農業協同組合新聞 JACOM
   
この人と語る21世紀のアグリビジネス
「食のパストラル」としてハピネスなサービスを提供
株式会社 パストラル 代表取締役社長 宮ア賢二郎氏
インタビュアー 坂田正通本紙論説委員
 (株)パストラルは、総合的なホテル経営を核とする企業活動を通じて、母体である農林漁業団体とその役職員や利用者に、経営理念でもあるハピネスサービスを設立以来提供し続けている。そこで最近の同社の状況やこれからの取組みについて 宮ア賢二郎社長に聞いた。

株式会社 パストラル 代表取締役社長  宮ア賢二郎氏
みやざき・けんじろう
昭和23年4月群馬県生まれ。東京農業大学卒。昭和46年JA全中入会。総務部次長、組織経営対策部次長、農業対策部次長、教育部長を経て、JAビル管理会常務、平成18年(株)パストラル社長。

◆年間100万人を超える人が利用

 ――虎ノ門パストラルの年間利用者はどれくらいですか。

 「年間100万人を超える人が利用しています。18年度の内訳をみると、宿泊が11万8000人、会議が33万人、宴会が20万人、レストランが33万8000人、婚礼が1万5000人となっています。利用客数は前年度よりも増えています」

 ――そのうち農林漁業団体関係の人はどれくらい利用していますか。

 「全体の数字は把握していませんが、宿泊客のうち1万4000人が農林漁業団体の役職員と年金受給者の方々です。最近は航空券と宿泊がセットになったものがあり、これは役職員、年金受給者の数としてカウントしていませんので、実数としてはもっとあると思います。宿泊以外の会議などでは、農林漁業関係団体の利用は多いですね」

◆平成12年に農林年金福祉団から事業を継承

 ――経営の主体が(財)農林年金福祉団から(株)パストラルに変わった理由はなんだったのでしょうか。

 「昭和37年に、農林漁業団体に勤務する役職員と年金受給者の福祉増進をはかる事業を経営することで、農林漁業団体の事業の発展に寄与することを目的に、(財)農林年金福祉団が在京の農林漁業関係中央団体によって設立されました。その後事業は拡大され、京都・別府・大山・南熱海・東京・蔵王・白石・定山渓・湯河原など全国で最大13ヶ所の宿泊施設と東京学生寮を受託経営してきました」
 「その後、農林年金は厚生年金との統合を受け、独立採算経営の見込みのある虎ノ門パストラルと南熱海の2施設が(株)パストラルに経営委託され、その他の施設は地元の構成団体や民間企業に譲渡されました。平成14年1月に京都会館を最後に施設譲渡が終わりました。その後平成16年5月、南熱海も売却されました」

 ――(株)パストラルが設立されたのはいつのことですか。

 「平成12年9月に(財)福祉団の事業継承の受皿として農林漁業団体の振興と役職員等の福利厚生に寄与するとの系統団体の賛同を得て設立され、同11月から本格開業いたしました」

 ――虎ノ門パストラルの土地や施設は自社所有ですか。

 「土地・建物は農林年金の所有物で、農林年金の委託を受けて、私どもが事業経営しています」

 

田園の安らぎと憩いのあるサービスをめざして

 

株式会社 パストラル 代表取締役社長  宮ア賢二郎氏

◆手づくり料理などサービス向上で利用者が増えてる

 ――虎ノ門パストラルはホテル業ですが、当初は地方から上京してくる農林漁業関係者の宿泊施設だったわけですね。
 「農林漁業団体の役職員と年金受給者のための総合ホテルとしてつくられ、かなりの実績をあげてきています。また最近では民間の方々の利用も増えてきています」

 ――経営的にはどうですか。

 「パストラル従業員の日々の努力により、収入は順調に伸びており、年間50億円程度を売り上げています。18年度では2億2000万円の利益を予定しております」

 ――宿泊とか会議の売り上げに占める割合はどれくらいですか。

 「会議と宴会で52%、宿泊が18%、レストランが11%、ブライダルが10%、外販その他が9%という割合です」

 ――虎ノ門という立地も良く、サービスも食事もいいわけですから、営業努力をそれほどしなくてもいいですね。

 「いいえ、やはり営業努力は必要です。いま16名の営業部隊がいて、農林漁業団体はもちろんのこと近隣の企業へのセールス活動を行っています。このセールス活動がなければ現在の売り上げは確保できません」

