農業協同組合新聞 JACOM
   
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今こそ小規模農山村と大都市の連携強化を
−第10回「全国小さくても輝く自治体フォーラム」


◆小さいからこそ輝く

自治体フォーラム

 小規模町村の首長や議員、住民などが地方自治のあり方と地域づくりを議論するための場として立ち上げた「全国小さくても輝く自治体フォーラム」が11月24、25日に東京で10回目のフォーラムを開催した。
 同フォーラムは、小泉政権時代の構造改革路線で打ち出された地方財政の抑制や農業の構造改革、未合併小規模町村に対する自治体権限縮小案の浮上などに対して危機感を持った町村が03年に長野県栄村に集まり第1回を開いたもの。
 栄村の高橋彦芳村長はこれまで9回のフォーラムを振り返って、中央集権による自治体の支配を排し住民自治と団体自治を基本に「町村の将来は自分たちで決める、という心意気で町村が元気になった」とその果たした役割を話した。また、お互いの情報交換によって、合併など町村の将来を決める場合は、早い段階から住民一人ひとりの意思確認が必要なことが広く認知されたことも成果としてあげた。
 今後の課題として高橋村長は中央政府の集権的行政を変え地方主権を確立する学習と連帯の強化都市住民との多様な協働の実現を指摘した。
 開会前には前長野県知事の田中康夫参議院議員もあいさつし「(国のいう)小さな政府とは切り捨てることではないはず。人々が誇りに思う社会をつくることが大事。小さくても、ではなく小さいからこそ輝く自治体を。細胞が元気であってこそ全体が元気」などと語った。

◆「かけがえのない人」として生きられる農村

 今回のフォーラムでは3人の研究者による記念講演が行われた。
 小田切徳美明治大学教授は「2010年農山村問題」を提起し警鐘を鳴らした。
 2010年には過疎法の失効第2期中山間直接支払の終了新合併特例法の失効など一斉に関係制度の見直しがあることや、昭和ヒトケタ世代全体が後期高齢者化することなどを強調、「これらを的確に乗り越えなければ農山村は決定的なダメージを受ける可能性がある。この2〜3年は最大の正念場」と指摘した。
 ただ、一方で国民各層には農山村支援の動きがある。 それを受け止め住民が当事者意識をもって地域づくりをする「手づくり自治区」など新たなコミュニティ構築への取り組み、農業の6次産業化や都市住民の共感を呼ぶ交流、地域資源保全型経済など新しい地域産業構造の創出、地域拠点としての地方中小都市の再生、住民参加の場づくり、暮らしのものさしづくりなど地域での体系的な取り組みなどが必要になるとした。
 とくに強調したのは最近の経済学研究で明らかになった人々の幸福度を決める要素。それによれば経済的価値よりも「住民参加」が幸福と密接につながっているという。「自分たちの未来は自分たちで決める。農山村からの経済改革をめざすべき」と話した。
 また、第29次地方制度調査会が7月にスタートし市町村合併が再び焦点になるとして、今回の調査会議論では「合併のあり方よりも農山村のあり方の検討を。農山村が維持・存続し都市と共生するような自治体の枠組みを議論すべきではないか」などと提起した。
 群馬県上野村に住む哲学者の内山節立教大院教授はフランスの農村の現状を紹介しながら農山漁村の可能性について語った。
 フランスでは1970年代半ばに過疎化に歯止めがかかり80年代以降は都市からの移住者によって人口増に転じているという。
 移住者にその理由を聞くと人間らしい暮らしを求めて、と回答するといい、その人間らしい暮らしとは何かとの問いかけには、自然とともに生きるということのほかに「一人ひとりがかけがえのない人間として生きることができるから、とだれもが答える」。
 フランスの農村は人口100〜200人程度のところが多く「1000人もいれば巨大な村」。3万以上ある小規模な農村では住民による直接的な自治が行われており、人々が役割を分担し合いながら地域をつくっていることに「かけがえのない人間」として生きる魅力を見出しているという。
 内山氏はこのようなフランスの例をふまえて、農山漁村は都市とは違う自治の再創造が必要だとし、たとえば「効率」の追求についても上から押しつけられたものではなく「自分たちで村をつくることが村の維持にもっとも効率的なのだ、という『住民自身による効率』の提示」が求められるのではないかと指摘した。

◆協同による集落づくりを

 参議院選挙結果を受けて政府は地方重視の政策に力を入れ始めたが、岡田知弘京大教授は「構造改革路線は正しい、が前提になっているのでは地方の未来はない」と強調した。
 岡田教授が指摘するのは、一部企業の好業績は地方にあった生産拠点の海外移転によってもたらされ、収益のほとんどが首都圏に集中、それによる地域格差と社会格差が生じている構造だ。都市への人口流出が進んでも成長の果実が地方へと循環した高度経済成長期とは異なり、経済のグローバル化と対になっているのが「一連の構造改革政策」と批判した。
 実際に95年から2000年の間に農林漁業就労者は20〜40%減少しこれは高度経済成長期を上回る減少率だという。一方、東京都の産業別純移出入額構成をみると農林業はもちろん製造業もマイナスで、プラスなのはサービス、商業、金融だが実はもっともプラスを稼ぎ出しているのが「本社」というデータを紹介した。「本社」の所得には地方でもたらされたものも多く含まれていることから、「応急的な財政支援では格差是正にはならず、東京と国への所得移転メカニズムを制御する政策装置をつくる必要がある」と指摘。
 とくに国民全体にとって必須の食料・エネルギー・国土保全基盤の整備を国の責任で再確立することが重要だと提起した。そのための地方自治体への財源保障による「都市・農村が共存できる財政構造の確立」と地方自治体にあっては、循環型経済の具体的な姿としての「地域内再投資力の強化」と住民レベルでの大都市との交流を太いパイプにしていくことが重要だと提起した。
 今回のフォーラムには78市町村から約230名が参加。29人の首長も出席した。
 記念講演や意見交換などを受けて、「住民と小規模自治体の協働による集落づくりこそが農山漁村再生の鍵であることを確認した。『地方の重視』、『格差是正』を選挙目当ての一時的なものに終わらせず国政の根幹すえなければならない」とする参加者アピールを採択した。

(2007.12.3)

 

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