農業協同組合新聞 JACOM
   


検証・時の話題

今こそ世界の農業者が連帯して動くとき
―バランスを欠いたWTO合意は受け入れられない―

ファイター EU農業団体連合会・事務局長が講演

 WTO農業交渉で強い影響力を持つEU農業団体連合会(COPA)のファイター事務局長が来日、2月17日に東京都内で講演した。(主催は(社)国際農林業協力・交流協会)。ファイター氏は、年末に香港でのWTO閣僚会議をひかえた今年は「農業と農業者の将来がかかった重要な一年になる」と指摘、現在の交渉状況は「非農産品分野で進展がないのに農業分野だけ譲歩を求められている。農業を犠牲にして交渉をまとめようとするのはおかしいと主張すべき。今こそ世界中の農業者が動くべきだ」などと強調した。

◆農業交渉の先行に危機感

講演するファイター事務局長
講演するファイター事務局長 EU農業団体連合会には25か国、69団体が参加。ファイター氏は1938年ドイツ生まれ。 93年から98年までドイツの農林食料省の事務次官を務め、 2003年からCOPA事務局長。

 ファイター事務局長はWTO交渉全体について、「途上国にメリットを与える開発ラウンドという観点が失われつつある。農業だけが交渉に真剣に取り組んでいるが、それは間違い」と強調した。
 農業分野だけの自由化では最貧国は競争力をなくし、すべてを失うことになりかねない。外貨獲得のために数品目にたよっている最貧国に対しては非農産品分野での交渉進展こそが開発のために必要だと指摘。先進国の輸出国、また、途上国のなかでもブラジル、タイなどに有利な「ただ儲け」の結果では、日欧の市場も不安定にする。そのような「偏った結果」ではなく、非農産品分野での進展も含めた包括的でバランスのとれた交渉結果が不可欠だと、農業交渉の先行に危機感を持つべきと訴えた。

◆農業の社会への貢献を守れ

 ファイター事務局長は交渉全体の状況をこう分析したうえで、昨年夏の農業交渉での枠組み合意についての評価を語った。
 「国内支持」についてEUはCAP(EU内の共通農業政策)改革で農業生産と切りはなされた農村開発などへの助成、「緑」の政策へのシフトを図っているが、枠組み合意で示された「黄」の政策(価格支持政策など生産にリンクするもの)の大幅削減案は、「最大限の譲歩。これ以上の削減は無理」とした。
 むしろこの問題では米国が実施している市場価格の変動に対する不足払い的な支払い制度(価格変動対応型支払)などの改革について「交渉を前進させるためもっと真剣に案をだすべきだ」と批判した。
 また、「緑」の政策についても額に上限を設けることや、その政策の定義についても検証すべきとの主張があるが、ファイター事務局長は上限設定に反対だとし「定義についても、その変更ではなく現行ルールに照らして検証すべき」と主張した。
 さらに現行のWTO農業協定の問題点として「農業のさまざまな面での貢献を守っていくため、農業の多面的機能など非貿易的関心事項を、現在のように補足的にはではなく、もっと重きを置いて位置づけるべき。そのためにも農業者が協力しなければならない」と強調した。

◆市場の安定の確保が重要

 「輸出補助金」については輸出信用や輸出企業への国家援助など「すべての輸出補助金を十分な期間をとって段階的に廃止していくべき」とした。
 そのうえで「市場アクセス」分野の考え方として、国内支持での削減や、輸出補助金撤廃などの受け入れは「市場アクセス分野での納得できる合意内容が前提だ」と強調した。
 EUの農産物関税は全体で10%程度で決して高くないことやすでに49の途上国を対象に無税枠を設定していることなどを指摘し、「市場の安定性確保が重要。社会構造の多様性を脅かすような市場アクセス改善は受け入れられない」と主張した。
 市場アクセス分野は最大の焦点で、昨年夏の枠組み合意では、関税率によって品目を分類して削減率を変える階層方式を導入し、一方で重要品目(センシティブ品目)も認めることになった。
 ただ、階層の数や階層ごとの削減方法、重要品目の数などは今後の交渉で決まる。削減方式については、平均削減率などを決め緩やかな削減とするウルグアイ・ラウンド(UR)方式を、との国がある一方で、一律大幅な削減法となるスイス方式を主張する国もある。また、依然として関税に上限を設けるべきだとの声もある。
 ファイター事務局長は「さまざまな組み合わせが可能。ただ、われわれがひとつにまとまってメッセージを出さないと上限関税が設定されたり、センシティブ品目の数が不十分になりかねない」と訴えた。

◆食料主権を共通のテーマに

 参加者からは農業がWTO交渉の犠牲になって進められているとの指摘に注目が集まった。質問に答えてファイター事務局長は、人口増加を考えると食料の必要性はもっと出てくる、世界の存続のためにも先進国の農業は破壊できない、破壊されないという条件のもとに交渉を進めるべきなどと語った。また、WTOの機能は自由貿易の促進だけではなく「貿易を組織化することだ」とも指摘した。
 そのほか会場からは「WTO交渉では各国に食料主権があることを認めさせるべきでは」との質問もあった。それに対し「日本もドイツも人口のほとんどが飢餓を経験していない国になった。しかし、自給率はこのレベルは必要だという考えは重要。食料主権、食料安全保障については社会全体が要求すべき。共通の議論として提供していかなくてはならない」などと強調した。
 講演でファイター事務局長が繰り返し指摘したのは農業者の連帯。声を上げて公正な貿易ルールをつくることを呼びかけた。
(2005.2.25)


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