農業協同組合新聞 JACOM
   

検証・時の話題

WTO農業交渉

7月末に「たたき台」一次案を提示
従価税換算方式で合意−5月の非公式閣僚会合


 12月末のモダリティ(関税削減率や重要品目の扱いなどについての各国共通のルール)合意をめざしているWTO(世界貿易機関)交渉は、5月4日にパリで非公式閣僚会合を開催、日本、米国、EU、豪州、ブラジルなど29か国の閣僚が参加した。会合では議論のほとんどを農業分野に費やし、なかでも市場アクセス交渉の議論の「入り口」である「従量税品目の従価税への換算方法」について協議、おおむね合意が得られた。
 今後、昨年末の大枠合意で決まった階層方式による具体的な関税削減方法と重要品目(センシティブ品目)の扱いなどについて議論が行われ、7月末までにWTO農業委員会のグローサー議長がモダリティたたき台1次案を示す見込みだ。

■入り口から本格議論へ

 既報(解説記事 WTO農業交渉)で紹介したように従価税換算方法が議論されてきたのは、従量税品目を従価税に換算して各国の関税構造を明らかにするためだ。
 昨年夏の枠組み合意で関税削減方式に「階層方式」が採用されることになり、関税率の高い品目ほど大幅な削減を行うことにした。したがって、現行の従量税品目がどの階層に位置づけられるのかを決めるには従価税に換算する必要がある。そのうえで階層の数や階層の「切れ目」などを議論することになった。
 まさに議論のための「入り口」の問題なのだが、換算のための基準価格をめぐって輸入国と輸出国の利害が対立した。というのも輸入価格の取り方によって換算値が異なってしまうからだ。たとえば、1個あたり5円の従量税を課す品目の場合、輸入単価が1個100円であれば従価税換算値は5%(5円÷100円)。しかし、輸入単価が50円であれば10%(5円÷50円)と高い値になってしまう。

■加重平均価格を基準で合意

 基本的には各国それぞれの貿易統計に基づきWTOに通報している輸入単価(IDB輸入単価)を採用することで合意したが、輸出国は国際価格と差が大きい場合には国連データ(世界平均輸入単価)を基準とするべきと主張。3月時点では合意が得られなかった。
 輸出国は輸入単価が高いのはその国の関税制度に問題があると主張、一方、輸入国は、たとえば高価格品中心の輸入を行っているなどその国のマーケット事情を反映しているのものであり貿易実態をふまえた価格であると主張するなど食い違った。技術的な問題が政治的な問題になりかけた。
 しかし、その後、自国の輸入単価(IDB輸入単価)が国連データより1.4倍高い場合については、IDB輸入単価と国連データ価格にそれぞれ一定の比率をかけて過重平均、それを基準価格として採用することでまとまり、非公式閣僚会合でようやく合意に至った。

■G10、重要品目の扱い方重視

 日本など輸入国にとっては換算基準価格が低くなれば、高関税品目として位置づけられることになるため換算方法による影響を慎重に検討した。農水省交渉筋によると輸出国の主張には基準価格にシカゴ穀物相場を採用すべきなど、貿易実態とはかけ離れた主張もあったが今回の合意内容はそうした極端な主張は退けることができたものとしている。
 また、この議論をきっかけにして輸出国側には関税はすべて従価税とし従量税を認めるべきではないとの主張もあったが、昨年の大枠合意では「現行の譲許水準」からの削減となっていることから、日本など輸入国は従量税としての扱いは変えない方針。交渉筋は今回の議論を通じて、従量税を従価税で譲許させるべきとの動きを阻止できるめども立ったという。
 今後の焦点は階層方式による関税削減の具体化と重要品目についての扱いだ。
 輸出国は従価税換算問題に合意が得られたことで、各国の関税品目の一覧をもとに階層の数や削減方式を議論し、重要品目についてはその後に例外的に措置を考えればいいという考え方だ。
 一方、日本をはじめとするG10やEUなど重要品目の特別扱いを重視するグループは、一般品目についての交渉と同時にこの問題が議論されるべきと主張。重要品目の扱いをルール化することをめざす。
 また、重要品目の数は一律ではなく、各国の状況をふまえて自ら選択できるようにすべきことや、関税削減と関税割当の組合せによる市場アクセスの改善水準は、一般品目の改善水準よりも低く設定すべきであるなど、特別扱いの必要性を強調している。
 そのほか、階層方式の関税削減方式には一律削減となるスイス方式に反対、平均削減方式(ウルグアイ・ラウンド方式)とするべきだと主張している。
 こうした主張は今回の公式閣僚会合の前に開催したG10閣僚会合でも確認、閣僚コミュニケにも盛り込んでいる。
 コミュニケでは農業と他の分野の交渉、農業分野内での3分野交渉(国内支持、市場アクセス、輸出競争)がそれぞれバランスよく進展すべきことや、少数国のみが物事を決定するのでは交渉の成功に結びつかないことも強調している。
 次回のWTO農業委員会は5月30日から6月3日の日程で開催される。

(2005.5.17)

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