農業協同組合新聞 JACOM
   

検証・時の話題

06年食料・農業・農村とJAグループ

戦後農政の大転換に期待と不安、入り交じった年

「地域貢献」を決議したJAグループの役割高まる

 担い手経営安定新法など農政改革3法案が国会で成立した今年は、戦後農政の大転換と叫ばれた。10月に開催された第24回JA全国大会では「担い手づくり・支援を軸とした地域農業振興」を柱とした大会決議を採択した年でもある。そのほか都市・農村格差、食の安全をめぐっては今年もさまざまな課題があった。2006年は、食と農、農村、そしてJAグループにとってどんな1年であったかJAトップや消費者、研究者などの意見から振り返ってみたい。

2006年 食料・農業・農村とJAグループをめぐるニュース

1月 米国産牛肉の輸入再停止−せき柱混入で
2月 全農改革推進本部を設置−JA全農
3月 JA全農「新生プラン」決定
4月 「21世紀新農政2006」を決定
   −政府の食料・農業・農村政策推進本部(小泉首相本部長)−
5月 ポジティブリスト制度施行
6月 担い手新法など農政改革3法が成立−米の需給調整、19年から新システムへ
7月 米国産牛肉、輸入再々開
    WTO交渉中断
    梅雨前線による「7月豪雨」で農業被害935億円
8月 食料自給率8年連続40%−17年度自給率統計
9月 全国農産物直売ネットワークが発足
    台風13号、佐賀など九州に被害
    農水省、農地政策の検討打ち出す
    安倍内閣発足−地方の活性化を重視
10月 米不作「96」−佐賀は作況「49」で戦後最低
    第24回JA全国大会開催
11月 暖冬で大根、はくさい、キャベツなど産地廃棄
    韓国で鳥インフルエンザが発生
12月 有機農業法、国会で成立
    日豪EPA、政府交渉入りを決定


担い手づくり、現場の理解になお課題

◆生産者の納得づくで進んだか?

10月、「担い手づくり・支援を軸とした地域農業振興」を決議した第24回JA全国大会
10月、「担い手づくり・支援を軸とした地域農業振興」を決議した第24回JA全国大会

 6月、担い手経営安定新法など農政改革3法案が国会で成立した。この新たな政策は「政策のあり方を大胆に見直し、やる気と能力のある担い手を対象とした」(中川前農相談話)支援(直接支払い)を行うものだ。これに対応してJAグループは16年度から進めてきた集落営農組織づくりを中心にした担い手育成・確保に本格的に取組み、10月に開催された第24回JA全国大会では「担い手づくり・支援を軸とした地域農業振興」を柱とした大会決議を採択した。
 確かに全国各地で担い手づくりが本格化し戦後農政の大転換に向けて走り出したが、中川前農相は新法成立時の談話で「ひるがえれば農業・農村に大きな影響を及ぼすものであることを肝に銘じて進めていかなければならない」ことも表明していた。
 担い手づくりに取組む現場ではどう受け止められたか。
 JAみやぎ登米の阿部長壽組合長は「まさに担い手問題が顕在化した1年。生産者を選別するという政策は、日本の伝統的な家族農業経営を根本から解体しかねないし、また、農村地域社会にも大きく影響するのが、この担い手論だと受け止めている」と話す。
 とくに担い手育成が本格化するなかで懸念されるのが「法人化論だ」と指摘する。担い手育成、イコール法人化といった、いわば目的と手段を同一化してしまった議論に急速に傾斜していないかという指摘だ。

