農業協同組合新聞 JACOM
   

検証・時の話題

ニッポンの未来エネルギー

コメ原料のバイオエタノール製造へ
JAにいがた南蒲とJA全農の挑戦

新潟県で実証栽培がスタート

「北陸193」の作期はコシヒカリより遅い。田植えも刈り取りも同じ機械が使える。開花期も違うため交雑の心配もない
「北陸193」の作期はコシヒカリより遅い。
田植えも刈り取りも同じ機械が使える。
開花期も違うため交雑の心配もない
 コメを原料としたバイオエタノール製造と利用の事業化をめざして、新潟県のJAにいがた南蒲(小川政範組合長)とJA全農が昨年から調査事業に取り組み、今年は原料イネの実証栽培を始めた。将来のエネルギー問題を解決するため、日本もサトウキビを原料にしたバイオエタノール製造の試験的な取り組みを行なっているが、わが国の主要作物であるコメを原料にした試みは初めて。水田から食料だけでなく、エネルギーも生産し地域で利用する循環モデルづくりを事業として実現することを目標にする。地域の水田を守り、環境、エネルギー、農業という21世紀の重要な課題に貢献する事業として、地域の生産者にも意欲が高まっている。

 ◆超多収品種「北陸193」を作付け

菊池武昭さん(右)と実証栽培を担当するJAにいがた南蒲営農部の小師達也さん
菊池武昭さん(右)と実証栽培を担当する
JAにいがた南蒲営農部の小師達也さん

 新潟県見附市傍所町の水田の一画に「バイオエタノール原料稲栽培実証ほ場」の看板が立てられている。看板には「未来のエネルギーへの挑戦」の文字も。
 5月18日に田植えをし順調に生育している。品種は北陸農研センターが開発したインディカ系米「北陸193号」だ。同センターの試験栽培では10アール800kg超という超多収量米であることが確かめられている。コシヒカリに比べて作期が遅いため同じ機械が使えるし、交雑の心配もない。JAにいがた南蒲が生産組合の代表者2人に栽培委託をし、今年は合わせて約80アール作付けした。もうひとつのほ場は三条市にあり、安達宰さんが担当している。
 傍所町で栽培するのは菊池武昭さん。「インディカ米の栽培はなにせ初めて」だが、稲からエタノールを製造するという話を聞いたとき「地域の農業も、地球を救うのも、これしかない」と思ったという。
 田植えにも収穫にも特別な機械はいらず、主食用のコシヒカリなどとの違いはできるだけ収量を上げるために密植することぐらい。病害虫防除などの管理も特別なことは必要としない。
 今年、秋に収穫した後は、JA全農が長期間保管した場合の品質調査を1年間かけて行うことになっている。

◆生産者にも意欲生まれる

収入を上げるために密植をする
収入を上げるために密植をする

 今年の栽培実証に先立ち、JA全農は昨年、JAにいがた南蒲地区を対象にしてバイオエタノール原料稲によるエタノール製造と利用についての調査事業を行った。
 調査内容は▽地域の生産者代表への原料稲の生産意向とエタノール混合ガソリンの利用意向の聞き取り、▽原料米の保管方法と品質保持、▽籾殻を利用した発電によるエタノール製造プラントの設置条件、など。調査には、三井造船やサタケなども技術面で参加した。
 JAにいがた南蒲は、水田単作地帯で畑作物への転換がなかなか難しく、同JAの小川政範組合長は以前から水田を水田として使える米によるバイオエタノールの製造と地場での消費の可能性を探ることに積極的だったことから、同JAと全農が連携して取り組むことになった。
 生産者の意向を聞くにあたって、全農では単収800kg超という超多収米の栽培であることと、作付け規模15ヘクタールでの超低コスト栽培から費用を試算し、収支を提案した。生産者の作業は収穫まで。乾燥調製のコストはかからないことも含めて算出した。
 問題は原料玄米が1俵あたりどの程度の販売価格になるかだが、全農ではエタノール製造工場の収支も試算し、1俵1200円を示した。ただ、この単価では10アールあたりの収支は2500円程度のマイナスになってしまうという試算結果も明示した。
 こうした説明を受けて菊池さんらは栽培実証事業に協力することにしたほか、意向を聞いた21の生産者組織代表の多くは、補助金などの一定の条件が整えば、将来はバイオエタノール原料稲を生産してもいいと答えた。また「新たな転作作物として位置づけでほしい」という意見もあった
 人口減少などで米の消費量が長期的には減ることが予想されるなか、地域に合った転作作物がない地域では「今後、耕作放棄が増えることも心配される。不作付け水田の解消は各集落で大きな課題になるかもしれない。この事業実現に期待したい」と菊池さんは話す。

