農業協同組合新聞 JACOM
   

検証・時の話題

GAP(Good Agricultural Practice)  適正農業規範
基礎GAPからのステップアップで
「国産は安全」を裏づける手段
 最近「GAP元年」という言葉を目にしたり聞いたりすることが多い。例えば先ごろ策定された「21世紀新農政2007」でも「新たにGAP(農業生産工程管理手法)…等の工程管理手法を積極的に導入・推進し、生産から食卓までの食品安全を確保する」、「平成23年度までにおおむね全ての主要な産地(2000産地)においてGAPの導入を目指す」としている。 しかし、GAPとは何のことなのか? そしていまどのような状況にあるのかなどを考えてみた。

◆GAPとは「よい農業のあり方」のこと

 GAPとは、Good Agricultural Practiceの略で、ギャップとかジーエーピーと呼ばれ「適正農業規範」という訳語が一般的に使われている。
 日本語訳の「規範」という言葉には厳格なイメージがあり、難しいものではないかと思われがちだが、英文を直訳的に読めば「よい農業のあり方」ということになる。
 具体的には、生産工程や使われる生産資材ごとにリスク(危害)要因を分析し、生産工程の各段階でその危害を排除するような作業内容や、農業活動を原因とする環境負荷の低減、農作業での作業者の安全と福祉といった具体的な内容をあらかじめリストアップして、それを実践、記録し、さらに次シーズンに向けて作業内容を見直すという一連の取り組みのことだ。「合理的な農業の実践」と農水省は位置づけている。
 作業内容を文書化し記録に残すことは、合理的な作業を着実に実施するうえで有効であるだけではなく、何か問題が起きたときに、原因を明らかにしたり、改善点を検討するときにも有効だといえる。

◆安全性の確認を「工程管理」で行う

 「国産は安全だ」とよくいわれる。だが言葉だけでは「安全」だということの証にはならない。安全で高品質な農産物を生産するための基準を設定し、それを実践し記録することで「安全」の裏づけを担保するというのが、GAPの基本的な考え方だといえる。
 農産物の安全性を確認する方法としては、収穫物を検査する「結果管理」と、農作業の各工程を記録・点検する「工程管理」の二つの方法がある。
 結果管理では、収穫され出荷されるすべての農産物を検査することはできないし、残留農薬の検査(約500種類)をするだけでもお金が必要になる。また、分析対象のロットの安全性は確認できても、隣のロットの安全性まで確認できるわけではない。
 一方、工程管理は、産地全体で取り組めば一つのロット検査によって産地全体の生産工程管理の妥当性が確認でき、その産地から出荷された全体の安全性を保証することになる。しかも記録がされているので、消費者や実需者への説明や問題が起きたときの原因究明もでき、経済的な負担も少なくてすむことになる。
 これがGAPを主要な産地に広めようという理由だろう。

◆世界標準になりつつあるユーレップGAP

 すでにヨーロッパには食品事業者などの団体であるEurep(欧州小売業協会)によって、環境保全・労働安全・労働福祉・家畜福祉などの考えも盛り込み、統一化・共通化されたEurep(ユーレップ)GAPがある。この協会に加盟する食品小売業者と取引きをするときには、EurepGAPの認証取得が契約の必須事項となっている。日本の生産者がEUに農産物を輸出したいときにもEurepGAPの認証取得が必須となるため、すでに認証を取得している人もいる。
 中南米、アフリカ、アジアの各国では、国の主導のもとでGAPの導入・推進がはかられ、メキシコやチリなどではEurepGAPと同等性認証を取得するなど、EurepGAPは食品の安全性を保証する「世界的なスタンダード」となりつつある。隣国の中国でもChinaGAPをEurepGAPの基準に合わせる取り組みが行われている。
 日本でも国が平成17年4月「『食品安全のためのGAP』策定・普及マニュアル(初版)」と、同年11月には「入門GAP」(たたき台)を公表し、都道府県における推進体制を整備、さらに今年3月には米・麦・大豆・施設野菜・露地野菜・果樹・花きの7品目について生産者用と産地用の「基礎GAP」を作成するなど、GAPの普及・推進に力をいれてきている。

◆温度差が大きい生産者の意識

 しかし、関東農政局が行った調査によれば「食品GAPを知っている」と回答したのは、回答者540人のうち26.3%とどまっている。「詳しくは知らないが、聞いたことがある」が51.5%を占め、「知らない」が22.2%もあった。EUなどに輸出するときにはEurepGAPの認証取得が必要だが、国内で流通するだけなら必要ないという意識が強いことがこの結果となって表れているのではないだろうか。
 しかし、ChinaGAPがEurepGAPと同等性を取得すると、 ChinaGAPを認証取得した中国からの農産物の安全性はEUと同等だということになる。そのとき、日本の農産物の安全性は何を担保にしているのかが、改めて問われることになる。