 ――足で稼いでいる…

 「とくに宴会とか会議では大きな役割を果たしていますね」

 ――利用客が増えている理由は何だと思いますか。

 「ホテルはサービス業ですから、サービスが少しずつでも良くなっているからではないかと私は思っています」

 ――景気がよくなったといわれていますが、そういうこともありますか。

 「そういう経済的な背景はあるとは思いますが、サービスが良くなければ利用客は増えません。『食のパストラル』をアピールし、「美味」「ヘルシー」「リーズナブルな料金」でお届けしています。そして目に見えることではありませんが、配膳から会計までのサービスも満足いただける状態にあるから、利用客が増えているのだと思います」

 ――「食のパストラル」のセールスポイントは何ですか。

 「ホテルによっては加工品を使うところがあるようですが、パストラルではできるだけ国産食材を中心にして、素材から一つひとつ手づくりした食事を提供しています。また、厳選した旬の素材でつくる季節感あふれるメニューが人気です」

 ――いま東京のホテル業界は新しいホテルもどんどんできて競争は激しくなっていますね。

 「新しくできているホテルは高級化志向ですね。パストラルは、どちらかというと高級ホテルとビジネスホテルの中間的な位置づけになりますから、直接的には大きな影響はないと考えています」

◆土地・建物が売却されても継続できる事業基盤を確立

 ――これからの課題としてはどういうことがありますか。

 「ここの土地・建物を今年中に農林年金が売却をする予定になっています。私どもは土地・建物を借りているわけで、営業基盤がなくなってしまうということが一番の問題です。いまのところ、売却されても2年間はホテル営業ができるという条件付で売却するということをお願いしています」

 ――その後はどうなりますか。

 「社員が190名いますから、2年経過した後もホテル事業を続けられる営業基盤を確保していきたいと考えていますし、それについても売却条件に入れられないかともお願いしているところです」

 ――最近は大きな物件だと外資が買うケースが多いですね。

 「外資が買った場合、パストラルの取り扱いについてどういう提案をしてくるかという不安はありますが、いまの心境をいえば、悲観もしていないし楽観もしていないということです」

 ――農林漁業団体の役職員がいたからできた施設ですから、なくなるのは寂しいですね。

 「これから新たにこうした施設をつくるのは容易ではないと思います。いま経営理念として、安全で安心なサービス、田園の安らぎと憩いのあるサービス、農林水産業とその団体役職員の発展と福祉の向上に貢献するという『ハピネスサービス』を掲げて、他のホテルではできないような事業を展開しています。これを具体化して、『パストラルに行って良かった』といわれるサービスを行い、人が来れば利益は自ずから付いてくると思いますので、そのための知恵をみんなで出して、事業が存続できるように努力をしていきたいと考えています」

 ――今日はお忙しいなかありがとうございました。


インタビューを終えて  
 宮ア社長は、群馬県中之条町の出身。父は農協組合長、中之条町町長を歴任された宮ア太一郎氏、群馬県連会長を長らく務めた故宮崎貴氏は遠縁に当たる。長男は残って農業を継ぎ、次男の賢二郎さんは東京農業大学で勉強し、全中に職を得た。典型的な農業協同組合一家である。まあ、立場が違えば、株式会社パストラルの「サービス事業」にもなじんで来ましたと言う。パストラルの施設は立派だが一流ホテルとビジネスホテルの中間に位置けられる。このところ毎年利益が出ている。利用者は年間約100万人、霞ヶ関が近いから官公庁関係の利用も多いし、近隣の会社が主なお客で、農協役職員の利用は2割を切る。農林年金受給者などはホテル代25%の割引制度があるのにあまり知られていない。
 農林年金の保有不動産の有効活用という一連の施策の中で家主の農林年金がこの5千坪の敷地を売却する予定という。土地売却後も、(株)パストラルの営業が続けられる「姿」を目指す。埼玉県入間市に次女と夫人に囲まれて自宅がある。趣味はゴルフ。(坂田)
(2007.5.7)

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