農業協同組合新聞 JACOM
   

検証・時の話題

農業法人の経営状況

直販志向を強め経営発展めざす法人
―本紙アンケートにみる農業法人の経営概要と事業戦略―

八木宏典 東京農業大学教授

 本紙では毎年、農業生産法人を対象に「大規模農家と生産法人の経営状況とJAグループに対する意識調査」を実施しているが、このほど今年2月に実施した調査の報告がまとまった。そこで八木宏典東京農大教授に、この調査報告に見る農業法人の経営状況と事業戦略について分析してもらった。また、販売および生産資材の購入など主要な調査結果は「大規模農家と生産法人の経営状況とJAグループに対する意識調査」に掲載。

期待されるJAグループの新たな協力関係づくり

農業法人の経営概要
 7割が存続可能な経営状況に「売上げ伸ばした」が44%

八木宏典 東京農業大学教授

八木宏典 東京農業大学教授
やぎ・ひろのり 1944年群馬県生まれ 東京大学農学部農業経済学科卒。 日本農業経済学会会長、食料・農業・農村政策審議会会長などを歴任。 現在、東京農業大学教授・東京大学名誉教授。 主な著書は『カリフォルニアの米産業』(東京大学出版会、1992)、『現代日本の農業ビジネス』(農林統計協会、2004)、『新時代農業への視線』(農林統計協会、2006)など。

 今回のアンケート調査で回答いただいた368の農業法人の多くは耕種経営であるが(※表1)、これらの法人の企業形態をみると、個人・家族経営の法人が59%、共同経営の法人が25%で、全体の85%を占めている。その一方で、集落型の法人やJA出資、民間出資の法人など多様な形態も含まれている。また、75%が有限会社であるが、その12%が会社法施行後の3年以内に株式会社などへの形態転換を考えているという。
 回答法人の資本金の平均額は1200万円、売上高の平均は1億3600万円である(※表2)。売上高規模別では3000万円未満が22%、3000〜5000万円が18%、5000〜1億円が27%、1〜2億円が20%、2億円以上が12%で、1億円以上の農業法人が3分の1を占めている。
 回答法人の役員数は平均して3.5人、常時雇用従事者数は9.8人である。常時雇用従事者数を企業形態でみると、共同経営の法人や集落型の法人などでは10人以上、民間とのベンチャービジネスでは30人以上のものが多い。売上高規模別では1〜2億円層では10人以上、2億円以上層では30人以上の雇用者数となっている。
 売上高や収益の動向をみると、売上高がこの5年間に「増加した」と答えた法人割合は44%、「ほぼ同じ」が20%、「減少した」が36%であった(表−1)。近年の厳しい経済・市場条件にもかかわらず、売上高を伸ばした法人割合が減らした法人割合よりも6ポイントほど多い(※図2)。売上高を伸ばすために、多くの法人が工夫をこらしてさまざまな事業戦略に取り組んできた結果でもある。
 品目別にこれをみると、稲作・麦大豆作や施設野菜などでは売上高を伸ばした経営が多いが、花卉・花木や露地野菜では減らした法人が多い。国内需要の低迷や輸入野菜の増加などの影響によるものであろう。
 収益の状況については、収益を確保していると答えたのは14%、損益がほぼ均衡していると答えたのは55%で、7割の法人が存続可能な収益条件の下にある。しかし残り3割の法人は赤字決算である(※図1)。赤字決算法人の割合が高いのは、花卉・花木、施設野菜、果樹などであり、売上高規模別では3000万円未満の小規模経営である。また、3000〜5000万円層、5000〜1億円層でも、3分の1の法人で損失が発生している。農業法人といえども、全ての経営が安定した条件のもとにはないということである。

