農業協同組合新聞 JACOM
   

検証・時の話題

流通最前線 「米卸の動向を探る」

米の流通自由化で問われる「卸」の機能

荒田農産物流通システム研究所代表 荒田盈一

 米政策改革では流通規制も撤廃された。産地では「売れる米づくり」を課題にし、JAグループは米事業改革に取り組んでいるが、この間にコメの流通業界ではどのような事態が進行しているのか。とくに最近の米卸業界の再編は何を意味しているのだろうか。今回は米流通を専門分野とする荒田盈一氏に検証してもらった。

「大量仕入れ」と「小分け機能」の行方は?

◆流通ルートの短縮で直接取引が急増

荒田盈一 氏
あらた・えいいち
昭和22年山形県生まれ。國學院大学経済学部卒業。元日本米穀小売商業組合連合会専務理事(週刊米穀商編集記者)。現在、農業問題(米穀流通)ライター。主な著書に「動き出した米改革」(平成16年9月、農林統計協会、分担執筆)、「地域特産『だだちゃ豆』の現状」(平成18年10月 農林リサーチ)、「新生全農米穀事業改革と米を巡る情勢」(平成18年4月 月刊NOSAI)など。

 職責や立場を離れた米流通関係者が「米穀流通における卸売業者の機能と役割」を話題にする時、導き出される答えは「米穀流通における卸売業者の役割は終った!」である。そして、「その存在の新たな必要性はあるか?」に対して答えに窮する状況にある。卸売業者は「生産者や製造業者から(一時的に米を)大量に仕入れ小売業者に売り渡す(講談社・日本語大辞典)」に分類される。しかし、現行の米穀流通では大量仕入の卸売業者が「小売業者に小分け販売する業務」の必要性が問われている。 管理と規制を柱に運用された食糧管理法が廃止され、平成8年から食糧法に移行した。しかし、流通ルートは、生産者→単協→経済連(現在は全農県本部)→全農→卸売業者→小売業者(量販店を含む)→消費者に一気通貫で流通する制度は崩れず、大宗としては残った。その後、食糧法は一層の緩和を目的に平成16年4月1日に改正され、改正食糧法がスタートした。改正法は「必要最小限の規制」が謳われ、規制の適用は「異常時の例外」への限定を意味した。そのため平常時の流通規制は全面的に撤廃され、「原則自由」になった。
 また、「計画流通制度の廃止」で計画流通米と計画外流通米の区分が消滅し、計画流通米を扱う集荷業者(第一次出荷取扱業者=単協、第二次出荷取扱業者=経済連・全農県本部)と販売業者(卸売業者・小売業者)の「登録業者(流通業者区分)制度も撤廃」された。改正食糧法で新たに「届出制」が導入され、単協から小売業者まで「届出事業者」として一括りにされた。しかも「届出事業者」の要件は規模要件に限定され、年間取扱数量は約340俵、つまり、4ha程度の生産者と1日1俵販売する販売業者も届出事業者の要件を満たすことになり、約200万戸販売農家が販売業者として誕生、流通のライン数が激増した。
 流通ルートは生産者・生産者団体(JA単協・全農県本部)から、直接、販売業者(卸売業者、小売業者・量販店)・実需者(外食産業等)・消費者へと一気に短縮された。一方、生産者は作る自由の獲得に至らなかったが「売る自由」を獲得した。生産者の直接販売対象は数量規模の関係で消費者や小売業者であり、生産者と小売業者の距離は急速に縮まったが逆に取扱数量の大きい卸売業者は外された。

業界再編はJAの米販売戦略の課題も示す

◆過剰供給と仕入先の自由化で消滅に向かう卸売業者

 卸売業者には流通制度改革の弾力化と自由化で一層の改革が求められ、その混迷する姿は全国団体に投影される。昭和26年に事業協同組合系卸売業者が組織した全国食糧協同組合連合会は平成11年7月に全糧連協同組合に合併吸収される形で消滅。さらに13年10月に商人系の卸売業者の全米商連協同組合と統合を図り、全国米穀販売事業協同組合と名称を変更、卸売販売業者の全国組織として現在に至る。それでも個別卸売業者の解散・廃業が日常的に続き、民間卸売業者を中心にJA系統卸売業者も視野に入れながら、合併・統合が急速に進んでいる。
 卸売業者は食糧法で営業地域を都道府県別に限定された。一方、卸売業者の主要な取引先であった小売業者の営業地域は限定から外されて全国展開が可能になった。仕入の規制も撤廃され、どこからでも誰からでも仕入が可能になった。
 この結果、卸売業者の悲劇は、撤退しても小売業者・実需者、消費者に供給不安が発生しないことにある。その背景として指摘されるのは過剰な需給環境と制度改正による小売業者や実需者の仕入・販売先の自由化。廃業した卸売業から100%仕入れていた小売業者は「仕入を懸念していたが心配は全く無用であった。代替の仕入先を簡単に見つけた」と流通制度の改革を肌で実感したと振り返る。
 卸売業者の役割とされた小売業者に対する「小分け機能」は、運送料金が自由化で下がり、宅配業界による配送時間の短縮等構造改革も伴って生産者が代替した。直接販売にはJAも続いた。当初、大手小売業や中小の外食事業者をターゲットにして販売先を確保した。生産者もJAも卸売業者が販売先としていたエリアの侵食が実現した。制度改革によって小売業者の仕入先は卸業者から離れた。
 その後、単協の合併で大型化が進み、集荷・販売数量が増大、数万トンを扱う単協も誕生、大型JAは卸売業者との取引関係を深めている。