◆めざすは完全バイオマス利用

実証ほ場に設置された看板。栽培記録を記入していく
実証ほ場に設置された看板。栽培記録を記入していく

 バイオエタノールを製造するプラントについての推計調査結果では、1万5000トンの原料米を使うと、現在の製造技術レベルで年間6700キロリットルのエタノール生産ができることが分かった。
 新潟県内の不作付け水田は約7600ヘクタールあり、これを解消すれば約6万トンの原料米の生産が見込めることから、十分に原料はまかなえるという。
 ただし、将来、エタノール・プラントが稼働すれば、年間を通して製造し続ける必要があるが、一方、米の生産は年に1回のみ。そのため原料米の保管が問題となる。もちろん倉庫などに保管すればコストがかかり過ぎるため、昨年は袋詰めの生籾をパレットに積み上げ、防水シートを被せて野積みし、品質の変化を調べた。調査は短期間だったが、水分をある程度乾燥させれば屋外に保存しても品質に変化はないことが分かったという。前述のように今年は秋から来年まで1年間の保管調査をする。
 また、事業化に向けて、籾殻を利用したガス化発電の研究もしている。
 米からのエタノール製造は、最終的にはいわば蒸留することが必要になる。でんぷんの糖化によってエタノール度数を上げていくが、無水エタノール(99.7%)にするには水分を蒸発させなければならない。
 その蒸気を作り出すボイラー用の燃料に、籾殻のガス化発電を利用するというのが全農の構想だ。(図)エタノール製造のための工場のエネルギーも石油などに頼らずバイオマスを活用するという、いわゆる完全バイオマス利用型のプラントをめざす。
 籾殻の利用のために昨年は県内の実態を調査した。その結果、県内では3万9000トンの籾殻が焼却されていることが分かり、原料米1万5000トン規模のプラントで必要となる熱源用籾殻約1万4000トンは賄えることも示された。ただし、籾殻は、ライスセンターなどで集約的に発生していることは把握できるものの、個人完結型で乾燥調製をしていればあちこちに点在していることになる。運搬を考えればコスト高にもなるため、適切な収集範囲と運搬方法なども視野に入れて、18年度は引き続き必要な量を確保するための籾殻発生場所の調査を続けることにしている。

バイオエタノールの製造工程図

 

水田を水田として活かし
地域エネルギー循環の実現めざす

◆3%混入なら25万キロリットル供給

 全農がプラント設置場所として想定し、さまざまな試算をしたのは同JA管内にある産業団地。プラントの経営収支をこの産業団地の設備を利用するなどの条件で推計した結果、1万5000トンの米を処理するプラントでは、エタノールの工場出荷価格が1リットル119円であれば経営は成り立つ見込みとなった。
 このエタノールをリットル120円のガソリンに3%混入させたE3ガソリンとして利用する場合は、エタノールへの課税込みで1リットル122円と市販のガソリン価格より2円程度の上昇にとどまることも分かった。生産者組織の代表者への聞き取り調査では、市販ガソリンと同じ価格であれば「環境を汚染しないエネルギーなので利用したい」という声がもっとも多かったが、「地球温暖化防止は大切。お金だけの問題ではない」と、少し高くても利用するという声も寄せられた。もっともE3ガソリンへの課税のあり方も検討されるべきことだろう。
 また、かりに、このプラントから7500キロリットルのエタノールが製造されるとすれば、E3ガソリンにすると25万キロリットルの量になるという。これは全農が現在、新潟県内に供給しているガソリンの約2倍。この事業が実現すれば相当の量の供給が見込まれるため、全農では現在の自動車でも利用に支障がないとされるE3ガソリンの流通体制や県内普及に向けた検討が必要だとしている。

◆環境対策としての政策支援を

 同JA管内の見附市内では10年前から1ヘクタール区画へのほ場整備が始まり、このほどようやく終了する。一方、農業者の高齢化も進み、国の農政転換で担い手への農地の利用集積も大きな課題となってきた。
 菊池さんは「だれがどこで何を作るか、しかもどれだけ効率的に作るかがますます課題となるだろう。エタノール原料稲の生産には可能な限り低コストが求められるから、基盤整備されたほ場こそ適しているのではないか。原料稲を転作作物として助成したり、新たな環境対策のひとつとして政策の支援が受けられれば、不作付けをなくし、水田にめいっぱい米を作ることができる。地域も元気になるだろう。政策としてきちんと位置づけるべきではないか」と強調する。
 そう強調するのも、この実験事業に関わって以来、バイオエネルギーに興味を持つようなったが、海外からエタノールの輸入が検討されていることを知ったからだ。「なぜ日本の水田を活用しないのか」という思いを強めている。
 いうまでもなく水田での米づくりは連作が可能。水田の活用は食料生産だけでなく水資源の保全、景観の維持などまさに多面的機能を発揮している。稲によるエタノール生産はその機能を維持するだけなく、環境・エネルギー問題にも貢献できることになる。
 資源作物対策や地域資源保全対策など国の施策の具体化に合わせて、今後、全農としては米を原料としたバイオエタノール生産流通事業に参画できるよう準備を進める方針だ。
 米どころ新潟で取り組みが始まったエネルギーを循環させる地域づくり――。JAにいがた南蒲とJA全農の未来への挑戦に期待したい。
関連記事

(2006.7.4)

社団法人 農協協会
 
〒103-0013 東京都中央区日本橋人形町3-1-15 藤野ビル Tel. 03-3639-1121 Fax. 03-3639-1120 info@jacom.or.jp
Copyright ( C ) 2000-2004 Nokyokyokai All Rights Reserved. 当サイト上のすべてのコンテンツの無断転載を禁じます。