農業協同組合新聞 JACOM
   

検証・時の話題

WTO香港閣僚会議
貿易ルール、来年4月末に確立
宣言に重要品目のルール化の足がかり盛り込む

 加盟149か国から関係閣僚が参加し12月13日から香港で開かれていたWTO閣僚会議は18日に貿易ルール(モダリティ)を2006年4月末までに合意することなどを決めた閣僚宣言を採択して閉幕した。宣言には、上限関税の記述はなく、一方、重要品目については「関連するすべての要素を考慮に入れ、重要品目の扱いについて合意する必要がある」と盛り込まれた。この記述は幅広く読める表現だが、これまで閣僚宣言に重要品目の記述がなかったことから日本としては一定に評価している。中川農相は「すべての要素を考慮して、ということはより多くの要素を考え得るスタートラインに立つことができたという意味」と語り、日本の主張を反映した貿易ルールづくりの足がかりを得たとしている。
 ただ、合意は来年4月末までと期限まで時間が少ないなか、上限関税についても「これでもって消えたわけではない」(中川農相)ことから、農産物貿易の拡大のみを狙う輸出国と年明けから厳しい交渉が続くことになる。食料安全保障や農村の維持のために多様な農業が共存できるような貿易ルールが必要だと多くの国が主張していることなど、国内での理解と支持を得る取り組みが引き続き重要になる。

◆輸出補助金と国内支持で交渉前進

中川農相は「スタートラインに立つことができた」と語る
中川農相は「スタートラインに立つことができた」と語る

 今回の閣僚会議では、この夏からの議論で各国の主張の溝が埋まらなかったことからすでに合意水準を下げ、表向きは貿易ルール(モダリティ)の確立期限などについてのみ決めることになっていた。
 ただ、交渉全体の終結を来年末までとすでに合意し、さらに加盟149か国もの関係閣僚が1週間も香港で交渉することから、当然、農業分野でも何らの具体的な進展があると見られていた。
 その点で一定の進展があったのは輸出補助金の分野。
 宣言では「すべての形態の輸出補助金」を2013年までに撤廃することに合意するとなっている。この問題では米国、ブラジルなどの途上国は輸出補助金をもっとも使用しているEUに対して2010年までの撤廃を求めていた。
 一方、EUは米国、豪州などが実施している輸出信用、輸出国家貿易、食料援助なども低価格での輸出を促進するなど形を変えた輸出補助金だとしてそのルール強化を主張し対立していたが、宣言には輸出信用などに対する規律も2006年4月末までに決めることを盛り込んだ。また、国内支持では貿易を歪曲する性質が高い助成について、その総額について3階層に分け高階層ほど削減率が高くなるルールづくりに合意した。
 焦点となっていたのは、どの国がどの階層に入るかだったが、今回の交渉で最上位階層にEU、2、3番目に高い中位階層に日本、米国。そして他の加盟国を最下位階層に位置づけることに合意した。
 この問題では日本を削減率の高い最上位階層に位置づけるべきとの主張も途上国の一部にあったが、今回、日本はEUについで2番目の中位階層であることが初めて明示された。日本の主張が反映されたとして農水省は評価している。

◆重要品目のルール具体化が課題

 最大の対立点である関税の扱いなど農産物の国境措置をめぐる市場アクセス分野で、具体的な記述が盛り込まれたのは、関税の高さで4階層に分けて関税削減を実施するということだけだ。階層の数は合意したが、階層の境界値、削減方法、削減率など詰めるべき課題は山ほどある。
 ただ、日本、G10がもっとも評価しているのが重要品目の扱いについて。「関連するすべての要素を考慮に入れ、重要品目の扱いに合意する必要性を認識する」と記述された。
 前日にはこの部分は、重要品目について“一般品目の削減率との差が大きいほど関税割当が大きくなる”と一般品目と重要品目との関連について具体的な表現だったが、最終的には広く読める記述に修正された。
 当初の記述はG10の主張を反映したものだった。閣僚会議中、G10は重要品目について「一般品目の関税削減率のx分の1」とし、また、関税削減率を小さくする場合は関税割当拡大幅を大きく、削減率を大きくする場合は拡大幅を小さくできる仕組みとすべきという提案を行った。
 重要品目について、一般品目のルールと関連させることを一歩踏み込んで表明したことになる。これまでG10の立場は一般品目とまったく別扱いのルールを求めていたが、今回、より現実的な主張を展開したことになる。
 これまでの交渉で、米国、ブラジルなど輸出国は重要品目の扱いは例外であり、一般品目の関税削減方式の議論を先行させようという姿勢が強かった。一方、G10など輸入国は重要品目のルールづくりも同時に議論すべきだという点で対立していた。
 この点で今回の閣僚宣言で重要品目の記述が盛り込まれたことはルール化への足がかりを得たとみている。最終的には、曖昧な表現になったとの指摘もあるが、中川農相は「決してそうではない。(今後の交渉)戦略の問題だが、より多くの要素を考え得るスタートラインに立つことができたという意味。より広範な表現に変えるよう改めて提案したことが取り入れられた」と話した。この記述を足ががりに多面的機能、食料安全保障に配慮した品目数、また実際の国内消費量との関係をふまえた貿易ルールなど、これまでの主張をもとに重要品目の扱いの具体化をめざすことになる。

上限関税の阻止は依然として課題

JAグループが主張する重要品目の十分な確保などルールづくりは来年早々からの焦点になる
JAグループが主張する重要品目の十分な確保などルールづくりは来年早々からの焦点になる

