■日本、上限関税に反対
大連での非公式閣僚会合G20が示した提案は、階層方式による関税削減について、(1)階層の数を先進国は5とする、(2)階層内の削減方式は定率削減(リニア方式)、だが、そのほか100%の上限関税の設定、重要品目はごく少数とするなども含まれている。
米国はこの提案について、スイス方式とUR方式の両極端から合意を見いだすためには有益なアイディアと評価。EUはリニア方式に柔軟性を持たせるべきとしながらもこれを出発点とすべきと発言した。
インドもUR方式とスイス方式の架け橋との認識だが、特別品目の扱いなど途上国に対する異なる扱いを実現する必要があるとしたほか、カナダは重要品目については別途の対応が必要と指摘した。
これに対して日本は、関税削減方式だけでなく重要品目についても議論の前進が必要であること、また、農業の多面的機能など非貿易的関心事項に配慮して柔軟性のあるリニア方式であるべきと主張した。また、上限関税の考え方は、階層方式ですでに高関税の品目ほど削減率を高めることに合意している以上、屋上屋を架す議論だとして、受け入れられないことを強調した。スイス、韓国も同様の主張をした。
こうした議論の結果、グローサー議長は、G20提案をひとつのベースに検討したいと発言、また、削減の数値などについては秋以降の議論とする方針を示した。
非公式閣僚会合ではG20提案が検討の素材されることになったが、日本としては上限関税の設定は出発点にはならないとの立場。また、重要品目の扱いについても一般削減方式と同時に検討し、品目数の十分な確保の実現をめざしていくことになる。
■主張実現に向け運動の強化
非公式閣僚会合に先立つ11日に東京都内で開いた「WTO農業交渉対策JA全国代表者集会」では、宮田JA全中会長が「輸出国と輸入国で厳しい対立が続いているが、自国で消費する農産物を生産する権利はどの国にもある。モダリティたたき台にはJAグループの主張が反映され、重要品目に対する特別で柔軟な措置が実現することが重要。それが食料輸入国の食料主権を守ることになる」などと主張、また、この秋の経営安定対策の検討に向けてJAグループも担い手づくりに全力あげていることを指摘、「万全の国境措置がなければ農業者の所得が減少し地域農業が崩壊する。一層強力な運動が必要だ」と訴えた。
自民党農産物貿易調査会の桜井新会長は7月はじめにグローサー議長と会談したことを報告。「上限関税の問題は昨年夏の合意ですでに設定しないことで決着済み、特別品目についてはルールとして位置づけるべきことと一般品目と同時に決着させるべきことなどを主張し、相当の理解が得られたと思っている」などと話し「自然災害が多発するなど地球は壊れ始めているのにお互いが傷つけあうような交渉結果でいいはずがない」など多様な農業の共存の実現に向けた交渉への努力を約束。また、決意表明した藤木JA全青協会長は7月末のモダリティたたき台提示に向けてジュネーブでノルウェー農業団体と連携してアピール行動をすることを紹介、「自国の食料主権立」をめざすと強調した。
■アジアの農業を破壊する先進輸出国
集会後に行われた「多様な農業の共存をめざすWTO農業交渉に関する国際シンポジウム」ではカナダ、インド、インドネシア、ノルウェーの農業団体代表者らが自国の農業実態を報告しながら、「食料純輸入国は食料安全保障のための国内生産や貧困の緩和に取り組む必要があること」や、農業交渉の結果は「世界の農業者が適切な手取り価格を受け取れるような公平で公正な貿易ルール」が確立されなければならないことを確認。互いに連携を強化し自国の政府に対して意志反映をはかるように働きかけを強めるよう呼びかけた。
【ボブ・フリーセン/カナダ農業者連盟会長】
生産者であるわれわれが多国籍企業に牛耳られていてはならない。農業者が交渉の中核に戻らなくてはならない。最終的に交渉では手取り価格に反映される必要がある。カナダの農業者は過去最低の所得となっている。多様な農業の共存をめざすには、一律のルールではなく、それぞれの国の農業が発展できるようなツールを確保できる仕組みを決めるべき。WTOは農業政策の決定をするわけではない。
協同組合が市場で力を持つような交渉をすべき。メディアは市場開放で農産物貿易量が増えるといっているが、多国籍企業のポケットに入るだけだ。上限関税設定はやりたくない。一握りの国だけで交渉が進められるのは不適切だ。
【サワイ・シン・シソーディア/インド協同組合中央会会長】
人口の80%が農村に住み小規模農家が圧倒的。6億8000万人の農業者がいる。食料自給のためにたゆまぬ努力をしてきたが供給を上回る需要がある。
WTOであれ何であれ規制によって国が国民への食料供給することに足かせをかけてはいけない。食料生産の自由、農業の未来が阻止されてはならない。欧州と米国では1日に10億ドルの補助金があるが、その事実が隠されている。
途上国に対する特別品目の扱いは、インドでは国内でも地域差があり、それぞれの国で決断する権利が確保される必要がある。WTO農業交渉は世界中に関わりのあること。世界の協同組合運動にも関わる。ICA(国際協同組合同盟)もWTOに意見表明すべきだ。
【ストリスノ・イワントノ/インドネシア農業者農政運動組織会長】
インドネシアは人口の45%が農業者で0.3ヘクタール程度と小規模。主食のコメは世界3位の生産量だが、UR合意後に輸入が増えている。農業は雇用の重要な場となっており、環境や社会、経済に深く関わっている。
重要品目は、わずかな品目に限定されるべきではなく食料安全保障がどれだけ脅かされているかで決定されるべき。たとえば、UR合意後に安い小麦粉が輸入されるようになったが、それによってキャッサバやサツマイモなどが生産されなくなった。そういった根菜類の生産は雇用のもとにもなっていた。
交渉は互恵の精神で行われなければならない。多国籍企業の独占ではなく貧しい農業者をなくてしていくことが大事で途上国全体の利益のために交渉していくべきだ。
【ヒルデガン・ゲンゲダル/ノルウェー農業者連盟国際課長】
上限関税は受け入れられるものではない。関税が高いことは輸入量が少ないことではない。G10で世界の農産物の13%を輸入している。関税は生産条件を反映したもので米国が50%ならわが国では200%ということだ。多様な農業が存在していることを認識して交渉すべきだ。どんな国でも自分の国で食料を生産する権利がある。
重要品目はそれぞれの国の食料安保にとって非常に重要なもの。柔軟性を確保して選択できるようにすべき。たとえば、乳製品の輸入が増えれば国内の穀物生産が低下してしまうことも考えなければならない。
効率のいい生産者だけが勝ち組になるのではなく、小規模な家族農業が活気を持つことが健全な姿だ。
【山田俊男JA全中専務】
アジアでは貧困の解消と農村開発に協同組合の役割に高く期待されている。新大陸の農業と違うことを明らかにし、生産条件の格差を埋める国境措置や輸入増の回避対策がぜひとも必要。農業者が生きるための生産まで奪ってはならない。
日本にとっての最大の課題は重要品目の扱いの確保。コメのMAは年72万トンだがこれは15年前の消費量を基準にしたもの。この間に消費量が150万トン減っているのにその架空の数量に対して7.2%の義務的な輸入は納得できない。また、上限関税が設定されたらどういうことになるか。
UR合意後をみると先進輸出国がアジアの農業を破壊しているといっても過言ではない。この枠組みを何としても変え非貿易的関心事項に配慮して重要品目、途上国の特別品目に対して実効あるルールを連携して実現しなければならない。
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