農業協同組合新聞 JACOM
   
この人と語る21世紀のアグリビジネス
微生物の活用で「環境」を柱に事業を推進
出光興産(株) 執行役員・アグリバイオ事業部長 四位敏章氏
インタビュアー 坂田正通本紙論説委員

 出光興産(株)のアグリバイオ事業部は昨年4月に発足した。発足と同時に赴任した四位部長は、石油化学部門で合成樹脂製品など新規事業の立ち上げを担ってきた。農業分野は初めてというが、長い経験から「自分の足で歩いて現場を理解する」を実践し事業部を引っ張っている。微生物を活用し安全な防除、元気な土づくり、健康な畜産などに貢献をめざす同事業部の今後の展望とJAグループに対する期待を聞いた。

◆作業服で農業の現場回り
よつい・としあき
よつい・としあき
昭和24年鹿児島県生まれ。福島県立郡山商高卒。43年入社。化学製品部製品課長、化学販売部プロテイン課長などを経て平成12年出光テクノファインプロテイン事業部長、14年出光テクノファイン常務、15年同社代表取締役社長。17年4月から現職。

 ――事業部発足で最初はどこから手がけられましたか。

 「とにかく北海道から沖縄まで農家の方々の現場に出向きました。自分の足で歩いて理解する、が信条ですから。地方ではほとんどレンタカーを借りますから車のなかで作業服に着替えましてね。畜産農家も訪ねましたが、あるとき現場でたい肥づくりまで見せてもらって、その足で東京に戻りお客さんと懇親する機会があったんですが、私は少し離れて座った。なぜだと言われましたが、ちょっと靴に匂いが、と(笑)。ただ、こういう体験から現場が実感として分かっていきましたね」

 ――アグリバイオ事業部には4部門あるそうですね。

 「微生物を利用した農薬、土壌改良材が柱の農業資材分野と、家畜に与える生菌剤などの畜産資材分野、それからゴルフ場を中心とした緑化分野、健康食品などのヘルスケア分野です。
 いずれの分野も微生物応用技術がキーワードです。それも遺伝子組み替え技術などを使わないで自然界から有用な微生物を選抜して使うというのが基本的な考え方です」

◆自然界の微生物の力に着目

 「農業資材分野では最初に『Drキンコン』を平成4年に発売しました。これは「VA菌」という菌で水分や温度などの条件がそろうと芽を出して植物の根のなかに入っていくと同時に土のなかにも芽を伸ばしていきます。ですから土のなかから養分を吸い上げることで植物を健全に生長させたり収穫量を上げることにつながるわけです。
 畜産資材は旧出光石油化学が以前から開発しており、ある納豆菌を牛、豚、鶏に与えると元気に育つことから、これを「モルッカ」という生菌剤として平成7年に発売しています。要は人間にとってのヨーグルトですね。また、低温でも活動する微生物も持っていて、これを利用し寒冷地でもたい肥化を促進できる資材も扱っています。分かりやすくいえば冷蔵庫のなかでも旺盛に増殖する菌です。
 緑化事業はゴルフ場が中心ですが、やはり微生物技術を活かした「イデコンポ」という商品があります。これは芝の刈りかすが芝目の間に溜まって分解されないまま分厚くなったサッチ層を分解する納豆菌を入れたものです。サッチ層は病原菌、害虫の温床になりますから、最近ではサッカー場や日本庭園での試験的な導入も始まりました」

◆病害発生防ぐ「ボトキラー」

 ――微生物農薬の開発、普及はどうですか。

「最初に開発したのが『ボトキラー』です。これもまた種類の違う納豆菌ですが、トマト、ナス、イチゴをはじめ対象は多くの野菜類に広がっています。もともと納豆菌で安全なものですから、ハウス内の暖房機の送風によって粉のまま散布するダクト散布という施用方法で登録も特許も取りました。暖房機はだいたい夕方になると動かすわけですが、そのときに送風口から同時に細かい霧のような粉末が散布される。ですから省力化につながります。
 また、灰色かび病やうどんこ病は水分が病気を広げてしまうのですが、水和剤散布では水分も同時に与えてしまうことになりますね。しかし「ボトキラー」なら粉末のままの散布です。病気の発生そのものも抑えハウス全体に納豆菌が住み着き環境改善にもつながるわけです。
 この方法なら夜中でも散布できるわけですから、私たちは自動投入機を開発し、今年度は50軒の農家の方々に提供してハウス栽培のビジネスモデルを作ろうとしているところです。今までは暖房機を動かす時間になったらその都度ダクトに「ボトキラー」を入れていたわけですが、この自動投入機の試みの成果が上がれば来年度は大々的に打ち出していこうと思っています」

