農業協同組合新聞 JACOM
 
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コラム


「選択と集中」で会議は踊る

 宅配便を一つの業態にまで育てたクロネコヤマトの宅急便の生みの親であるヤマト運輸元社長の「小倉昌男 経営学」(日経BP社)によれば、「宅急便の事業を開始するときに業務会議で、『これからは収支のことは一切言わない。その代わりサービスのことは厳しく追及をする』と強調した。」、「宅配の仕事は、荷物の密度がある線以上になれば黒字になり、ある線以下ならば赤字、従って荷物の密度をできるだけ早く濃くするのが至上命令である。…… 手間ひまをかけてメリットやコストを計算するのはやめてほしい。それよりも、サービスを向上するためにどうしたらよいか、それだけを考え、実行してほしい。」と訴え「サービスが先、利益は後」の考えが出された。 このことを社長が言ったことに意義がある。
 顧客へのサービスとは何かを社員全員が考えるなかで、従来の運送業では全く対象とは考えなかった様な荷物の需要が出てきた。
 スキーやゴルフバッグという扱いにくく、到着が遅れたらトラブルの起きる荷物から、クール宅急便の登場は生鮮や家庭での食品を手軽に送る新たな需要を作り出した。
 依頼主へのサービスのなかで考えられた、今荷物が何処にあるかの追跡システムにより顧客が企業に拡がり次々に新しい需要を生み出した。インターネットや携帯電話による売ったり買ったりも、情報は空を飛ぶが荷物は道路を走り決済は代金引換が安全だ。配達と代金引換のシステムとネットによる取引の双方が相乗効果をもたらしてビジネスチャンスを拡げている。

 農協の事業をこのような目で見てみると、日本の農業は世界で最も豊かな食生活と質の高い食料品の需要が産地のすぐ隣にある。しかも四季折々の野菜や果物の出来る恵まれた立地にあり、和牛は外国の追随を許さない。農・畜産物の需要は努力次第でいくらでも創り出せるものである。
 日本の経済をリードしている自動車や家電製品を見ればわかるように、不足をしているからどんどん作っているのではなく、逆である。新車や新製品を作り、あの手この手で宣伝をしてカネのない人にはローンだクレジットだと需要を創りだしている。
 農業はと見ると、コメが典型であるが、農業関係者までが消費量が減ったことを強調した右肩下がりのグラフを使って解説をし、一方で輸入品が増え国産のマーケットが喰われていることをこれまた強調している。これでは日本の農業そのものが競争力を失ったジリ貧の産業のような印象を与える。
 コメの消費動向をグラフで説明をするのなら、コンビニエンス・ストアーのベストセラーで利益を出している主力商品は「おにぎり」で、工夫次第ではどんどん売れている右肩上がりの元気のよい姿を使うと印象がずいぶん違うものとなる。
 需要が減退、頭打ちだからといって生産を縮小していては元気が出ない。常に生産の拡大を目指すことで全体の活力が生まれる。
 生鮮を含めて輸入が増えているがこれも日本のマーケットが大きいことを表しており、国産の農畜産物は品質はもちろんのこと価格もいまひとつコストを下げれば十分輸入品と対抗の出来る水準にある。
 農業が元気な産業であるためには、先ず、農畜産物のマーケットを拡大することである。農協組織を挙げて市場調査をして組合員農家に生産を提案し、技術指導、販売ルートの開発、生産・流通コストの削減とこれらのための投資、このように経済事業への「選択」と「集中」をおこなうことで活路を開くべきである。

 ゴーンさんの日産の再生に見られるように、縮小は次の飛躍の為のバネのちぢみであってしゃがみ込んでは敗北である。
 農協組織の販売・購買事業が、競合する業界に負けない価格とサービスを組合員農家に提供をすることで農協への信頼、事業利用が増えれば貯金や共済も銀行や保険会社には行かず農協の口座の利用となる。このことは歴史が証明をしている。
 ところが、今の農協組織は各方面からの意見を受けて経済事業の収支改善のための「集中と選択」の材料探しに忙しい。全中、全農、経済連、農協が皆同じような事業改革本部、推進委員会、刷新委員会を作り賑やかに会議が踊っている。
 事業改革本部は現業部や関連会社に現状分析、改革案、実行計画の提出を求めるので何処もここも文章を作るのに追われている。これらを集大成して農協大会で決議をして、組織決定の名のもとに実行方策を作って事業に反映という手順となる。
 資料作りと会議に使っている時間と労力で、取引先を回り農家の現場に足を運び、サービスとは何かを考え即実行をしたほうが経済事業は効果が挙がるのではないか。 原田 康 

(2003.7.24)

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