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この人と語る21世紀のアグリビジネス


高い技術力でさらにシェア拡大をめざす

水野文雄 近畿酒造精米(株)社長 

 品質が良く安心して使えると灘や伏見の酒造会社から高い評価を得ている近畿酒造精米の社長に今年2月、全農米穀販部長だった水野氏が就任した。そこで氏に現在の状況とこれからの抱負を聞いた。

インタビュアー:坂田 正通 (農政ジャーナリストの会会員)
水野文雄氏

◆酒の雑味を増す部分を徹底的に削るのが酒造用精米

 ――最近の日本酒の売れ行きはどうですか。
 水野 昭和48年から50年頃がピークでそれからずうと毎年4〜5%づつ落ちていますね。
 ――その原因は何ですか。
 水野 アルコール類の総量としては落ちていないと思いますが、ワインとか焼酎とか消費、趣味の多様化の影響だと思います。それは、食生活が洋風化したり、外食が増えるとかしているためで、ある面では避けられないことではあると思います。
 昔はお祭りとか結婚式、お葬式とかいろいろな場面で日本酒が飲まれましたが、車の普及で飲まれなくなっています。これも大きいですね。
 ――酒造用のコメにはいろいろありますが、どういうコメが酒造好適米といえるのですか。
 水野 コメの真ん中が白いんですが、これは細かい気泡が集まっていて光の乱反射で白く光って見えるんですね。この芯白のでかたで酒造りに適しているかどうかが判断されます。そういう意味で、兵庫県産の山田錦が一番酒造りに適しているとされているわけです。

水野文雄氏
(みずの ふみお)昭和20年愛知県生まれ。名古屋大学農学部卒。昭和44年全農入会、61年名古屋支所米穀部米麦課長、平成元年大阪支所米穀部主食課長、4年大阪支所米穀部長、6年本所米穀販売部集荷対策課長、7年東京支所次長、9年本所米穀販売部次長、11年本所米穀販売部長、13年近畿酒造精米(株)社長就任。

 ――なぜコメを削るんですか。
 水野 玄米の表皮に近いところにいろいろな微量要素があって、それが酒の雑味を増すので、酒造りには不向きな部分を削ってしまうわけです。だいたい60%くらい、つまり40%くらい削ればいいといわれています。私のところで最高は35%(65%削る)ものもあります。
 ――削るための技術は主食用の精米とは違うんですか。
 水野 主食用精米は玄米に金剛砂のローラーでキズを付けて、後はコメとコメが摩擦をして精米するわけですが、これだと高精白にするとコメが割れてしまいます。酒米用は金剛砂を焼き固めたローラーで削っていくわけです。最初は早いスピードで削りますが、そのままだと割れるので芯に近づくほどゆっくり回して削っていきますから、35%までに削るには連続で90時間かかります。
 
◆江戸時代からアウトソージングしてきた酒造業界

 ――原料になるコメは直接買い入れされるんですか。
 水野 いいえ。基本的には酒造メーカーが購入された自主流米の精米を委託されているんです。酒造メーカーさんは早い時期にアウトソージングをしている世界です。江戸時代から300年、350年の歴史がある酒屋さんがありますが、酒造りが行われる寒い時期だけ杜氏さんを雇う仕組みになっているわけです。1年中雇えばコストがかかりますからね。300年も前からそういう仕組みをつくった酒造業界は、考え方の進んだ業界だと私は思いますね。
 同じように、半年しか造らないのに精米の装置をつくったり人を雇うのはコストがかかりますから委託してきたわけです。
 ――近畿酒造精米が設立されたのどういう経緯でですか。
 水野 杜氏には酒造りをする人と精米をする杜氏がいるんですが、精米杜氏が高齢化してきたこと、機械が老朽化してきますが更新コストがかけられない、騒音や糠などの公害問題とかがでてきて、集約して共同精米したらどうかという話がでてきて、当時の全購連と兵庫経済連、京都経済連が中心となって昭和46年に設立されました。