◆存在していた旧態依然の取引慣習と急がれる改革

 このトレンドに乗れない卸売業者は撤退を迫られる。全米販は「米穀卸売業者の事業展開の方向」を平成14年5月に取りまとめたが(1)大手卸売業者の寡占化(2)中小卸売業者の合併・業務承継等による実質的な廃業、に集中して終わった。
 今年、全米販は新たな方向の策定に迫られて卸経営検討会を設置、9月に健全な経営確保の「8つの方策」を策定した。8つの方策とは(1)量販店等の取引先との公平性、透明性、合理性に基づく取引契約の締結(2)取引先、同業他社の不公正取引の排除(3)ブレンド米・卸ブランドによる販売促進(4)不適正表示精米製品の排除(5)一般精米・規格外精米との区分化(6)仕入れの効率化(7)適正な入札取引(8)消費税への対応、である。それぞれの項目は米の販売促進や消費者の信頼確保を課せられた卸売業者にとって、当然の任務である。
 この中で卸売業者を凋落させた一因とされる米取引の歴史的な商慣習の存在を自己批判的に指摘した。(1)で一部大手取引先を除けば、取引契約は未締結であり、締結しても不明瞭なケースの多いことを認め、基本的契約の締結の促進と契約内容の改善について取引先団体や量販店に働きかける。(2)で公正取引上疑義のある場合は公正取引委員会へ調査の申し出、関係業界団体に改善の要請。販売先の取引で不当な返品・値引き・協賛金の要求など不合理な取引の排除に努める。仕入先の取引手法・条件が不公正と認められる場合、同業他者による不当廉売が存在する場合は直接、あるいは関係各方面に改善を要求、排除を要請。(6)の仕入の効率化については販売に直結した仕入れに努めるほか、長期的な購入契約(特定契約や事前年間契約)で販売が確実な数量だけを手当てするとした。
 今まで規制と管理に縛られていた卸売業者に取引上の契約意識がなかったこと、取引先との関係において弱い立場でありながら、販売に直結しない販売先の不確実な数量まで仕入れるという一般の商品取引では信じられない歴史的遺物として残されていた取引慣習の実態を赤裸々に告白した。

バイイングパワーによる低価格路線が波及

◆低価格志向の外食産業・量販店は直接JAと交渉

 卸売業者の新しい事業対象は全国規模で展開する大型外食事業者・量販店、大型JAとの三者間契約取引に向かっている。三者間の力関係が5分であれば卸売業者にとって、健全経営が保持できる。しかし、低価格志向を強める量販店や外食事業者は三位一体の関係よりもJAとの直接関係を強め、価格・数量の交渉から卸売業者をはずす方向を模索しており、暗雲が立ち込めている。最近の事例で大手外食事業者が卸売業者の「搗精賃」入札を実施、卸売業者に対して「精米業者の機能」だけを求める事態も発生している。入札に敗れた卸売業者が差し替えられ、差し替えられた当該卸売業者は仕入先と販売先を同時に失い廃業を余儀なくされた。落札した卸売業者も扱い数量の増大が目的だけで「搗精賃」の採算ベースを考慮した行為だったのか疑問視され、関係者に波紋を呼んでいる。
 量販店や外食事業者が卸売業者を飛ばして、「売れる米づくり」の達成に対応する大型JAとの直接取引が一時凌ぎではなく、日常的になるとの予想もあり、両者間で取扱数量と価格が成立すれば卸売業者の出る幕はない。
 今後、懸念されるのはバイイングパワーが卸売業者だけでなく、JAをも上回り、低価格が一段と波及することだ。大型単協が卸売業者の二の舞に陥る可能性も高い。現実は量販店と取引する卸売業者が「量販店で利益が取れない」と口を揃えて嘆く、量販店も米の利益率が低いと不満を漏らす。それでも消費者のニーズを根拠に「低価格」を販売業者に押し付ける悪循環が続いている。
 卸売業者の主たる販売先である小売業者・大手量販店・大型外食事業者は米流通制度の改革、不況で推移した低調な経済活動への対応を図り、独自の仕入先を確保した。対応の遅れが否めない卸売業者は仕入先と販売先に挟み撃ちされている。
 米販売を巡る厳しい状況は、旧態依然の卸売業者に撤退を迫る。残された卸売業者の機能が「搗精業者」だけと悲観的な見方がある中で、内部に潜む歴史的な固有の課題の同時解決に迫られ、それが現実的に可能か、時間的に間に合うか瀬戸際に立たされている。

(2006.10.23)


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