◆集落営農、問題点も浮上

 一方、担い手づくりが真に本格的な動きだったのか、と疑問を投げるのは梶井功東京農工大学名誉教授だ。
 「担い手に支援を絞ることで日本農業は大丈夫なのか、望ましい農業構造は実現できるかという批判に応えず走り出してしまった感は否めない」と強調する。一方、JAグループは大会議案の議論の過程で、小規模・兼業農家の役割を位置づけ、また、担い手づくりでは集落営農の組織化を重視してきた。
 「しかし、集落営農組織についても国は法人化計画を要件とするなど一定の枠をはめた。とくに中心的な担い手の所得目標を掲げるのでは、その他の参加農家にすれば結局自分たちは切り捨てか、という思いを持ってしまうのではないか」。
 また、集落営農組織には面積要件もあるが、そもそも面積の不足する集落が多い地域では、JA出資による法人が集落を越えて面積をまとめ、実際には農地を預けた生産者が自ら耕作する方式からスタート、いずれは独立した法人になるという構想なども現場から生まれた。
 この方式についても梶井氏は「要件をクリアするだけのための、いわば形づくりの話し合いになった面はないのか。むしろ本当に地域農業のためになる政策とは何か、是正を求めるべきという反転のエネルギーが出てくる話し合いこそ本格化させなければならない年ではなかったか」と厳しく振り返る。

◆担い手と「農地」も課題

 担い手、集落営農については他にもさまざまな見方がある。
 本間正義東大教授は「担い手づくりが本格化するなか、農地の貸し剥がし問題が表面化したのが今年。担い手には二重構造問題があることが明らかとなり、日本農業の真の担い手は誰か、が改めて問われた」と話す。本間教授は集落営農も含めて多様な農業者を否定するつもりはないとしながらも「個別農家の経営がつぶれないような集落営農のまとめ方、つまり、軋轢を予測しつつそれを回避するためのメカニズムを持たないまま政策転換したという制度設計のミスが露呈した」と指摘する。
 そのうえで、個別経営にしろ集落営農にしろ水田農業経営の安定にとっては、農地利用集積が鍵となるが「実は今年の農政上の最大のニュースは、農地制度改革に着手することを政府が明言したこと。昨年とのいちばんの違い」と本間教授は強調する。
 今年9月、宮腰光寛前農水副大臣は「農地政策の再構築に向けて」を公表し「農地政策を利用本位」の観点で検討していくとした。「戦後農政のなかで最後に残った柱。利用権集積促進を中心として法制度を一本化するなど再構築に向けた動きがようやく始まったことを評価したい」という。

◆集落営農と村づくり

 一方、前出の阿部JAみやぎ登米組合長は、集落営農ついて、法人化などの要件設定に問題はあるものの、「農協運動の基盤強化、地域活性化につながる問題として整理すべき年ではなかったか」と地域づくりの視点から一定の評価をする。
 一部の個別経営の規模拡大で競争力をつけるという担い手論は、前述のように農村をかたちづくっている家族農業経営という根幹を否定するものとして批判するが、集落営農は「家族農業経営の条件整備であると同時に、協同の力によるむらづくり、豊かな集落づくりであり農協はここにこそ力点を置くべきだということがはっきりした」という。
 地域づくりの観点から集落営農を考えるべきだという点は北川太一福井県立大助教授も指摘する。
 「そもそも、むらの農地を守り次世代につなげていこう、そのなかから本格的な後継者が生まれてくる、という地域維持の思いで集落営農をつくってきた組織は多い。そこに経営体という網を全面的にかぶせたのが現場の混乱の一番の要因」と批判。
 ただし、政策転換のなかでJAの職員が集落まで入り込んで集落営農組織づくりを推進してきたことは、地域やむら、集落を考えるきっかけになっていると評価する。
 一方、品目横断的対策と合わせて実施され「車の両輪」と農水省が説明している農地・水・環境保全対策も今後実施される。「この対策は地域資源維持の担い手全体が対象になるもので、品目横断対策とはベクトルが違う。それを現場で総合化し実態に合った方法で活用することが自治体やJAに求められる」という。第24回JA全国大会決議ではJAの「地域貢献」も柱としたが北川助教授は「協同組合としてのJAが地域にどう関わるのか、集落営農づくりも含め来年は厳しく問われるのではないか」と話す。

