戦略が重要になる」などと語った。
インタビュアー:坂田 正通 (農政ジャーナリストの会会員)
デニス・ターディ社長


◆農産物に付加価値付けて輸出

デニス・ターディ社長

 −−最初に、フランス農業の特徴をお聞かせ下さい。

 ターディ 農業はフランスの主要産業の1つです。輸出品目の上位リストにも農産物がいくつか並んでいます。穀物、チーズ、肉、果実、ワインなどです。日本向け輸出ではルイビトンなどのブランドものに次いで2番目がワインです。最近は農産物に付加価値をつけて輸出しようとする傾向が強くなっています。

 −−日本は生産コストが高くて農産物を輸出できません。フランスの生産費はどうですか。

 ターディ 生産性が特に高いわけではないと思いますが、経営規模が大きく600から400ha程度の畑作農家もあります。特徴的な制度を1つ挙げますと、チーズでは生産過程が基準通りなら、プレミアつきで販売できるシステムがあります。政府が特別のラベル表示を許可する形式です。世界最高品質のシャンペンやコニャックの品質と価格も同じような制度で守られています。

 −−食料自給率は?

 ターディ 140%ですから自給率は話題になりません。問題になるのは余剰農産物の価格低下や輸出です。農家数は年々減る傾向です。特に、欧州連合(EU)が、55歳で農業経営を次世代に譲れば優遇するというリフォーム施策を打ち出したので、さらに減少しつつあります。
 それとともに、下院では農家の政治力も落ち込んでいます。これは人口の都市集中によるもので、日本と同じように都市型の国会議員が増えたためです。


◆1軒当たりの農地面積を拡大、生産性向上へ

デニス・ターディ社長
 1957年6月フランス・ブルゴーニュ生まれ。生家は農業。農業工学の学位を取得。その後、マネジメントスクールでマーケティング、ファイナンスなどのプログラム修了。ダウケミカルフランス、チバガイギーフランス勤務などを経て、2000年1月ノバルティスアグロ(株)社長、2000年7月現職就任。

 −−リフォーム施策というのは息子に経営を譲るのですか。

  他人でもよいのです。耕作農地を誰かに貸すことにより1軒あたりの農地面積を拡大し、生産性を上げるのが目的です。

 −−農家の生活は?

 ターディ 大規模農家やシャンペン用などの特別のブドウを作っている農家は豊かですが、反面、苦しい小規模農家もあります。

 −−収入はどうですか。

 ターディ 極端な例かも知れませんが、中山間地に多い小零細農家は最低賃金制レベルの年間100万円ほどでしょう。これは日本の物価水準でいえば200〜300万円くらいですね。それに自給自足だから現金はいりません。大規模農家のほうは600万円から1000万円ほどでしょう。

 −−さて、食料危機の予測があります。その中でアグリビジネスの役割をどう考えますか。

 ターディ この50年、人口の飛躍的増加に伴い農業生産も質量ともに目覚ましく向上しました。その一端には農薬と種子の業界の貢献があると思います。今後の問題は必要な量を環境にやさしい方法で生産することです。当社は持続可能な農業について、いろんな方策を出しています。


◆シェア拡大へ 直接販売体制を拡充

 −−シンジェンタの日本での主な事業活動をご説明下さい。

 ターディ 日本は世界の農薬市場で第2位の規模です。フランスより大きく、当社のビジネスへの貢献度でも第4位ですから、戦略上非常に重要です。当社は世界のほとんどの国で20%以上のシェアを持ちますが、日本では9%に過ぎません。まだまだ伸びる可能性があります。

 −−シェアが低い理由は?

 ターディ 当社の前身の2社が日本の製剤メーカーを通じた販売に重点を置いてきたことに起因していると思います。日本には、当社のような有効成分(原体)のメーカーから原体を購入する製剤メーカーが7社ほどあり、それぞれ商品を開発、販売し、使い方まで指導してきた基盤が強固です。そうした中では、直接市場に食い込む力が弱かったのだと思います。

デニス・ターディ社長

 −−今後は直接販売をどんどん広げていきますか。

 ターディ 合弁会社トモノの株式100%取得で、当社は三社合併の形となり、直接販売の体制を整えました。10月からは営業本部を拡大し、農薬には130人を配置しました。また研究開発部門への投資も増強しました。
  そして製品を製剤メーカーからテイクバックし、直接販売シェア75%を目ざします。去年は50%以下でしたが、今年は65%としました。25%分は製剤メーカーと一緒にやっていきたいと思っています。

 −−JAグループなどのユーザーからは歓迎されても、業界からは評判が悪いでしょう?

