農業協同組合新聞 JACOM
   
この人と語る21世紀のアグリビジネス
新たなニーズに応え幅広い業務を展開中
(財)日本穀物検定協会理事長 伊藤元久氏
インタビュアー 坂田正通本紙論説委員
 食品メーカーなどの不正表示事件が多発し、「表示を信用していない」という消費者が増えている。信頼回復をどうするかが問われている中で伊藤理事長は日本穀物検定協会のような「公正な第3者機関が安全安心の裏づけを確認しているという“差異性”の発揮を生産・流通サイドの“売り”にしていただく時代ではないか」と穀検の存在意義を強調した。また同協会が開発した『米の情報提供システム』について「検査・検定・分析した結果を安全で安心できる情報としてできる限り多く消費者に知らせることで販売支援していきたい」などと語った。


第3者機関の活用で「表示」の信頼回復を

(財)日本穀物検定協会理事長 伊藤元久氏
いとう・もとひさ
昭和24年3月栃木県生まれ。宇都宮大学農学部卒業。46年農林省入省、食糧庁計画流通部業務流通課長などを経て大阪食糧事務所長、平成13年退官。同年(財)日本穀物検定協会業務I 部参事に就任。14年常務理事、18年6月理事長。

◆ルーツは江戸時代

 ――日本穀物検定協会の歴史は古いのですか。

 「穀物などの正確な検量と品質の判定を行う技術能力を持つ第3者機関として昭和27年に(社)東京穀物検定協会が設立されました。続いて各地に協会ができましたが、全国的に検定方法の統一と技術の向上を図ることなどが必要となり、30年に現在の形に統合されました」
 「穀検のルーツは江戸時代にあります。江戸、京都、大坂では幕府の蔵奉行配下が上納米の収納に当たって米の容量と品位を検査していました。このほか江戸には米の受け渡しに立ち会い、検査だけでなくトラブルの解決にも当たる『小揚師』と呼ばれる業者がいました。東京穀検の創立時には『小揚』の流れを汲む経験者10余人が採用されたという歴史もあります」

 ――協会の事業拡大はどのように進んだのですか。

 「「発足時は政府米の出庫検定、卸小売倉庫での入庫検定、輸入食糧検定の3業務でしたが、現在は40種類以上の検査・検定、分析業務を幅広く実施しています。事業を通じ、一貫して公正な第3者機関の役割と使命を果たしてきたと思っています」
 「しかし制度依存ではない事業展開が求められている今は国の代行業務は行わず、補助金や委託費も一切受けていません」
 「全国組織を継持しつつ人員を削減し、かつての1300人体制から現在は450人体制です。しかし理化学分析など発展部門の施設や人材は充実させています」

 ――JAグループから依頼される仕事は多いのですか。

 「例えば全農と米卸の間に立って産地から卸倉庫に米が届いた時に米穀検定をして、受け渡しを円滑化しています。私どもの顧客はJAから小売店、外食産業、輸入商社など川上から川下にわたっています。輸入農産物は商社の依頼を受け、水際で検査しています。対象は飼料穀物・麦・大豆・MA米などです」

◆食味ランキングも

 ――同業他社との競争はどんな状況ですか。

 「当協会には永年培った鑑定眼とかノウハウ、またクレームがついた時の処理能力などがありますが、このような技術を持った専門業者は他にありません。だから当協会は民間で唯一の第3者検定機関だといえます」

 ――今年度事業の重点や特徴は?

 「農産物検査の民営化に対応し、6年前に第3者検査機関の登録第I 号となって新たなニーズに応える業務展開をしています。また最近ではJA農産物検査員の養成指導の他、JAS認定や、近年盛んな地域ブランドづくりのための認証などを実施しています」
 「安全安心確保の業務には理化学分析があります。残留農薬のポジティブリスト制に対応して最高水準の分析能力を整備しました。米のカビ毒(アフラトキシン)や麦のカビ毒(DON)、カドミウム等の重金属分析や遺伝子組み換え(GMO)作物のチェックもしています」
 「それから米の品種鑑定(DNA鑑定)や農産物などの成分分析を実施、さらに米の食味試験では46年から産地銘柄別にランキングを公表しています」

 ――試験はどのように?