◆関税の意味、実態の理解広めて

 一方、閣僚会議前の交渉で米国、ブラジル、EUなどが提案していた上限関税については、宣言には記述されていない。これは意見の対立が激しいことがそもそも明らかだったことから、香港で何らかの合意をめざすには取り上げるべき問題ではないとのコンセンサスがあったからだという。
 今回の閣僚宣言づくりの支障になるとの判断が働いただけであって、「これでもって消えたわけではない」(中川農相)。
 閣僚宣言には各分野の交渉内容を議長がまとめた付属書が添付されているが、農業分野では上限関税の提案もあることや、重要品目についても適応すべきという主張もあることが両論併記の形でつけられている。その意味では米国、ブラジルの提案は決して引き下げされたわけではなく、年明け以降の交渉はこうした厳しい提案をもとに再開されることに変わりはない。
 交渉期限が迫るなか、重要なのは国内で理解を広げることだ。
 12月5日に中川農相ら幹部と消費者団体代表とのWTO懇談会が開かれた。
 会合には米国提案が日本のコメなど高関税品目に対する影響を説明する資料が配付された。
 今回の交渉過程で従量税を従価税に換算する方式がすでに決まっているが、その方式ではコメは778%、こんにゃく芋1706%、でん粉583%などとなっている。それらが米国提案の場合、10分の1に引き下げられること、さらに75%の上限関税も導入するという主張がいかに壊滅的な打撃を与えるかを示したものだった。
 しかし、消費者団体の代表の一部からは、その資料を見て「そもそもこれほどの高関税をかけていることはどうか」、「消費者が高い農産物を買って支えていることになる」といった意見が出された。
 米国提案では重要品目の数もごく限られ、関税品目数で13あるコメすらすべてを指定できないことになるといって点は注目されず、関税への依存からの脱却、国際競争力のある農業への再生を求める声が目立った。
 しかし、高関税品目はごく一部であり、日本の農産物全体の平均関税率はEUよりも低い12%だ。また、ウルグアイ・ラウンド合意では非関税化品目を関税化する際、内外価格差をそのまま関税に置き換えるというルールがあった。さらに関税は自然条件や、経済的な違いを調整する手段としてWTOが認めている。
 食料自給率の低い日本にとって、守るべき品目は食料安保や多面的機能の発揮に不可欠な品目であり農業、農村の根幹を成すものであることへの理解を広める取り組みが早急に求められる。

香港閣僚宣言のポイント

◎貿易ルール(モダリティ)の合意期限
・2006年4月30日まで
・2006年7月31日までに関税表(譲許表)案提出
◎市場アクセス(関税削減など)
・4階層に分けて削減(境界値については今後の交渉)
・重要品目の扱いは、関連するすべての要素を考慮して合意する必要
・途上国は関税化品目の適切な数を特別品目(SP)として自ら指定できる。
・途上国は輸入数量、価格に基づく特別セーフガード措置(SSM)の権利がある。
・SP、SSMは農業交渉の結果の不可分の一部
◎国内補助の削減
・3階層に分け高階層国ほど大きく削減
・EUは最上位階層、日本、米国は中位階層、他の加盟国は最下位階層
・低い階層に属し相対的に国内助成が高い先進国は追加的に削減に努力
◎輸出競争
・2013年までにすべての形態の輸出補助金を撤廃
・輸出信用、輸出国家貿易、食料援助に関する規制内容はモダリティの一部として確立
◎綿花問題
・先進国の綿花に対するすべての形態の輸出補助金は2006年に撤廃
・先進国は実施期間の開始時(合意内容のスタート時点)から後発開発途上国(LDC)の綿花に無税無枠を与える。
◎後発開発途上国(LDC)問題
・すべての後発開発途上国の原産であるすべての産品について2008年までに、または実施期間の始まりまでに無税無枠とすることに合意。
・困難な国はLDC産品の97%以上に無税無枠を与える。

重要品目に関するG10提案のポイント

(1)一般品目の関税削減率の「X分の1」
(2)関税割当拡大は現行約束数量の「Y%分」の拡大
(3)関税割当拡大は、国内消費量に占める現行約束数量の割合に応じ係数を決めて階層方式で調整(現行約束数量が国内消費量に占める割合が5%以下の品目群を係数1とし、5〜10%を係数M、10%以上を係数Nとする。ただし、係数の大きさは1>M>Nとする)
(4)関税削減率を小さくする場合は関税割当拡大幅を大きくする。逆に削減率を大きくする場合は拡大幅を小さくする。

市場アクセスに関する主要国の提案

【米国】
・上限関税、先進国75%、途上国100%、重要品目にも適用。
・重要品目の数はタリフラインの1%。削減率は一般品目適用率の2分の1
・関税割当拡大幅は消費量の7.5%
【EU】
・上限関税、先進国100%、途上国150%
・重要品目数はおおむね8%。削減率は一般品目適用率の3分の1〜2分の1。
・関税割当拡大幅は関税削減の緩和程度を拡大率に変換して算出
【ブラジルなどG20】
・上限関税、先進国100%、途上国150%、重要品目にも適用
・重要品目は有税タリフラインの1%を上限、削減率は一般品目適用率の70%。
・関税割当拡大幅は国内消費量の6%に一般品目の関税削減率との乖離分を加える。


(2005.12.22)

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