農業協同組合新聞 JACOM
   

検証・時の話題

「食」とは何かが問われている −BSE問題
 食品安全委員会プリオン専門調査会が3月28日に開かれる。全頭検査体制の見直しについて、とりまとめの議論が行われる見込み。論点は何か。識者に聞いた。


◆食の原点に戻って考えたい

福岡伸一・青山学院大学理工学部教授

福岡伸一・青山学院大教授

 今、問われているのは輸入の是非ではない。BSEが問いかけたのは食とは何かということ。その原点に立ちかえって考えるべきだ。
 その意味で食にリスク論を持ち込むことは危険。リスクとは本来ベネフィットとセットで考えられるものだが、BSE問題でわれわれにベネフィットはあるのだろうか。肉骨粉を牛に与え食物連鎖を組み変えるという人災が野放しにされた結果、リスクだけがわれわれにもたらされている。変異型CJDの発生リスク、というが実際は危険度ではなく、この問題では、リスクを負うとは代償を払うということに過ぎないと考えるべきだ。
 フグ毒に比べれば被害は少ないなどと、数値の議論もある。しかし、問われているのは、食物連鎖を組み変え、さらにその危険な肉骨粉を他国に輸出するといった経済効率追求の無責任体制。食によって死者がなぜ発生したのか、そこを切り捨て、死者の数だけを同列に論じて比較などできない。
 食事はエネルギー源を得るためと考えがちだが、分子生物学が明らかにしたのは、私たちの細胞は食事で得たたんぱく質で日々、置きかえられているということ。食べものによって私たちは環境とつながっているのであり、食べることと生命のあり方は切り離せない。
 感染源が不明な現在、サーベイランス機能がある全頭検査には、原因究明のための科学的意義はある。BSEが問いかけた食とは何かに立ちかえって判断すべきだろう。(著書に『もう牛を食べても安心か』(文春新書))

◆食品安全委は独立性をもって科学的な議論を

神田敏子・全国消費者団体連絡会事務局長

神田敏子・消団連事務局長

 食品安全委員会が昨年まとめた中間報告では、20か月齢以下は検査から除外していいという内容ではなかったはず。20か月齢以下の感染牛は見つからなかった、というだけだった。人へのリスクもデータが少ないなかで推論に推論を重ねた結果で、BSEについてはまだまだ分かっていないことが多く、基本的には現行の検査体制を続けるべきだと思う。未来永劫継続すべきとは考えないが、変更するのであればみなが納得できる説明ができるかどうか。中間とりまとめでは検査レベルを上げることも課題とされていたことも大切な点だ。
 全頭検査については350万頭検査して9例発見されたことをもって、1例あたりの発見コストが高い、という意見もあったが、これは話が逆で、340万頭以上の安全性を確認するための検査だったという話をすべき。
 また、特定危険部位(SRM)を除去すれば安全という意見もある。しかし、SRMがきちんと除去できているかどうかはもちろん、そもそもSRMは特定されているが確定ではない。その部位も科学者の検討で変わってきている。こういう段階でSRM除去で十分と科学的に言えるのかどうか疑問になる。
 リスクコミュニケーションの体験を通じて、消費者もゼロリスクはないということは分かってきた。しかし、多少のリスクがあるのは仕方がない、という風潮になるのは問題。当然、よりリスクを少なくすべきだ。
 また、最終的には消費者が責任をもって選べばいいのではという声も聞かれるが、それではルールや規制はいらないというのと同じ。食品を提供する側として、行政、事業者には安心して消費者が買うことができる体制づくりが求められている。食品安全委員会は、独立性を持って科学的な議論をしてもらいたい。

(2005.3.24)


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