◆現場から作る多様な農業

農村地域と消費者を結びつけるファーマーズマーケット
農村地域と消費者を結びつける
ファーマーズマーケット

 地域づくりという点では多様な農業者の役割発揮に現場が力を注いでいることも改めて感じさせられた。それがJAが主導するファーマーズ・マーケット運営などであり今年も好調だったようだが、こうした直売の取組みを象徴する動きとして挙げられるのが9月に発足した「全国農産物直売ネットワーク」でないか。
 代表を務める今村奈良臣東大名誉教授は「地産地消といっても抽象的で各地では手探りで直売の取組みが行われてきたが、どこも熱意は強く直売所間で新しい連携を作ろうという動きになった」と話す。
 直売所は多彩な農産物が必要だ。そのためには多様な農業者が大切になる。また、「売り場で自分の農産物への評価が分かり発奮材料にもなっている。公平原則が実現している」とJAが抱える課題にも応える場でもあるとし「とくに女性、高齢技能者が中心になって農村地域と消費者を結びつけ地域を支える活動としてさらに広げることが大事だろう」と今村氏は話す。

◆「食」の安全と多様性

1月、食に対する考え方が違うことが明らかになった米国産牛肉輸入問題
1月、食に対する考え方が違うことが明らかになった米国産牛肉輸入問題

 多様な農産物は実は消費者にとって必要になっている時代だとを改めて考えさせられたと言うのは、雪印乳業(株)の社外取締役を務める日和佐信子さんだ。
 今年は、昨年成立した食育基本法に基づく食育推進基本計画が3月に決定した。
 「国が個人の食生活にまで関与するのか、という疑問もあるが、やはり今の食生活には問題があるのも事実」と日和佐さん。象徴的な例が大豆イソフラボンやコエンザイムQ10など特定保健用食品の過剰なブーム。食品安全委員会が安全性評価とともに摂取基準なども示した。
 「体にいいと言われたらそればかり食べる。健康の基本は食品にあるはずなのに、曲がった形での健康志向がずっと続いているのでは。農産物も画一的ではなく地域の伝統野菜など多様なものがあることを知れば食生活に深まりも出て豊かになる。消費者にとっても多様な農業は大切です」と話す。
 一方、食の安全性をめぐっては今年も米国産牛肉問題がクローズアップされた。年明け早々に特定危険部位が混入した牛肉が見つかり再禁輸、そして輸入再々開までさまざまな議論があった。再び輸入再開された後にも輸入不適格な事例が見つかっている。
 この問題についてパルシステム生協連の若森資朗理事長は、安全・安心の確保は当然だが「米国と食に対する考え方が違うことが分かったのではないか。食料を外国に丸投げしては安全確保は難しい。それよりも日本の農村社会が崩壊するかもしれないことに対して都市も座して待っていていいのかと思う。それを放っておけば、結局は安全・安心も揺らぐことになる。日本の農業、自給ということを国民全体が考えることをしっかり定着させるべき年ではなかったか」。食料自給率は8年連続で40%と8月に公表された。大きな課題を残している。

◆国際化と地域、JA

12月、地域を根本的に破壊する日豪EPA交渉に「断固反対」を主張
12月、地域を根本的に破壊する
日豪EPA交渉に「断固反対」を主張

 WTO交渉は各国の対立が解けずこの夏に中断。一方、12月には日本政府は豪州とのEPA(経済連携協定)交渉入りを決めた。
 本間教授は「日豪交渉はWTOの先取り。多国間の交渉の広がりを見据えてきちんと戦略を」と指摘、「関税の引き下げはウルグアイラウンドで決まったこと。一喜一憂することなく構造改革を進めよ、私はこれに尽きると思う」と話す。
 一方で日豪EPA交渉問題では北海道が1兆円を超える経済的打撃を受ける試算を発表するなど、自由化への不安は高まった。阿部組合長は「農業だけでなく、地域を根本的に破壊するという国益に関わる問題。根こそぎ壊されるような結果は認められるはずがない」と強調する。
 意見は分かれるが、この年末、国際化は農業という一産業分野だけでなく、地域全体に影響することだとの認識が広がったのは事実。逆にいえば農業は地域社会そのものを支えているということを改めて示した。
 JAはだのの松下雅雄組合長は「市内には正組合員数の3000よりも多い家庭菜園がある。それだけ食と農への国民の関心は高まっている。JA全国大会で地域貢献を決議したが、これを追い風にしながらJAが役割を果たしていく。農業に軸足を置いた協同組合として当然のことだが、それに取り組まないままだったことをわれわれは反省点として来年に向かうべきでは」と話す。「大会決議の実践に向けてアクセルを踏んでいく」ことがJAに期待されている。

(2006.12.25)


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