◆多角化などの事業戦略と他産業との提携
  6割が他産業と提携コスト低減が大きな課題

 回答法人の事業戦略についての設問では、生産コストの引き下げ(66%)、農産物の品質向上(60%)、収量の増加(51%)がいずれも5割を超えている(※図3)。従来から言われている収量増加や品質向上のほかに、生産コストの低減が大きな課題として意識されていることがわかる。
 次に続くのが販売力強化(39%)、規模拡大(19%)、農産加工(17%)、新品目の導入による複合化(15%)である。また、教育・研修事業(6%)、観光サービス(6%)、バイオマス(2%)など多様な新規事業への取り組みもみられる。
 収量増加や規模拡大という従来の農家の伝統的な路線のほかに、品質向上や販売力強化という高付加価値化の取組み、そして農産加工、複合化、新事業部門の導入という多角化の取組みが、これらの農業法人の重要な事業戦略になっていることがわかる。
 これを作目別にみると、全部門で共通するコスト低減、品質向上、収量増加のほかに、稲作・麦大豆作では規模拡大、施設野菜では販売力強化と複合化、果樹作では販売力強化と農産加工、露地野菜では農産加工などの割合が高くなっている。
 ところで、最近は他産業の事業者との提携を通じて経営成長をはかる法人の動きが目立っている。今回の回答法人の中でも、他産業事業者と提携している法人は実に6割近くに上っている。提携分野では、農産物や農産加工品の販売が多く、次いで資金調達、経営情報の利用、労働力の有効利用、加工品の開発などが続いている(表−2)。
 提携している事業者の業種は、農産物や農産加工品の販売では、卸売業者等の流通業者がもっとも多く、次いでスーパー・百貨店等の小売業者、食品加工業者、外食・給食・宿泊業者などである。売上高規模別では、5000万円未満の階層では中間流通業者のみが多いが、売上高が高くなるにつれて提携先も食品加工業者や外食・給食・宿泊業者などその業種が広がっている。また、事業提携のほかに、資本出資や人的交流も14%の法人で行われている点が注目される。作目別では施設野菜や露地野菜などで多い。

農産物の販売先選択とその理由
 取引先選択は価格安定性と価格水準今後は直販・加工外食へ

 農産物の販売先のうちJA系統(委託販売を含む)が過半を占める作目は麦・大豆(90%)、生乳(67%)、牛肉・豚肉(56%)である(※表3)。しかし、その他の作目ではJA系統の割合は半数を割っている。JA系統以外の主な販売先は米、野菜、花卉・花木では集荷・卸売業者(市場出荷を含む)と消費者等への直販、果実は生協等の消費者グループと消費者等への直販である。
 販売先を選択する上で重視する条件は、いずれの法人でも価格の安定性と価格水準をあげている。
 このほかに米、野菜、花卉・花木では取引の継続性を、果実では出荷作業の簡便性を、牛肉・豚肉では決済時期を、麦・大豆では政策支援の有無をあげている(※表4)。
 このうち米についてみると、まず売上高規模別では、上位階層が価格の安定性や取引の継続性を販売先選択の条件として重視しているのに対して、下位階層では決済時期や出荷作業の簡便性、政策支援の有無をあげている。
 さらにこれをJAの利用割合との関係でみると、JAの利用割合が20%未満のグループでは価格水準、価格の安定性、取引の継続性を重視しているのに対して、20〜80%のグループでは決済時期を、80%以上のグループでは出荷作業の簡便性や政策支援の有無を重視している。
 今後取引数量を増やしたい販売先はどこかという設問に対しては、消費者等への直販(58%)、JA系統(27%)、加工・外食業者(27%)、集荷・卸売業者(24%)、生協等の消費者グループ(24%)などがあげられている(※図6)。依然として直販の希望がトップにあるが、JA系統への回帰の動きもみられる。しかし、法人の収益状況やJA系統の利用割合との関係でみると、収益を確保している法人や利用割合の低い法人ほど、直販や加工・外食業者への販売希望が強く、JA系統への販売を増やしたいとする法人は、従来からJA系統の利用割合の高い法人に限られている。

◆資材の購入先選択とその理由
 肥料・農薬では半数以上が系統利用農機はアフターケアで決める

 生産資材の主な購入先をみると、JA系統のシェアが半数をこえているのは肥料と農薬であり、園芸用施設や園芸資材、飼料などは資材流通業者からの購入割合の方が高い。また、農業機械、園芸用施設、飼料などはメーカーから直接購入する法人の割合が高くなっている(※表5)。
 生産資材の購入先を選択する上で重視する条件としては、いずれの品目でも第1に価格があげられている。これに加えて肥料や農薬、飼料では品質が、農業機械や園芸用施設ではアフターケアが、園芸資材では品揃えがあげられている(※表6)。
 資材流通業者と比べてJA系統の資材価格は高いかという設問に対しては、園芸用施設、園芸資材では74〜75%の法人がJA系統の方が高いと答えている。しかし、農業機械、飼料ではその割合は54〜56%に低下している。前者ではアフターケアが、後者では品質が重視されているからであろう。
 肥料や農薬についてもJA系統の方が高いとするものが70〜73%あるが、その一方でほぼ同価格と答えた法人も少なからずある点が注目される(※表7)。
 以上、耕種経営を中心とする農業法人の経営概要と事業戦略の現状について分析してきた。
 JAグループはこのような中心的担い手ともいえる農業法人と、これからどのように新たなパートナーシップと協力関係を築くことができるのか、これからのJAグループの取組みに期待したい。

(2006.9.5)


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