◆日本酒1ダースに1本は同社で精米したコメが

 ――機械設備はどれくらいありますか。
水野文雄氏
 水野 1台に30俵入れるのですが、それが灘工場に40台、京都工場に23台あり、コンピュータ制御で自動化されています。
 ――年間にどれくらい取り扱っているんでしょうか。
 水野 昨年度で78万俵ほど精米しています。最高時は116万俵ありましたから、70%くらいになっています。しかし全国の酒米はピークの50%台になっていますから、健闘しているかなと思っています。灘、伏見を中心に、東は関東から西は四国あたりの酒造会社から委託を受け、全国で12〜13%のシェアをもっているわけです。言い換えれば、全国で売られている日本酒の1ダースの中に1本は近畿酒造精米で精米したコメが使われているお酒ということになるわけです。

◆JAグループの受け皿としての用意も

 ――JAグループにはほかにも酒造用精米工場がありますね。全農の統合が進んでいますが、こういうところとの関係は今後どうなるんでしょうか。
 水野 JAグループには自県産米を酒用に使ってもらうために精米している県が西日本には多いですね。主食用工場の脇に酒米用を数台置いてね…。これは精米が目的ではなくて、酒米を買ってもらうためのサービス、販売努力として各県がやっているわけです。
 しかし、ここにきて機械も古くなってきたこと、販売量が減りコストがかかるようになってきています。そしてパールライスが経済連から独立した会社になってきましたから、赤字の部門を引き継ぐわけにはいかないが、止めればその県の酒造メーカーが困るし、集荷に影響が出るおそれもあります。そこで、同じグループの近畿酒造精米で引き受けてくれないかという話が何県かからあります。経済連が事業継承を希望するのであれば、事業の受け皿になろうと考えています。酒造メーカーが商社と合弁でつくっている精米工場もありますから、そういうところが受け皿になると集荷にも影響がでてきかねないという問題もあります。
 ――今年30周年の式典をされたそうですね。
 水野 今年創立30周年を迎えましたが、水とコメが原料の酒屋さんが30年とか20年間わが社に精米委託して下さったお陰でここまでこれたので、おこがましいのですが感謝状を差し上げました。

◆自社責任で精米を販売することも視野に

水野文雄氏

 ――これからの抱負をお聞かせください。
 水野 阪神淡路大震災で工場が半壊という認定を受けましたが、10年に灘工場を新しくしました。そのお陰もあって品質的には他社と比べて安心して使えるという評価をいただいています。全体の米の使用数量は下がっていますが、わが社のシェアはまだ12%程度ですから、これを財産にまだまだ伸ばしていく余地があると考えています。
 最近はインターネットで酒も販売されていますが、消費者からどこで精米していますかといった質問もあるようです。酒造メーカーが消費者に胸を張って見せられるような清潔な工場にすることで、酒造メーカーへの間接的な応援になると考えています。
 そのためには、食品工場としての意識を持ち、品質管理、衛生管理を強化することが重要と考えています。
 また、いまは酒造メーカーから委託されていますが、自社でコメを仕入れ、自社の責任で酒屋さんの要望に応えた精米を販売をしていくことも目指していきたいなと考えています。


インタビューを終えて
 水野さんは全農の前身、全販連名古屋支所の米穀部に昭和44年入会、以来ずっと米畑を歩き、途中東京支所次長の時だけ2年足らず米から少し離れていたと笑う。最後は本所米穀販売部長にのぼりつめたから、米のことなら何でも知っている。今年、精米会社の社長に迎えられたのも順当。
 酒談義が面白かった。銘柄にもよるが本醸造酒とは醸造用アルコールを添加したもの。だが、いまどきの醸造用アルコールはお米を原料としているものが多い。中味は純米酒とあまり違わないとのお説。安酒を飲んでいる身としては安心した。水野さんは名古屋市内の老舗質屋の長男。律義である。隣県三重からお嫁さんを貰って2男2女の子宝に恵まれた。27才の長男を頭に年齢は3つおきの間隔、4番目の娘さんは18才高校生。家族は名古屋に住み水野さんは神戸に単身赴任中。取引先、酒造会社とのお付合いはゴルフ、時々90を切る腕前。(坂田)


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