◆話し合い、できることから  JAほくさい北川辺支店トマト研究会

JAほくさい北川辺支店の選果場風景
JAほくさい北川辺支店の選果場風景
 そうした危惧を抱き、自主的にGAPに取り組んでいる産地もある。埼玉県のJAほくさい北川辺支店トマト研究会もその一つだ。
 同研究会は41年の歴史をもっているが、平成10年の埼玉県ダイオキシン問題や輸入農産物の増加による産地間競争の激化に対応する手段として、数年かけてHACCP方式の考え方を取り入れた自主管理マニュアルを作成し、15年からそれに基づく生産方式に取り組みはじめた。16年度には清掃・消毒などの衛生管理ができ、トレーサビリティ機能を備えた選果施設を新たに導入。北川辺トマト「木甘坊(きかんぼう)」として出荷している。トマトとしては全国初のGAPの取組みが評価され、18年度全国農業コンクールで入賞している。
ほこりなどを抑えるためにハウス通路にもみ殻
ほこりなどを抑えるために
ハウス通路にもみ殻
 具体的な取り組み内容はGAP管理マニュアルの策定水質検査▽土壌検査▽肥料や生産資材の品質確認栽培履歴の開示▽病原性微生物など生産物自主検査選果場改善(基本設計や衛生管理)選果場従業員(主にパート)の衛生教育の徹底、そしてGAP管理の浸透・徹底などがあげられる。なかでも、GAP管理の浸透・徹底では、会員である男性陣だけではなく、男性会員とともに農作業をする女性陣の意思統一に時間をかけたと、JAでトマト研究会を担当する多田富雄さんは語る。
 そしてなによりも全員で話し合いできることから実施し、ステップアップしていく管理は強制するのではなく自主管理という3点が取り組みのポイントだという。


◆生産履歴記帳を前提に統一めざす動きも

農場写真

 北川辺のトマト研究会のように自主的にGAPに取組む先進的な産地も増えてきているが、EurepGAPのように統一されたものはまだ日本にはない。現在、著名なものだけでも、農水省の「基礎GAP」、5月にはEurepGAPとの同等性認証を取得できるというNPO法人日本GAP協会の「JGAP」、日本生協連の「青果物品質保証システム(生協GAP)」、日本農林規格協会の「『食品安全のためのGAP』策定・普及マニュアル」、イオングループの「イオン農産物取引先様品質管理基準(A―Q)」(イオンGAP)などがある。さらに各地方自治体や個別の生協、量販店がそれぞれ独自の基準を設けているなど、生産者からみればどれを基準としていいのか迷ってしまう状況にある。
 そうしたなか統一的なGAPの策定と普及を検討するために、2月28日に「GAP検討委員会」が開催された。ここにはJA全中、JA全農、日本農業法人協会、日本ブランド農業事業協同組合、日本チェーンストア協会、日本スーパーマーケット協会、日本フードサービス協会、日本生協連、主婦連そして日本GAP協会(事務局)と生産者、食品流通、消費者の代表が参加した。
 そして▽GAPを実践することは、安全な農産物の供給など消費者・食品事業者の信頼を確保するうえで有効▽国際競争力を維持するうえでGAPの実践は必要であり、JAグループの生産履歴記帳運動はその前提となっていることなどを確認。国際的に調和のとれた日本における統一したGAPを策定する必要性があるので、今後、検討を重ねていくことが確認された。
 その場合、この5月にはEurepGAPとの同等性認証が取得できるというJGAPに統一するのではなく、JGAPを「共有財産として検討会に提供し、さまざまな意見を出し合い統一していく」(武田泰明日本GAP協会事務局長)ことになる。
 第三者認証型のGAPは統一されるべきだろうが、それは生産者・流通業者・消費者が入った形で合意されたものになるべきだろう。そしてそれは絶対的な基準ではなく、社会にとって有益なように改善されていくものでなければならないだろう。

◆まず基礎GAPに取組みステップアップを

 関東農政局の調査でも明らかなように、GAPに対する認識には大きな温度差があり、担い手といわれる生産者から高齢者やマイナー作物だけを生産する人まで、生産者の状況もさまざまなのだから、すべての生産者が一気に統一されたGAPに取組むことには無理があるといえる。
 JAグループとしては、「GAPはどこにリスクがあるか判断し、自分がどの水準にあるか正しくみる手段として有効」(小池一平全農営農総合対策部長)だから、現在進めている生産履歴記帳をベースに「基礎GAP」にボトムアップして取組んでいくことになるのだろうが、生産者に過剰な負担にならないような取組み方をJA全農とも協議して、JAグループとして統一した考え方を出していきたいとJA全中では考えている。
 北川辺のトマト研究会のように、生産履歴記帳をベースに基礎GAPに取組むなかで、現場で創意工夫して一つずつ管理項目を増やしながらレベルをあげていくと考えるのが妥当ではないだろうか。 そのためにはGAPの必要性についての意識を定着させることが何よりも大事だといえる。
 中国のChinaGAPは今年中にはEurepGAPとの同等性認証を取得すると予測されている。そしてそうしたなかで国内農業を産地を守るために、GAP手法を取り入れ「国産は安全」を裏づけて輸入農産物に負けないような販売に結びつけていくことが大事ではないだろうか。
 そして忘れてはならないことは、GAPは目的ではなく「新鮮でおいしくて健康にもいい」国産農産物の安全性を保証する手段だということだ。その手段を有効に使うことが消費者に信頼され愛される日本農業につながる。

(2007.4.20)


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