農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム

組合員をお客にしない

 農協の施設は、農協が作って組合員が“お客として利用”をする方式のものが多い。施設によってはこれでもよいが販売の集・出荷場、選果場などは組合員が生産したものを付加価値を付けて売るための施設として、組合員が自ら金を出して建設し、運営をすることが基本である。施設を「作る人」と「利用をする人」では困るのだ。
 農協が事業施設として建設し、組合員はお客として利用をする関係の施設のキーワードは最先端の技術、大規模、補助金となる。コンピューター制御の目を見張るような先端技術と目一杯の生産計画に対応した規模となり、国、県などの補助金の多いことが自慢となる。
 青果物の施設にこのようなものが多い。卸売市場の関係者の“消費者ニーズと今後の方向”なるものを鵜呑みにして、ライバル産地の施設を視察して、メーカーの能書きを聴き、地域振興計画で筆をなめた生産計画をベースとして、国、県の補助金のめどを付けて立派なものができ上がる。
 落成記念のビデオは見事な出来栄えとなる。
 青果物のように天候の影響が大きく、しかも消費者、というよりスーパーマーケットの販売の仕方がパックや袋詰めの数を相場に合わせてその都度変更をしたり、バラ売りにしたりで大型自動包装機は使い物にならずほこりを被る隣で人海戦術の手作業という光景がごく普通となる。
 果物は糖度を測る技術が発達をして、一定の糖度を正確に選別をするので産地ブランドとしては効果があるが、選果ではねられた基準以下の物をどうするか、例えば加工など付加価値を付けて販売するなど農家の作った物をトータルで販売をする工夫をしないと選果機の展示場となる。
 天候が悪い年は技術ではカバーの出来ない糖度となってしまい、例年並みの基準では規格外品の山となるので基準を下げる。たしかに味は揃うが工業製品のように商品自体を造り替えるわけにはいかない。
 新しい品種、水準の高い栽培技術で商品としては十分通用することに自信を持つことである。産地間競争をお互いにエスカレートさせていてはメーカーの思うつぼである。
 選果の工程は規格を揃え、商品の形態を統一するが、商品それ自体にはたいした付加価値を付けられないコストを誰が負担するか、もっと厳密な計算をすることである。
 (財)海外日系人協会という海外の日系人の交流や研修などの支援をするところが毎年、南米各国の日系の農協の組合長さんや役員さんの研修を日本で開催しており、ブラジルのパルマス農協の組合長とお話をする機会があった。
 ブラジルではコチア産業組合中央会が1994年に解散をしたため、日系の農家は大変な苦労をされたが、コチアの一支部であったパルマスの農家が農協を新たに設立をしてりんごの生産を拡大した。生産量も5700トン規模となり、個人出荷では競争に勝てず、苦しい中で組合員のうちりんご生産者の23名で特別に積み立て35万ドルのりんごの選果場を建設した。全部自己資金である。
生産量も7000トンに拡大をしたので次の目標は低温倉庫の建設に向けてりんごの組合員は販売額の10%という高率の積み立てをしているとのことである。
 ブラジルのりんごも産地間競争が激しく、周辺国やヨーロッパなどへ輸出をするためには不可欠な施設である。
 ブラジルの日系の農家からみると、日本の農協の施設はうらやましい限りであるが、何故このような大きな施設を作ったのか、運営の方法は、の質問への説明にはいささか汗をかく。協同組合論はブラジル、市場経済論は日本となる。
 農協の販売施設は、農産物の商品特性に合わせて建設し、運営のコストを厳密に計算をすることである。
 大規模な施設は計画した通りの集荷ができないと利用単価が上がり、更に利用が減るという悪循環となる。用途の規制や、据え付けた機械の配置換えができない等の他に独立採算で立ち往生をする。
 組合員が自分たちの積立金で作り、運営をすれば甲羅に合わせた規模と運営ができる。(原田 康) (2004.8.11)


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