農業協同組合新聞 JACOM
   

検証・時の話題

米国中間選挙結果と農業政策(1)

民主党圧勝で強まるか保護主義

 11月7日に行われた米国の中間選挙結果は、上院、下院とも民主党が共和党を上回り党勢が逆転した。ブッシュ大統領が始めたイラク戦争への米国民の批判の高まりとされているが、一方で今後のWTO農業交渉、07年に検討される米国農業法など農業政策にどう影響するかも注目される。
 今回は服部信司東洋大学教授に寄稿してもらうとともに、鈴木宣弘東京大学教授に米国の農業政策の鍵を握るとされる酪農地帯の政治動向を中心に話を聞いた。

家族農業と地域経済重視が伝統

◆共和党の退潮傾向明確に

 米国の選挙制度は、下院が2年に一度の総選挙、任期6年の上院は2年に3分の1が改選される。今回は、4年に一度の大統領選挙の中間に実施されることから中間選挙と呼ばれる。
 下院は議席数435で11月17日現在、未確定議席が4あるが、民主党が躍進し過半数を上回る232議席を得ている。
 一方、今回の上院の改選議席数は33で、オハイオ、ペンシルバニア州など北東部とミズーリ、モンタナ州などで民主党が議席を奪還した。結果は民主系無所属も含めて民主党が全100議席中、51議席と過半数を獲得している。(図)
 JA全中が発行する『国際農業・食料レター』11月号では中間選挙前の情勢として民主党の優勢を伝え、同時に主要品目と産地別の選挙前の党勢情勢を掲載した。本紙ではそれをもとに今回の選挙結果をまとめて選挙前と選挙後の上下院の党勢の変化をみてみた。(表)
 主要農業地帯をみると共和、民主の勢力が選挙前と変わらなかったところも多いが、共和党が大きく議席を減らしたところもある。たとえばトウモロコシ・大豆生産量が比較的多いインディア州では下院で共和党は3議席、酪農が盛んなペンシルバニア州で4議席、ニューヨーク州で3議席、議席数を大きく減らした。全米一の野菜・果樹産地のカリフォルニアでは民主党が選挙前よりもさらに議席を伸ばした。また、カンザス、フロリダ、テキサスなどでは共和党の優勢は変わらないものの議席数は減った。

◆農業政策で鍵握る酪農地帯

 民主党は伝統的に家族農業の存在意義を重視してきたといわれる。政策としては農業保護を重視する。
 鈴木宣弘東大教授は、「共和党主導の議会であっても、農政では十分に補助金を出すなど保護主義的な姿勢をとってきた。端的にいえば、民主党主導になれば一層、国内保護の削減余地がなくなる。WTO交渉で国内支持削減をという他国からの要求を受け入れ合意するということはさらに難しくなるのではないか」と話す。
 とくに注目すべきと指摘するのは、民主党がこれまで政治力を発揮した酪農政策。「米国の酪農政策は日本でいえばコメ政策にあたる」という。
 ウルグアイ・ラウンド合意によって、米国の酪農もそれまで数量制限で輸入をほぼ受け入れていなかったものが乳製品が関税化されることになった。
 ウルグアイ・ラウンド合意の後に策定された96年の米国農業法では、米国でも酪農政策については国際化によって受ける価格下落の影響をどう緩和するかということが議論された。具体的には、乳製品の原料となる加工原料乳の価格が下落した場合に、それと連動して飲用乳価まで下落したのでは経営が持たなくなるということだったという。
 とくに小規模酪農を保護する措置が必要だとの声が強まり、特別な価格の直接下支え措置を小規模経営が中心のバーモント州など特定の地域にだけ認めるという政策が盛り込まれた。これが「北東部諸州酪農協定」といわれるもの。この規定を農業法に盛り込ませたのがバーモント州選出の当時の上院議員で上院の農業委員長だったという。
 これは農務長官が社会的に必要性を認めた場合には、北東部諸州に限って連邦全体で決める基準価格に拘束されない高い乳価の支払いをメーカーに命じることを認めるものだった。
 もちろん他の酪農地帯、とくに加工原料乳の大産地であるミネソタ州、ウィスコンシン州は、他地域の飲用乳価が高いために自分たちの地域の加工原料乳が増えると反発したが、この特例措置が盛り込まれてしまったことに、鈴木教授は、「バーモント州などの政治力の強さ」を物語っているという。

ジレンマ深まる米国のWTO交渉

◆地域経済支える小規模農家を一層重視?

 その後、02年農業法の制定では、当然、地域を特定した価格補償は不平等だとして問題になったが「それならばこの措置を全米に広げればよい」と廃止ではなく逆に全米に適用させるという政治力を見せつけた。
 02年農業法では穀物でも市場価格変動対応型支払いという実質的な不足払いが復活したが、酪農では酪農版の価格変動対応型支払い、すなわち北東部諸州を対象にした特例措置が、全米の小規模酪農に配慮する政策として改めて位置づけられたのである。
 仕組みは生産量に限度を設けた「頭切り」方式で乳価補償を行うというもので、これまでは乳業メーカーの支払い義務だったものを財政負担とした。足切りではなく生産量の頭切りとする制度に小規模酪農の位置づけが読める。
 「こうした制度こそ、民主党的な政策。期限付きの政策だったが今回の選挙で民主党が力をもったことから延長論が勢いを増す可能性は高い」と鈴木教授は分析する。
 表に示したように米国北東部の伝統的な酪農地帯では民主党の勢力が強まった。また、地域経済を中山間酪農が支えているという認識が強いという。
 一方、米国の削減対象の国内助成金(黄の政策)の75%は酪農政策が占める。WTO交渉で削減要求に応じればそれは酪農を直撃することにもなる。また、米国は上限関税を75%(先進国)に設定すべきと主張しているが、自国の乳製品には100%の関税がかかっているという矛盾も抱える。
 「民主党が議会で主導権を握ってもWTO交渉での主張に大きな変化があるとは思えない。むしろ酪農だけをみても自国の農業を守るという立場を強めれば、外に向けての主張とのギャップがますます大きくなる。
 他の分野でも同様の主張が強まることも考えらるのではないか」と鈴木教授は話している。

(2006.11.27)


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