 

国産農産物のPRと販売力をJAグループに期待

 

◆自動投入機で省力化実現

よつい・としあき

 ――普及を進めるための工夫は何かされていますか。

 「『ボトキラー』は病害虫が発生する少し前から散布しておくもので、病気が発生してしまってから散布しても効果はありません。ただし散布してあれば、かりに病気が発生しても化学農薬による防除回数が、たとえば半分にできるという点を理解してもらうことなどが大事ですね。
 同時にやはりお客さんに提供するときに、こういうものがありますから使って下さい、ではだめだということです。いちばんいい使い方まで提供しないと。たとえば、ダクト散布といっても、夜中に起きてダクトの中に投入して下さい、では使ってくれませんね。だから自動投入機まで開発して提供しようということなんです。
 微生物防除剤は減農薬栽培にも土を元気にすることにつながる、いわば安全・安心、健康に応えるものだと思います。JAグループにはIPMを積極的に進めてほしいと思いますが、その一部として微生物農薬も取り上げていただればと思いますね」

 ――ところでJAグループは全農をはじめ改革を進めていますがどう期待しますか。

「JAグループというのは農畜産業という第1次産業の旗振りですね。目に見えるかたちで業界を引っ張っていってほしいと思います。とくに期待したいのは、農業生産についてはいろいろな知見をお持ちだと思いますが、やはり日本の農業にとって地産地消など消費者自身が国産を選ぶことが大事ですから、そのピーアールを積極的にしてくれるのがJAグループではないかということです。作ったものをその県の特産品として自信を持って日本全国にピーアールできるというシステムをつくっていけば生産者の方にもっと喜ばれると思います」

◆バイオマス利用も課題

 「それから農畜循環事業です。JAグループも取り組みを進めていると思いますが、たい肥づくりにしても耕種農家の人たちが使いやすいものに作り上げるということが大事だと思いますね。単に家畜のふん尿を集めてきて発酵させ、さあ使って下さいというのでは作物によっては使えないわけです。使いやすく肥料化するよう突っ込んだところまで考えた事業ができるのはやはりJAグループだと思います。たとえば、トマト用はこれ、きゅうり用はこれ、というところまでの事業体制を構築していくことが日本の農業を残すことにもなると思っています」
「JAグループだけの課題ではないと思いますが、休耕田の活用も大事ではないでしょうか。それを集約してたとえばバイオマス利用の植物を生産するといったことができないか。そうなれば一般企業からも人や智恵が出てくるでしょうし。
 今、日本の石油系プラスティックの20%を生分解性プラスチックに替えると年間3300万トンのトウモロコシが必要になるんです。それは世界の生産量の4.6%という膨大な量ですが、一方で何十万ヘクタールもの休耕田があるというのはもったいと思いますね」

 ――その点は国民もみなそう思っているでしょう。
    さて事業の今後はどう見通していますか。


 「出光興産は石油事業を柱にしていますから、やはり環境事業をやっていかなくてはいけないと思っていますが、その先頭に立つのがアグリバイオ事業部だと考えています。そう考えると将来は農業、ゴルフ場といった分野にとらわれず全体を環境事業として捉え、そのなかに農業もあるという事業になるのではないかと思っています」
 
――ありがとうございました。

 


インタビューを終えて  
 四位(よつい)部長は農薬業界へ来て間がないのでと謙遜されながらも、インタビューに応じてくれた。子会社から本社へ、執行役員事業部長として呼び戻されたのには理由がありそうだ。
 巨大企業が微生物農薬を主製品とするアグリバイオ事業部を立ちあげたのは、現在は小さくとも将来に大きなビジネスチャンスがあるのではないかと想像したくなる。この1年の間に北海道から沖縄までの日本全国、車にジャンバー、長靴など着替えを積み込み、農家やJA、小売店を精力的に歩いて農業現場を勉強したという。土地が疲れているし、全国の休耕田を何とかしたいという。
 趣味の読書は、津本陽の描く、戦国武将の活躍する歴史もの、中でも信長が好きで20年来読んでいる。ヘラブナ釣りは川面の浮きを見ていると全てを忘れる。川の護岸工事のやり過ぎか、環境の変化でこの頃のヘラフナは小振りになっている。娘さん3人。結婚されて一人は家を出たが、家族みんなお父さんを大好きという。
(坂田)

(2006.12.13)

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