 ターディ 製剤メーカーから反発を食らっているのは確かです。しかしグローバルなレベルでは農薬企業の統合・再編成がほぼ終わり、それぞれ直販のために最低限必要な規模に達したと思います。だから製剤メーカーとしては、そうした市場の変化に対応する企業戦略の確立が必要になっていると思います。
 グローバルにみると、農薬企業の前身である化学会社は、医薬事業に比べて利益率の低いアグリビジネスを売りに出したり分離したりし、その結果、農薬事業の合併・再編成が進んだという背景や経過もあります。
 それから、バイエルがアベンティスを買収するということで、私たちは挑戦を受ける形となりました。しかし営業本部が強力になったので、農協や経済連と直接のコンタクトを持てば、例えば当社の水稲における力も十分お見せできると思います。


◆古い製品を新しい製品に置き換えて

シンジェンタジャパン株式会社
 シンジェンタジャパン株式会社(東京都中央区晴海1−8−10)は昨年11月に、世界で初めてのアグリビジネス専門企業シンジェンタ(スイス)が設立されたのに伴い、日本では今年7月にノバルティスアグロ(株)とゼネカ(株)が合併し、シンジェンタジャパンが発足。株主はシンジェンタ(100%)。事業内容は農薬・中間体の研究開発、製造、販売と輸出入。その後、9月には(株)トモノアグリカの株式を100%取得した。
 シンジェンタの事業は農薬と種子の2部門からなり、農薬では世界市場でのシェア20%。2000年の売上高は68億4600万ドル。

 −−パテント切れのジェネリック品をどう考えますか。

 ターディ これは新しい問題ではありませんから処理できます。私たちには、より効果の高い新製品を研究し開発する能力があるし既製品のライフサイクルをさらに改良する手段もあります。革新的な製剤を生み出すこともできるし、ジェネリックに打ち勝つ力を十分に持っています。
 1つのいい例がデュアールという除草剤です。より少ない有効成分で同じ効果をあげ、環境への負荷を減らす技術をノーベル化学賞の野依良治教授の技術を使って実現できました。このように常に古い製品を新しい製品に置き換えています。

 −−日本農業は米国から攻められて市場を開放したところ、今度は中国からの野菜輸入が急増しました。フランスのように農業を強くする上でアドバイスがあればお聞かせ下さい。

 ターディ 常に消費者の視点から始めるべきだと思います。農家は消費者が望む作物と値段を知り、それに応える作物を提供できるようにすることです。また私たちには、安心で新鮮な作物を作る農家の仕事を、お手伝いする使命があると思っています。
 私たちが進めている総合的病害虫管理(IPM)というシステムを進めることも、その1つの方法です。私たちの豊富なポートフォリオを全国の営農指導員や卸、全農、経済連、農協のみなさん方の協力をいただいて推進していけば、高品質の作物を消費者に届けられる農家が生き残っていけると思います。


◆品質の高い農産物をもっと輸出して下さい

 ターディ もう1つ、輸入増加ばかりを心配しないで、反対に輸出できる農産物を考えてはどうですか。例えばカキやナシなどは輸出できると思います。守りだけではなく攻めの体制に移るべきです。日本の農産物は、よその国に比べて非常に品質が高いから、もっと楽観的になって、品質を誇ってもよいと思います。

 −−では最後に、ご趣味について語って下さい。

 ターディ サッカーで日本対フランスの決勝戦を見たいです(笑い)。スキーも好きです。仕事の上からは、ゴルフをもっとやらないといけないと思います。

 −−では、どうも多面的なお話をありがとうございました。



インタビューを終えて
 デニス・ターディさんの日本滞在は2回目。最初はフランスのリヨン大学のMBA(大学院修士)取得の際の研修旅行で日本企業を訪問した。その時は2週間滞在した。今度は、農薬・種子会社の社長として滞日3年目の知日家。
 サッカーファンで、来年のワールドカップでは祖国フランスと日本チームが決勝まで勝ち進んでファイナル試合で当たってくれるのが夢だという。フランス人の奥様と高校生の娘さんと東京に住む。奥様は日本人形が好きで、集めるだけでなく自分でも作る。奥様のお父様が昔、家具職人だったためか、古い家具類に目がゆき、東京の家にはスペースがないぐらいに日本家具が置かれているとか。フランスへ帰国する時はどう処分するのか今から心配という。
 インタビューでは難しい質問にも笑顔で答えて下さった。帰り際、頭を深く下げる日本式お辞儀により、エレベーターのドアが締るまで見送ってくださった。すがすがしい印象だった。 (坂田)



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