農業協同組合新聞 JACOM
   

検証・時の話題

農業・農村活性化と期待される自治体農政の役割

「農」をベースとした地域産業の振興を
京都大学名誉教授・(社)農業開発研修センター会長 藤谷築次

 農政の大転換期のなか、地域農業振興は全国各地のJAにとっても重要な課題だが、その取り組みには地域の行政の力と連携が欠かせない。また、地方自治体にとって農業振興は地域産業、地域社会の活性化策としても重視される必要がある。
 こうしたなか(社)農業開発研修センターは地方分権時代の農業・農村活性化をテーマにした「自治体農政総合研究会」を8月6日から京都で開催する。今回は同センター会長理事の藤谷築次京大名誉教授に研究会の狙いと自治体農政に求められる課題などを解説してもらった。

◆地域農業振興計画づくりを支援

藤谷先生

 農業開発研修センターは、地方自治体(府県・市町村)とJAグループ(JAとその連合組織)とを二大会員群とする社団法人で、これらの会員の役職員を主たる対象として、年間7〜8種の基幹研修会(「研究会」と呼称)を企画・開催している。「自治体農政総合研究会」もその1つで、今年度で20回20年)目の節目を迎える(下に概要)。この「研究会」は、当初「農政問題総合研究会」としてスタートしたが、地域農業の振興・活性化への貢献を当センターの基本的役割の1つとして明確にしたこと(もう1つは、農協運動の前進と改革への貢献)とも関連して、取り組みの主題を自治体農政問題に絞ることとし、14年前から「研究会」の名称変更を行った、という経緯がある。
 一時は、参加者が大きく減少するという事態となり、「研究会」継続があやぶまれたが、近年次第に注目されてきたことは嬉しい限りだ。また、最近の全く新しい傾向として、自治体の議会の議員の方々が参加されるようになったことである。
 当センターは、自治体やJAの要請により、「地域農業振興計画」策定支援事業等に取り組んできており、私自身が責任者(主査)となって様々な地域に出かけているが、最近強く感ずることは、いずれの市町村も(JAもまた)、どうすれば地域の農業・農村の活性化ができるのか、その点に大変苦悩されていることであり、新しいヒントや手かがりを強く求めていることである。私共の「研究会」への関心が高まる最大の理由は、まさにこの点にあると考えられる。
 私共は、この「研究会」の基本的な狙いを「自治体職員の政策企画力と実践力の向上」に置いてきた。地域をめぐる情勢が激変すると共に多様化してきている今日、自治体農政に強く求められているのは、首長を中心とする自治体トップ層の的確な情勢認識力と地域農業および農村社会の誘導方向示唆力であり、その具体化に向けての職員の企画・実践力である。

◆先進事例の発掘を重視

 「研究会」の中身の企画については、常に2つのポイントを重視してきた。1つは、自治体の制度や財政事情の変化、合併による自治体管内の広域化等を踏まえた、自治体農政の新しい考え方の提起・提案であり、この点は、専門の研究者はもとより、実績を上げてこられた首長クラスまたはその経験者の方々にご無理をお願いすることとなる。もう1つは、各自治体に多くの示唆を与え、参考としていただける先進事例の発掘と報告依頼である。この点が毎年の「研究会」開催企画で最も苦労するところである。
 特に、多様化する地域条件に対応して参考となる先進事例を見極めることは容易なことではない。農業・農村の活性化と言っても、現状維持が精一杯という地域もあろうし、農業・農村の崩壊をどうすれば食い止められるかを課題とせざるを得ない深刻な地域もあろうし、厳しい農業情勢の下でも、工夫次第で農業振興(生産拡大)の可能性があり、そのことを基本に農村活性化の絵が描けるという希な地域もあるわけで、それぞれの地域に相応しい先進事例をいつの「研究会」でも用意することは不可能に近い。
 今回の「研究会」のシンポジウムのテーマは、「農業・農村活性化とコミュニティビジネス」で、3つの事例報告がなされるが、いずれの報告も、地域の条件こそ違え、というより、地域の与えられた条件を活かして、“農をベースとした”地域産業興しへの取り組みによって、地域経済、地域社会の活性化を図ったという報告であり、いずれも興味深い内容と拝察している。広域的な管内を抱えるに至った現在の多くの自治体の農政が、“農業・農村”という狭い枠組みにとらわれる訳にはいかなくなってきていること、またその枠組みにとらわれ過ぎていては、“農業・農村”の活性化の展望を切り開くことができない、ということを示唆していると思われる。

◆農業者の期待高まる自治体農政

 最後に、このような自治体農政の新しい取り組みを促している条件やそれを支える条件について考えてみたい。まず、新しい取り組みを促している条件が2つあると思われる。その第1は、自治体農政への地域の農業者の期待・要求の大きな高まりである。それは、国の農政の大幅な路線転換や混迷化への不安・失望の裏返しの面があることは間違いないが、農業は地域個性豊かな産業であり、国の全国一律の施策には限界がある、地域における創意・工夫こそが大切なのではないか、ということが地域の農業者にも分かってきたことの反映だと考えるべきであろう。さらに、都市化地域を中心に、一般地域住民の自治体農政への期待・要求も高まってきていることにも注目すべきである。それは、地域住民にとって住みよい魅力的な都市づくりを進める上で、域内の農業と農地が果たしてほしい新鮮な地場産野菜の供給や、地域景観形成・保全機能等多様な役割への認識の高まりの結果である。
 第2は、平成11年の地方自治法改正の影響である。特に、国からの機関委任事務が実質的に廃止され、自治体の事務(役割)が、「住民の福祉の増進を図ることを目的とする行政事務」、すなわち自治体本来の事務(役割)に純化されたことである。多くは補助金の裏付けのある国の機関委任事務(国の事務の地方執行機関としての役割)が長年自治体事務の中核となってきたことは、自治体の体質・発想を大きく歪める結果となったが、自治体は、ようやくその呪縛から解き放たれたのである。
 しかし、「住民の福祉の増進」という表現で一括される自治体本来の役割を、自治体農政の面でどう果たしていくのかは、容易なことではない。その役割発揮を支える条件は何か。次の3点を提起しておきたい。

