農業協同組合新聞 JACOM
   

検証・時の話題

求められる産地の意識改革
「加工・業務用」販売の推進で野菜を成長分野に

 野菜の需要は家庭消費用を加工・業務用が上回り、その割合は54%へと上昇している。野菜の自給率は16年度で80%(概算)と高いが、生鮮野菜の輸入量は17年に初めて100万トンを超えた。
 その輸入野菜をおもに利用しているのが加工・業務用分野だ。平成2年にはこの分野の輸入割合は12%だったが10年後には26%に跳ね上がり自給率引き下げの要因となっている。自給率向上のためにも、今後の野菜生産、販売では加工・業務用需要での「シェア奪回」がキーワード。外食産業などとの契約取引の拡大が野菜産地、JAにとってもテーマとなっている。2月7日に開かれた「加工・業務用野菜推進シンポジウム」(東京国際フォーラム、第1回日本全国野菜フェア)でのディスカッションなどをもとに課題を考えてみた。

◆食の外部化への対応が急務

加工・業務用野菜の推進
 「外食」や惣菜など「中食」を利用する「食の外部化率」は昭和50年には28%だったが平成16年には44%にまで高まっている。つまり、食材の多くが家庭に直接届くのではなく、食品加工企業や外食産業などを迂回して、消費者の口に入る機会が増えているということになる。(図1)
 その加工・業務用野菜では輸入割合が増えているが(図2)、その理由は何だろうか。
 (独)農畜産業振興機構の調べでは、たとえば、タマネギではカット野菜用の大玉が低コストで入手できることのほか、都府県のタマネギでは水分が多く加熱調理用に向かないため輸入で手当てをしているという。
 生鮮トマトは、ゼリー部が落ちにくい肉質の硬いものがハンバーガー、サンドイッチ用として輸入されている。キャベツは不作時の対応での輸入が中心だが、調査してみると4月〜5月にかけて寒玉系キャベツが国内産で不足しているために輸入しているという実態もあると指摘している。
 このように決して低コストという理由だけではない。加工・業務用需要に対応した品質、規格を満たす野菜として輸入され利用されているのである。
 ただし、関係者には海外からの低コストでの調達に危機感も生まれている。
 同シンポジウムで報告したキューピー(株)野菜原料購買担当部長の佐渡純一氏は「今まで世界を飛び回ってきたがどこも調達コストが上昇しており手当てが難しくなっている。もう飽食の時代は終わった」と話した。背景は長期化の予想もある原油高。輸送コストの上昇を原材料費に転嫁、つまり、消費者価格に上乗せをできる状況にはなく、佐渡氏は「国内産地に一次加工まで依頼するなど、産地と連携してコスト低下をめざすしかない」と国内産地に呼びかけた。

加工・業務用野菜の推進(図1・2)

◆ガイドラインで生産誘導

 野菜産地では、量販店、生協などと栽培基準や規格基準を取り決めた生産・販売の取り組みは進めていても、外食、中食との取引となると取り組みは少ないのが実態だろう。
 千葉県のJA富里市の仲野隆三常務は「実需者のニーズといっても、JAではまだ、それは卸のニーズと同じだろう、といった市場出荷感覚から抜け切れていないところが多いのではないか。意識改革が必要だ」と強調する。
 加工・業務用野菜は「規格外品を出荷すればいい」というものではもちろんない。海外からの低コスト調達に限界を認識し出している実需者もいることを考えれば、きちんとニーズを把握した生産によって「シェアの奪回」も見えてきそうだ。
 表1は家庭消費用と加工・業務用野菜の基本的特性の違いをまとめたもの。
家庭用は品質では外観が重視され、販売は個数単位のため、出荷形態も袋詰めや小分け包装だ。
 一方、加工・業務用野菜には、大型規格や水分含有量など用途に応じて多様な品質が求められる。また、原材料としての歩留まり計算のため重量が重視される。その分、出荷はバラ詰め、無包装でいい。ただし、前処理、一次加工が求められることも多い。「ゴミゼロのため皮ごと加工できるよう2度洗いしたニンジンを、という取引もある」(仲野常務)という。そして、生産者にとって最大の課題となるのが、契約取引である以上、「定時・定量の出荷をしなければならない」、ということになる。
 こうした課題を主要品目ごとに整理して、産地に求められる対応を生産ガイドラインとして提示する動きもある。「国内の加工・業務用野菜の産地普及、定着をめざす検討委員会」(座長:藤島廣二東京農大教授)は、実需者へのヒアリング調査をもとにしたガイドラインを、トマト、ホウレンソウ、レタスの3品目について3月中にも示すという。
 表2は、ホウレンソウの生産ガイドライン。
 これによると家庭消費用であれば25センチ程度の大きさだが、冷凍原料用では40センチ程度、業務用加熱調理用では40〜50センチの大型規格が求められていることが分かる。品質は葉が大きく葉肉が厚いこと、とされている。
 また、このガイドラインでは家庭消費用が単収1〜1.2トンなのに対して、大型規格品の栽培によって2〜2.5トンと倍増できるとしている。さらに選別、袋詰め作業がないことから、加工・業務用では一日当たりの調製作業量が家庭消費用の約4倍の200〜250キログラムに拡大できることも示している。価格の安さを単収増で補うだけでなく、調製作業が省力されることによる規模拡大も可能となる道筋を、こうしたガイドラインで示すことで、加工・業務用野菜生産への誘導を図ろうとしている。

