農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム

最先端となったハノイの青空市場

 日本は大正12年に中央卸売市場法ができて以来80有余年の歴史によって野菜、果実は卸売市場を中心とした販売のルートを造りあげてきた。
 長い歴史の中で社会、経済の変化に合わせてその都度手直しをしてきたので青果物の卸売市場制度としては世界的にみてもモデルとされるようになったが、生い立ちから「官製の完成品」でもある。
 自由な競争を“正論”とする「経済」の下ではこの「卸売」が流通合理化のネックであるという皮肉な現象となり、規制緩和の流れを受けて卸売市場法の見直しがすすめられている。
 80年もかけてつくりあげた官製・完成の秩序であるから周辺部分の手直しをしているときはあまり抵抗がなかったが、卸売業者と仲卸業者との役割分担、手数料、営業区域といった基本の部分に手を付けると関係者の利害が複雑に絡んでくる。
 卸売市場法という枠の中での流通業は規制を受けているが、同時に外部からの業界への参入を防ぐという面を持っている。
 市場経済の“競争”、“消費者ニーズ”というキーワードがもてはやされるなかでBSE騒動もあって“安全”が加わりさらに“安心”も入ってきた。
 スーパーマーケットや生協はわけあり商品、特徴のある売場づくりに躍起でありこれにコンサルタントや学者先生方が一枚加わり、有機・低農薬、産直売場に幟を立てて今朝到着した新鮮な野菜です、となる。
 生産者に売場に立ってもらうわけには行かないので農家の人たちは写真出演となって、私たちがつくった野菜、果物を直接届けましたというわけだ。
 大仕掛けの流通の仕組みとコストをかけて最も単純なところへ戻ったわけだ。

◎中間コストがほぼゼロ

 この点、ベトナムのハノイの卸売市場は単純明快で中間コストがほとんどかからない仕組みである。
 首都ハノイの中心部で東京でいえば神田か上野くらいの市街地の一画、歩いて視察をすると1時間くらいはかかる地域が毎朝午前2時から6時まで青空市場となる。駅前の広場とシャッターの降りた商店街の歩道、道路が売場である。
 売り手は農家と卸売商人、買い手は小売商と一般の消費者で何千人という人が売ったり買ったりで賑わっている。農家の人たちはバイク、自転車、天秤棒で担いでやって来て道端に並べている。
 りんご等中国からの輸入品は卸業者が段ボールを山にして売っている。売り手、買い手、運び屋でごった返しているので自動車はむろん、自転車も入れないので買った商品は肩に担ぐか天秤棒で担いで運んでいる。
 野菜、果実の他、牛や豚の枝肉やブロック肉も板に並べてナイフで切って売っている。明かりは街路灯であるのでずいぶん暗いところもあり街路灯のない路地ではローソクを灯している。よく計算が間違わないものだと感心する。
 売り手、買い手、運び屋の8割くらいが女性でベトナムの女性のエネルギーには敬服である。男性は何をしているのかとひと事ながら心配になる。朝6時になると店を畳み、綺麗に掃除をして普通の街の顔に戻る。
 商店街やオフイス街に昼間行った人は早朝の賑わいは想像もつかない。

◎誰にとっての合理化か?

 この市場には地産・地消、顔の見える、産地直送、新鮮、が揃っているが売る方も買う方も時間と労力は覚悟をしなくてはならない。早起きの体力も必要である。テレビの料理番組で献立を見て、あれをつくりましょうと買い物に出掛けるというわけにはいかない。
 日本のような便利さと合理性をとことん追求した挙げ句が生産者の顔の見える売場であるとすれば、ハノイの青空市場は最も先端の流通体系となる。中間コストはほとんどゼロに近いという卸売・小売の仕組みである。
 流通を専門とする学者先生や評論家の諸氏がハノイの姿を見れば最も遅れた流通として日本型の卸売市場の仕組みを取り入れて合理化をすべしとなるが、誰にとっての合理化か、さてどんなものであるか。(原田 康) (2004.3.25)


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