農業協同組合新聞 JACOM
   

検証・時の話題

本紙農業法人調査結果まとまる その2

大規模経営で高いJAの購買事業利用率

品目横断的経営安定対策と法人農業経営

◆面積要件を満たした法人経営少なく

 表出はしていないが、今回の調査対象法人のうち、品目横断対策の面積要件を満たした経営の規模別分布も集計した。それによれば、基本の面積要件である認定農業者4ha、集落営農20haより小さい経営がかなり含まれていることが窺えた。認定農業者では12%程度、集落営農では30%程度がこれに該当するものと判断された。筆者が仄聞した各地の事例からは、集落営農経営が認定農業者資格を取得して、集落営農の規模要件ではなく、認定農業者の規模要件で加入申請した場合、とくに小規模な集落営農が誕生しているようである。
 しかし、他方では、認定農業者と集落営農の間に規模別分布の構造で大きな差が認められず、法人経営となると一定の規模(20〜50haがモード階層)や形が求められてくることを意味するのであろうか。逆に言えば、集落営農でもかなり大規模なものが存在していることになる。

◆品目横断対策への厳しい意見

 興味深いのはこれらの法人の品目横断対策への評価であった。
 そこでは秋まき麦作付者で対策に加入した者だけが、「役に立つから賛成」といって対策を肯定的に評価した割合が51.3%と過半に達したにすぎず、この層でも38.8%は「内容貧困・再考すべき」と判断していた。
 特定農業法人面積要件充足経営では賛成が42.9%にまで低下するだけでなく、21.4%は担い手育成に役に立たない、あるいは一部だけ優遇するからという理由で反対の意思表示をしている。
 認定農業者面積要件充足法人では賛成はさらに低く、27.5%にまで落ち込み、これを大きく上回る40.7%が「内容貧困・再考すべき」とした。以上の面積要件充足法人をも含む、意見表明をした法人全体では賛成は24.8%に止まり、反対に品目横断対策の対象外の法人など26.5%が「評価できず」ということになっている。
 ところで秋まき麦作付者で対策加入者の麦作付面積別分布の集計結果では作付面積の規模はほぼ50ha以下に止まり、中心が10〜20haであって、1〜数集落の枠内で転作が組織化されたことが明らかになった。
 しばしば話題になった集落や市町村をも越えるような転作組織の結成を通じた品目横断対策への対応は、過去の担い手育成過程には全く経験のないことだったといってよいだろう。

◆生産調整、大規模層ほど
100%達成に意欲

 さて、大規模経営のJA離れが指摘されるとき、それは他方で稲作大規模経営の生産調整からの離脱と同義でもあった。この点に関しての法人経営の対応をみた表9によれば、大規模法人では生産調整の実質的な崩壊を危惧する意見(100ha以上の33.3%)や、どうなるか分からないといった意見(50〜100haの29.4%)が目立つものの、しっかりと生産調整を実施するという意見が飛び抜けて高い(50ha以上では56%程度)点は注目される。この表でも10ha未満で「しっかりと生産調整を実施する」が32.5%と極めて低くなっており、むしろ米への依存が強い大規模稲作法人でこそ生産調整未達による米価下落の負の影響を受けやすいことが示されている。そして表出はしていないが、273法人経営の82%はこれまで100%生産調整を実施しており、100%は実施していない17法人(6.2%)を大きく凌いでいる(ちなみに参加していない32法人、11.7%は水稲作を行っていないものと判断される)。
 今後の生産調整対応を示した表10によると、大規模層ほど生産調整100%達成をあげるものが多い反面(反対に小規模層ほど生産調整への不参加を表明している)、米依存からの脱却をも考えている実態が浮かび上がってくるであろう。

