農業協同組合新聞 JACOM
   

検証・時の話題

品目横断対策と農業法人の対応
「面積要件」の厳しさ浮き彫り

本紙「農業生産法人調査」で明らかに
 本紙が今年1月から2月にかけて行った「大規模農家と農業法人の経営状況とJAグループに対する意識調査」のうち、品目横断的経営安定対策への昨秋の加入申請状況や、新対策の評価などを聞いた結果がこのほどまとまった。集計分析したのは土地利用型農業経営をしている197法人。認定農業者が9割を超える母集団だが、品目横断対策の「面積要件を満たす」と回答したのは45%。このうち昨秋に「加入申請した」と回答したのは68法人にとどまった。申請しなかった理由でもっとも多かったのが「過去の生産実績」。東京大学の谷口信和教授の協力を得て分析した結果を紹介する。

「加入申請した」は農業法人の4割程度

◆多様化する農事組合

 耕種部門経営を対象にしたこの農業生産法人調査には400を超える回答が寄せられた。
 このうち今回は、米、麦、大豆を経営品目としている法人のなかから、株式会社、有限会社、農事組合を選んだ結果、集計・分析対象は197法人となった。経営形態で分類すると株式会社と有限会社を合わせた「会社」(以下、表中の「会社」も同)」は141、農事組合法人は56あった。また、経営面積には作業受託面積も加算し、面積規模別に5階層に分けた結果を表1に示した。
 100ha以上層は全部で23法人で、30%にあたる7法人が農事組合法人となっている。一方、農事組合法人全体でみると、20ha未満層が46.7%を占める。これまで大規模経営は「会社」形態が多く、農事組合法人は比較的小規模、とみられていたが大規模層にも意外に農事組合法人が多いことが分かる。ただ、やはり20ha未満に多いことも示している。
 この点について谷口教授は「品目横断的経営安定対策の実施決定で、農事組合法人の多様化が進んでいるのではないか」とみる。つまり、政策転換に対応した集落営農づくりのために農事組合法人が設立されただけではなく、より大規模経営をめざし、広域で農地利用調整をした例もあるなど、農事組合法人の多様化の一端が表れているのではないかという。
 また、集落営農を基盤にした特定農業団体の要件を満たす法人は全体では18.3%、特定農業法人要件では13.2%となった。とくに農事組合法人ではその割合が高く20%前後となっている(表2)

◆「法人化」のかけ声のなかで…

 認定農業者の割合は全体でも9割を超え、農事組合法人では98.2%となっている。
 しかし、品目横断的経営安定対策の面積要件を満たしていると回答したのは全体で44.6%。「会社」では46.3%とやや高いが、農事組合法人では40.0%と低い結果だった(表3)
 認定農業者であり、しかも法人でありながらも面積要件を満たしているのは半分に満たず、厳しい要件だったことがうかがえる。調査対象には設立して10年〜20年の法人も多い。
 「今回の対策導入にあたって、法人化すれば何とか対応できる、と言われてきたが、法人であっても面積要件をクリアできているわけではないことを示している」と谷口教授は指摘する。
 昨年の秋の加入申請状況を聞くと、申請したのは全体で34.5%にとどまった。規模別では100ha以上層が7割近くともっとも高い。一方、20ha未満層では15%となっている(表4)
 調査では4月からの生産条件不利補正対策への加入申請意向も聞いたが、意向があると回答したのは全体で11法人だった。これらを合わせても新対策への加入は40%程度にとどまるという結果だ。
 今回の分析対象は、米、麦、大豆のいずれかを販売品目としている法人であるが、それらの経営面積は少なく野菜、果樹などが中心の法人も含まれる。ただし、少ないとはいえ法人経営にしっかり組み込まれている。
 この結果は、こうした法人では対策の対象になれないケースも少なくないことを示しているのではないか。
 「経営の中心が米、麦、大豆ではないとはいえ、兼業農家ではなく法人としての経営品目にはなっている。対策の対象にならないと生産からドロップアウトする可能性もあるのではないか。それらの農地が対策に加入した農業経営に集積されるか、といえば地域によってはその法人が唯一の土地利用型農業の担い手だということもあろう」。その場合、地域の生産力が落ちる可能性も懸念される、という。自給率にも影響するのではないか。

「過去の生産実績」が意欲に影響?

◆メリット感じてもなぜ、加入できない?

 なぜ、今回の対策に加入しなかったのかを聞いたところ、もっとも多かったのは「過去の生産実績がないから」だった。全体で59.3%とほぼ6割にも達した。「対策に加入してもメリットがないから」の11%を大幅に上回る(表5)。メリットがないと感じているのではなく、加入したくても、要件である「過去の生産実績」がないからというのが、加入申請率を引き下げていることが示されている。
 全体として経営面積は大きくても麦や大豆を作付けていなかったことから、法人であっても対策の対象になれない例があることを示している。
 今回の対策は土地利用型農業の担い手を支援するという目的とともに、水田農業の構造改革を進めるという狙いがあった。
 「しかし、構造改革を進めるという点では過去の生産実績がないために、加入意欲をそいでしまっていることが伺える。構造改革を促進しようというなら、過去の実績ではなく、今後の担い手の可能性について評価するという視点が重要。それが対策に組み込まれていなかったことがこの結果に表れている」と谷口教授は強調する。
 こうした点も反映してか、この対策についての評価は階層によって分かれた(表6)
 100ha以上層と加入申請したグループでは「役に立つ政策だから賛成」が高率だが、面積規模が小さい層や農事組合法人では「かけ声にくらべれば内容が貧困だから再考の余地あり」の割合が高くなっている。

◆広域での農地利用調整に期待

 一方、担い手を支援するとする今回の対策導入によって「作業受託する農地が増えた」と回答したのは全体で21.8%あった(表7)。大規模層や加入申請した法人ではその割合が高くなっており、規模拡大のきっかけの要因となっている面があることも伺える。
 他方で借地農地の返還を求められたというケースもある(表8)。その理由として集落営農の組織化をあげる回答が多かったが、農地転用や売却、その他新規就農のための農地返還などが合わせて40%を超えている。一部で喧伝されているような集落営農の組織化だけが借地農地の返還の理由とはなっていないことが分かる(表9)
 むしろこれからの農地利用調整対策で期待するのは、集落での協議よりも「農地保有合理化事業を使った利用権設定」の項目が高い(表10)
 こうした集計結果をふまえて谷口教授は、
 「法人経営にとっては集落内だけで利用調整を解決するのではなく、広域で解決しなければならない問題になっている。保有合理化事業への期待の高さにそれが現れている」と話す。

   ◇

 品目横断的経営安定対策の導入に対応して集落営農の組織化も含めて担い手づくりが各地で進められてきた。そのなかで法人化も叫ばれている。
 しかし、今回の調査では法人であっても必ずしも政策支援の対象にはならない実態を示した。本紙が調査した農業生産法人はこれまで継続的に協力してもらっている法人が中心で日本の代表的な経営も多い。農政改革の議論のなかで、しばしば「法人化」が強調された際に念頭に置かれていた存在だともいえるだろう。
 その法人からみても「再考の余地あり」の声が多い。とくに「過去の生産実績」という要件は、自給率の一層の低下にもつながりかねないケースを生み出す懸念も示された。
 改革の目的を改めて明確にし、農政の転換期の実態を検証し続けることが大切だ。

(2007.4.3)


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