農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム
目明き千人

担い手が「担い手」を担う

 今年10月に開かれる農協大会に向けての組織討議の材料となる協議案の素案が出された。
 今回の特徴は「担い手」に全力投球をする方針となっていることである。議案書の最初から数ページの総論部分は「担い手」のオンパレードで、「担い手」に赤丸を付けると満開のお花畑となる。
 しかし、肝心の「担い手」は誰か、どのような要件を備えた人を「担い手」とするのかが明らかにされていない。特定の組合員を「担い手」として組織を挙げて支援をするという方針であるならば、まず「担い手」はどの人かを明確にする必要がある。ずっと前から「担い手」は組織で話をしており今更その必要はない、との立場であろうが改めて農協大会で組織を挙げて育成、支援、対策を集中するという組織決定をするのであればキチンしておくべきだ。
 少なくとも次の2点は明らかにすべきであろう。農協組織が支援をする「担い手」像を誰が見てもああそうかと判るようにすること。品目横断の補償政策で具体的な補償額の計算が出来る算式を明らかにすること、この算式は官僚的高等数学では答えが出ないので加減乗除の算数のレベルとすること、である。
 協議案では各農協、連合会は営農指導、購買、販売、信用の各事業別に育成、支援の具体策を作ることとなっているが支援の対象がハッキリしなければ具体策も効果がなかろう。
 「担い手」議論が農林水産省や財界筋、識者から出されるのは判らないでもないが、農協大会の議案書にこのような姿で出して大丈夫かと心配になる。
 農協の正組合員は全て農家である。大きい・小さい、専業・兼業はあっても農業に従事している。準組合員も農業協同組合の理念と事業に賛同して出資をし、利用をしている人達である。農協の組合員は全員が「農業を担っている人」である。
 組織で支援をするということは、組合員がその人を支援することであり、農協、連合会はその事務的な手続きをすることである。ここを間違えていないか。組織の財源は組合員全員の事業利用から生まれたものである。
 さらに、部門別収支との関連をどの様に説明をするのか。担い手の、農協用語でいう推進は営農指導部門、事業利用は販売、購買部門である。部門別の独立採算の建て前から「担い手」にかかるコストは「担い手」が負担をすることになる。そんなことをしたら担い手の農協離れが起きるので農協全体でコストを負担するということになれば、部門別収支の改善でギリギリ締め上げられている部門は立つ瀬がない。収益を挙げている信用、共済部門の利用者から見ても配当原資の目減りには「異議あり」であろう。
 協同組合の基本は一人一票、参加、利用高に応じた配当、民主主義である。日本の農業は地域社会との共生が前提で、しかも農家の兼業、準組合員の比率が高いという特徴はあるが、あくまで農業協同組合である。
 地域の振興、過疎対策、高齢者の福祉まで何もかもが農協の事業とされる一方で国際的に競争力をつけろ、一般の企業に負けない生産性を上げろ、経営を確立するために部門別に収支を明確にせよとの注文が付く。
 農協大会で議論をする必要があるのは、現在の大きな組織をよしとして政策との連動を議論するのではなく、農業の協同組合としていっぺん裸になって積み上げる議論ではないのか。日本の農業を担うという大役なので先が長い話である。先ず足元を固めてから動き出しても間に合うのではなかろうか。
 昭和36年の農業基本法以来、農林水産省が各時代に合った的確な農政を実施してきた結果、日本の農業は今日の様な立派な産業に育っている。これは誰もが認めるところである。「担い手」も農業経営として成功するのを見てから農協は対応策を立てた方がよいのではないか。政策立案の段階から参加をして意見を反映する方法もあるが「担い手」を担うことのリスクが大きすぎはしないか心配である。
 農政は時を見て機敏な転換が出来るが、農家組合員はこれがとても難しい。(原田 康)

(2006.6.16)

 


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