◆予算と職員確保が課題

 その第1は、自治体トップ層の、農業者、一般地域住民のニーズを踏まえた的確な課題認識力が絶対の条件であるが、農政の具体的な企画立案と実践への取り組みを可能にする農政担当職員の確保・育成が不可欠である。ところが、市町村合併が農業関係職員の大幅な削減につながっている事例は枚挙にいとまがない。機関委任事務の廃止が農政推進体制の縮減を進める口実ともなっているのであろう。しかし、それではどうにもならない。
 第2は、新しい自治体農政への取り組みのもう1つの重要な条件である財源の確保についてである。例の「三位一体の改革」が中途半端に進められていることによる、税源移譲の不徹底と国庫補助負担金及び地方交付税等の大幅削減の影響が自治体財政を直撃していることは多言を要しない。その結果大きくしわ寄せがきているのが農政予算である。自治体農政の新展開を促すためには、この財源問題の打開を急ぐ必要がある。
 さらに重要なのは、第3の条件である。それは、国の農政の見直しと確立に他ならない。創意・工夫をこらした地域独自の取り組みの重要性は言うまでもないが、それだけで各地域の農業・農村の活性化を実現することは不可能であろう。
 国際化の潮流は厳しさを増す一方であるが、その中にあっては、食料自給率目標の設定水準とその実現条件等日本農業の基本的枠組みの明確化と、農業者の営農意欲を維持・助長する政策の確立が、いよいよ重要である。後者については、農業者への直接支払いの強化を図る工夫の余地は、EUに学ぶまでもなく、大きく残されていると思われる。

地域別の産業構造と市町村合併による影響


地域経済活性化は食と農の連携で―18年度白書

 18年度の「食料・農業・農村白書」では地域経済の視点からみた農業の現状を分析している。
 白書では農水産業と、食品製造業、食品流通業、外食産業などの食品産業は密接な関係にあり「両者は『車の両輪』となって地域の経済を支えている」と指摘している。上図にみられるように地域経済に占める位置(GDPベース)は北海道、東北、九州で高くなっている。
 しかし、最近の傾向では食品産業が海外や国内の他地域から農産物を調達する例も増えてきたことから、地域経済における農業と食品産業の連携が薄れ、両者にかい離が生じていることも白書は指摘し、地域の農業、経済の活性化のためには、農業と食品産業の連携強化が改めて課題になっていることを強調している。白書では農家と地元の製粉会社の契約で「えごま」から食用油を製造販売したところ、健康ブームにのって作付け面積が増えるなど地域農業活性化につながっている例や、地場産トマトを使ったケチャップ製造が売り上げを伸ばし、地元の製造業者と契約栽培する農家が増えて所得の向上につながった例などを紹介している。
 こうした取り組みは地域の特色を生かした個性的なものだが、白書では「地域資源の活用」、「食品産業が農業に関与」、「長期的な視点」の3つを共通点としてあげている。
 また、農業と食品製造業との連携以外にも、空き店舗が目立ちはじめた商店街と農業が連携して、近隣の生鮮農産物や地場産素材による弁当や惣菜販売などをはじめ商店街の活性化につなげた千葉県木更津市の例などをあげている。
 一方、平成の大合併が進行して合併市町村の周辺地域では地域活性化にとってさまざまな懸念が出ていることも紹介している(上表)。ただ、白書では「コミュニティの広がりを有効に活用」した地域ブランド化や、同一市町村内の都市部、農村部の対流活動も重要だとしている。
自治体農政総合研究会の概要(場所:JA京都会館)
《8月6日13時開会》
報告I /自治体再編下での農村活性化を考える(京都大経済学研究科・岡田知弘教授)
報告II /内発的発展と農業・農村活性化の視点(宇都宮大農学部・守友裕一教授)
《8月7日9時30分》
事例報告(1)観光業と農業の結合によるむらづくり(長野県阿智村・岡庭一雄村長)
事例報告(2)食と農のまちづくり条例による地域活性化(愛媛県今治市企画振興部政策研究室・安井孝室長)
事例報告(3)地域活性化を視野に入れたモクモク型アグリビジネス(三重県伊賀市・農事組合法人伊賀の里モクモク手づくりファーム・吉田修専務)
《8月8日9時》
特別報告I /地域資源を活かしたまちづくり(岩手県葛巻町・中村哲雄町長)
特別報告II /新しい時代の到来と自治体農政の課題(慶應義塾大大学院・片山善博教授)

問い合わせ先/(社)農業開発研修センター(TEL075-681-4297〜8)

(2007.8.2)


社団法人 農協協会
 
〒103-0013 東京都中央区日本橋人形町3-1-15 藤野ビル Tel. 03-3639-1121 Fax. 03-3639-1120 info@jacom.or.jp
Copyright ( C ) 2000-2004 Nokyokyokai All Rights Reserved. 当サイト上のすべてのコンテンツの無断転載を禁じます。