JAにとって大規模法人経営はいかなるパートナーか

 これまでの検討を踏まえて最後にJAと大規模法人農業経営の関係を考えてみよう。
 まずは表11によって資金調達からみる。これによれば、第1に、水稲作から施設野菜まででは資金調達割合の40〜50%をJAバンクが占めて筆頭の地位を占めていること、第2に、すべての作物でほぼ3分の1を農林漁業金融公庫が占め、果樹やその他ではこちらが優位に立っていること、第3に、野菜以下の集約作物では民間銀行の役割が大きいことがみてとれる。
 つまり、スーパーS、L資金を通じて公庫が法人経営への融資に大きな影響力を行使している姿が明らかなのだが、それを水稲について規模別にみると100ha以上では公庫の融資割合は55.7%となって、JAバンクを大きく凌いでおり、反対にこれ以下の階層では規模が小さいほどJAバンクの健闘ぶりが示されている。したがって、JAバンクからすれば、大規模法人の資金需要にいかに応えていくかという課題が存在しているといってよい。
 そこで、法人側からみた資金調達先の希望を表12に示した。ここでは借入の第一希望、第二希望とも公庫の人気が高いことが明らかなのだが、同時に第一希望では水稲・麦・大豆といった粗放型作物ではJAバンクが公庫と肩を並べている反面、第二希望となると、どの作物でもJAバンクが民間銀行の後塵を拝する地位に後退している点が注目されよう。そこにはJAバンクには依存していながら、なかなか貸してくれないJAバンクに対する不満が投影されているとみることができるのではないか。
 次に経済事業に移って、先ず販売先としてのJAの地位を表13でみておこう。米販売金額が2000万円未満だとJAのシェアは40%を超えており、系統出荷率40%のラインがこうした相対的に小規模な経営の販路となっている事実に支えられていることを示している。反対に、JAが系統出荷率の向上を実現するためにはいかに大規模経営を取り込むかが鍵となっている現実がそこにあるといってよい。
 その際、注意を要するのは販売金額が大きくなるにしたがって、加工・外食産業、小売業などのシェアが急速に高まっている事実である。大規模法人経営をJAが販売事業の枠内に結集するためには、JA自らがこうした分野で積極的な販路の開拓を行うことの必要性をこの表は示唆しているのである。
 米以外の作物の販路について、作物規模によるJAのシェアと重要な販路を示した表14によれば、第1に、麦・大豆でのJA系統シェアの高さが示される反面、大規模法人での集荷業者の強さが目立っている。第2に、野菜は米に準ずるJAの地位の高さが示され、一方での5000万円以上でのシェアの高さと他方での100万円未満層での直売所の意義の大きさの両面でJAの存在意義が示されている。つまり多様な規模階層を取り込む販売事業構築が決して不可能ではないのである。第3に、果実などでは2000万円以上層における直売所のシェアの高さと、JAシェアの極端な低さが同居しており、500〜2000万円の中間層以外への対策がJAにとって重要だということができよう。第4に、意外なことに花卉・花木でもJAは500〜2000万円層をよく結集しており、JAが決して米・麦・大豆といった政府の保護下にあった作物にのみもたれかかっていた訳ではないことが分かる。
 購入事業についてみた表15によると、肥料・農薬・米袋・飼料などでJAの強さが示される反面、農業機械・園芸施設・園芸資材などでは業者やメーカーにかなり食い込まれている。表出はしていないが、JAが強い肥料では肥料購入額の多少にかかわらず、どの階層でもJAのシェアが高い構造が構築されている。ただし、水稲作付規模に応じた資材購入シェアをみると、比較的規模の大きな階層で、JAのシェアが50%以上から100%に達する一方で、20ha未満では50%未満から0%という法人が多いといった対照的な構成をとっている。さらに、全ての規模階層でシェアの分布が両極に分散していることが示されており、作物の特性や規模階層による説明では説明しつくされない、個々のJAにおける取り組みの差違がJAのシェアにおける天地を分けていることが容易に推察されるといってよいだろう。
 それではそうした条件が本当にあるのか。最後に二つの表で確認して結びにしておきたい。今後取引量を増やしたい取引先に関して、水稲について整理した表16をみると、10ha以上では傾向的に規模上昇にしたがって、JA系統への期待が高いことが明白である。だが、それは加工・外食業者や小売業者への期待と並行した期待なのであって、先に述べたように、JA自らがこうした新たな販路開拓にチャレンジする過程でこそ実現できる期待なのである。
 そのためには、表17に示されるように、法人農業経営がJA以外に出荷する理由のいくつかについての真摯な検討を通じて、法人農業経営の信頼を回復する以外に王道は存在しないことを肝に命じるべきであろう。
 追記:本稿は西川邦夫がアンケート調査表を整理し、谷口の指示にしたがって作成したクロス集計表を大幅に再整理し、再集計も含めて作成した表に基づいて谷口が考察したものである。

(2007.11.8)



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