農業協同組合新聞 JACOM
   

コラム
目明き千人

お金は上手に使うもの

 このところ全農への風当たりが強い。農協の肥料など生産資材は街の資材屋より高いものがあるとか、農協の購買事業は赤字なのに全農は収益を出しているのはケシカラン、収益を還元せよ等である。
 また、「担い手」の育成、支援の推進費用を負担せよとの意見もある。協同組合であるから事業で出した収益をどのように使うかは組織で協議をして決めることであるが、貴重なお金は上手に使うことを考えたら如何なものか。
 全農段階ではまとまった金額でも、全国に平等に配分をすれば、実際に受け取る人の手元に行く金はびっくりするような多額ではないことは見当がつく。額ではなく、気持ち、誠意を示すことであるとすれば協同組合としてこのような方法も1つの方法ではある。

◆農協組織がやるべきこと

 農協組織が県域、全国域に連合会をつくっているのは、単位農協だけではできない規模の事業をすることで組合員の負託に応えるためである。現在の全農に求められているのは、販売、購買の各品目について全国規模の事業連として力を持つことである。
 分かり易い例として鶏卵をみてみよう。昭和30年代から現在まで50年以上の間鶏卵の相場は当時の全販連、合併後は全農が毎朝発表をする価格が当日の全国の鶏卵取引の指標価格となっている。全農が全国の鶏卵を独占的に扱っているのでその価格が指標となっているのではない。農協組織による鶏卵の生産、集荷、販売を長年にわたって積み重ねた力を業界が認め、一方業界としても取引の指標となる価格が必要なので全農価格を使っているのである。
 これは単に卵をたくさん扱うというのではなく、飼料についても原料を直接海外から輸入し自前の工場で製造し、養鶏農家までタンクローリー車で届けるというコストダウン。卵も生んでから一定の時間内に集め、選卵、パック詰め、低温輸送、液卵加工など生産、販売のトータルの事業によって作り上げた仕組みへの評価である。
 昭和30年代と現在では鶏卵の生産、流通の構造は全く変わり昔の面影は残っていないが、変わらないのは物価の優等生であることとスーパーの目玉商品であることだけである。しかし、農協の組織はそれぞれの時代に先駆けた事業の仕組みを作り、投資をして、何時の時代にも競争相手に負けない事業を行ってきた。これは生産、国内及び海外の物流の施設投資、システム、人材育成、基礎研究と多額の投資を行うことにより可能となったのである。
 また、青果物の販売では首都圏販売センターの埼玉県戸田市にある通称「戸田集配センター」は、青果物の販売施設、機能としては日本でもトップレベルの実力を持っている。野菜、果実は産地から来たものを品目に応じて、5℃、10℃でエチレン除去による鮮度管理の出来る倉庫に入れ、荷捌き所も15〜18℃に設定、コンピューターによる自動仕分けによって、365日24時間いつでもユーザーの注文の規格、数量を店まで届けるという仕事をしている。このセンターも昭和43年に全くのゼロから出発して、卸売市場を通さない青果物の流通を日本で初めてビジネスとして成り立たせた歴史のなかで、現在でも流通の最先端の機能を果たしている。
 販売、購買の各品目も同様な水準の仕事をしているが、これは全農が一人で頑張っているのではなく農協、経済連という組織全体でそれぞれの機能を分担することでできている。

◆担い手支援のためにも投資を

 株の世界であれば一晩のうちに国内、海外から目を剥くような金を集めることが出来る。実業の世界は、毎日の1つ1つの取引の積み重ねで収益を稼ぎ出す。販売も、購買も国内はもとより外国も相手にする競争の世界である。物流、情報システム、商品開発、品質検査、人材育成とどれも1つ先を読んだ投資が不可欠である。
 「担い手」の育成、支援は一時的な頓服効果ではなく、「担い手」の経営が長期にわたって成り立ち拡大をするよう資材の供給、生産物の販売で農協組織が「担い手」の負託に応えられる実力を付けることである。
 このような投資に金は使いたいものである。(原田 康)

(2006.7.24)

 


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