 「官能試験と理化学分析の両面から評価しています。評価の基準米は複数産地のコシヒカリのブレンド米です。ランクは5段階で最高が「特A」です。18年産米のランキング結果では、産地銘柄122のうち特Aは17です。生産者にとって特Aの評価を得れば励みになると思います」
 「官能試験で全国統一的にランクづけを実施しているところは当協会だけです。この公益事業は当会の本来業務になっています」

 ――特A米を作るにはどんな要件が必要でしょうか。

 「まずは品種ですね。実際に特Aの7割はコシヒカリ系です。そして生産指導の徹底、それから栽培条件です。一般に多収化を図るとタンパク含有量が上がりますから、食味向上のためには単収を抑えることも重要です」
 「最近は地球温暖化や台風の影響で西日本に病虫害が発生するなどして九州を中心に特Aが出ていません。ここ何年かの傾向を見るとAランク以上の産地は東へ移っています」

◆販売支援していく

(財)日本穀物検定協会理事長 伊藤元久氏

 ――ランクづけは産地間競争を激しくしますが……

 「確かにそうです。競争に拍車をかけたかなという反省があります。しかしブランド化は販売戦略上の重要な要素です。このため最近は、こだわり米とか地域ブランドの掘り起こしに貢献できそうな新品種を参考品種としてランキングに織り込んでいます。昨年は5品種を挙げました。今後も全体を絞り込みながらご要望の参考品種を広くリストアップしていきたいと思います」

 ――消費者向けの業務についてはいかがですか。

 「『米の情報提供システム』というのを平成16年に開発しました。ご利用が増えています。精米袋にホームページのアドレスを表示し、そこへアクセスすると食味、銘柄、安全性などの情報が得られるという仕組みです」
 「消費者が米を選び易いようにして、食味の良い米を作る生産者が報われるようにしたいという趣旨です。今年からは情報量をさらに豊富にします。とにかく当会が検査・検定・分析した結果をできる限り消費者に知らせ、少しでも商品の付加価値を高めて販売支援をしていきたいと努力しています」

 ――それにしても最近は食品の不正表示事件が多いですね。

 「消費者アンケートでも表示を信用していないという回答が増えました。どう回復するかが課題ですが、公正な第3者機関が安全安心の裏づけを確認しているという“差異性”の発揮を“売り”にしていただく時代だと思います」

 ――中国の輸出農産物も安全性が問題になっています。最近、特に話題になっていますね。

 「中国には国家機関で検検総局(AQSIQ)という組織があり、当会とは農産物検査の技術交流を四半世紀に亘り続けています。さらに交流を深める必要があり、当会は昨年11月に北京に初めての海外事務所である連絡事務所を設置しました。これからも相互に交流を深め安全性確保のために努力をしていく方針です」

◆自給力向上が重要

 「当会には韓国からも毎年見学者がきています。日本の米が高品質なのは穀検が検査業務や食味ランキングの情報を産地にフィードバックさせているからだと見ているのです」

 ――DNA鑑定やGMO鑑定についてもう少し説明を。

 「米の品種鑑定では医療分野で使われている最新鋭のSNPs法を用いてDNAを解析しています。低コストで迅速に多点数が分析できるようになりました。輸入GMO作物についても水際でチェックしています。国内では一部のJAから大豆の種子を供給するに当たってGMOが混じっていないか確認してほしいといった依頼もあります」

 ――最後に日本の食料自給率が40%を切ったことについて、ご意見をお聞かせ下さい。

 「世界の人口は増え続け、特にブリックス(BRICs)諸国などの消費量が急増しています。一方で食料生産の環境は地球温暖化や異常気象などから悪化の一途です。食料事情は先行き非常に深刻です」
 「したがってこれまでのような輸入への依存は難しく、安全安心なものが買えなくなると思います。いろいろなことを考え合わせると、日本が海外から食料を容易に調達できない時代がくるのは目に見えています」
 「そこで日本として国内で生産できる作物を増やすことが重要です。世界の大きな流れのなかで真に自給力を高めていくという基本戦略がないといけません。今こそ国民総意の努力が必要だと思います」

 会社概要
財団法人日本穀物検定協会(東京・日本橋兜町) 業務は品質・安全性の確認農産物検査米関連業務輸出入穀物検定業務飼料・包装証明業務食品検査米の食味試験その他。組織は全国に支部・支所が計6ヵ所と中央研究所、東京分析センター。

インタビューを終えて  
 「お米の食味ランキング」を発表しているのが財団法人 穀物検定協会、業界では「穀検」と通称される。江戸時代上納米をお蔵に入れる際、米の容量・品位の着地検定、“小揚(こあげ)”にその発祥の由来があるという。業務内容も変遷し、現在は食の安全・安心のため理化学分析が多くなっている。
 伊藤理事長は、栃木県旧今市市の農家の長男として生まれた。大学卒業後、直ぐ農水省へ。霞ヶ関、名古屋、大阪に30年。「穀検」へ移って、東京練馬区の現住居から週末は栃木の実家へ金帰月来。農業はご両親が最近まで続けていたが現在は担い手農家へ委託している。ご夫人が栃木の実家でガーデニングをしつつ米粉による発芽玄米パン、味噌などを作って販売した、その名は「リ・ファリーヌ(米粉)工房」。ご近所に好評のため張り切り過ぎで、追いつかず只今休業中。再開を模索とか。一男二女。趣味はハイキングなど小旅行とゴルフ。(坂田)

(2007.9.11)

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