加工・業務用野菜の推進(表1・2)

 

「計算できる農業」にも貢献

◆JA主導型で取り組む

 JA富里市が加工・業務用向けを手がけたのは10年以上前。仲野常務は「食」のあり方が急速に変化し、食産業への依存度を高めていくが、しかし、食産業自身は価格や品揃えが安定しない卸売市場をリスクが高いと敬遠し海外からの調達に走っていく、と見込んだという。
 そこで、野菜産地を守るためにJAとして実需者のニーズを的確に把握して、生産者も説得、市場外流通での契約取引を実現することに取り組んだ。販売事業のプロを育成し、外食産業などのメニューのレベルから納入の契約を結ぶという。大根一本でも、それを大根おろしとして使うのか、一定の規格でカットして使うのかで品種も異なる。カット野菜と一口にいっても、カットしたい大きさによって栽培すべき大根のサイズも変わってくる。直接、商談することによって品種試験をしたうえで適性な野菜を選び供給につなげているという。
 課題は価格だが、「生産者が来年も引き続き作れると思う再生産保証価格」での交渉が基本だという。
 同JAでは、取引規格を決めたうえで生産者から希望を募り、講習会を開催して生産と供給をスタート。JA担当者はその間、ほ場巡回するなど量、品質ともに契約どおりに栽培、出荷できるかの点検も行う。
 加工・業務用野菜生産にはこうした少人数からの生産者グループづくりが必要だという。生産者もすべてをこの分野向けの生産に振り向けるわけではなく、市場出荷品目も組み合わせて生産している。ただ、長期で値決めした契約取引を生産に組み込むことで、経営の安定に貢献する。
 仲野常務は「外食レストランでは自前の農場を持って生産しているところもある。また、地域内の生産法人も加工・業務用生産に取り組んでいる。JAは外から攻められている」と環境変化への対応が迫られていることを訴えた。

◆契約意識の徹底を

 全農茨城県本部の加工・業務用野菜の契約販売の取り組みの背景にも、価格設定が低くても「計算できる農業をやりたい」という県内農業者のニーズもあったという。
 シンポジウムで事例報告した茨城県本部園芸部VF(ベジタブル・フルーツ)課の野崎和美氏は「実需者向けの契約取引によって、雇用を実現するなど経営の規模拡大をめざす生産者も出てきた」と話した。
 同県本部では、播種前に実需者と商談し、契約が決まるとJAを通じて生産者を募集、栽培計画に沿った面積を確保して定時・定量供給に取り組む。この10年間で1000ヘクタールの実績を上げたという。
 ただし、欠品しない体制づくりに、日単位、週単位、月単位での出荷コントロールに多大なエネルギーを使うという。天候リスクも考えると複数産地化、広域化が必要になると同時に、実需者に産地の成育情報などを迅速に伝える体制をつくり、生産現場への理解を求めることが重要だと指摘した。
 また、欠品のない体制づくりのためのリレー出荷と、ニーズが高まっている一次加工処理施設の整備も重要になるという。
 この点について、農林水産政策研究所の小林茂典地域経済研究室長は「多様な実需者が参加し、多様な品目の利活用が可能となるような加工原料野菜の『共同利用機関的な仕組み』の整備が必要ではないか」と提起した。いわば、加工・業務用野菜の利用のための共同インフラの整備だ。
 こうした前向きな課題が提起されながらも、シンポジウムでは厳しい指摘も出た。
 天候異変による品不足は実需者側としてもメニューの変更で対応するなど、お互いが納得する柔軟性を持って契約すればいいという声が多かったが、その問題以前に、“市場価格が高騰すれば契約を無視して市場出荷してしまう”生産者がいることへの批判も出た。
 「契約取引は生産者がある程度、自分の考えを価格に反映させられる取り組み。市場出荷してしまえば、せっかく作り上げたその世界を壊すことになるのではないか」という意見もあった。この取り組みの前提となる契約意識が課題だとの指摘だ。
 ただ、この問題も実需者のニーズがどういうものか、生産者、JAの理解が深まれば変わっていくだろう。ロイヤルホストなどレストランを展開するロイヤルホールディングス(株)では、一部店舗のサラダバーなどで野菜の“生産者表示”をしている。
 梅谷羊次執行役員は「生産者と従業員の信頼関係づくり。共同開発も可能になり、生産者も誇りを持てる。短期的な利益が目的ではない。長期的に顧客に信頼されることが日本農業の発展に外食産業が貢献することにもなる」と話した。市場の機能も含め、国内野菜の生産・販売のあり方を「産地と実需者」で見直すことが課題となっている。


(2006.2.14)

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