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農政.農協ニュース

穀物輸出規制を危惧〜第3回食料の未来を描く戦略会議 −農水省
(12/17)


 食料の安定供給を図るための方向性について議論し、食料問題に関する認識を国民全体で共有することを目的として、平成19 年7月に農水大臣主催の会議として設置された「食料の未来を描く戦略会議」(座長:生源寺眞一東京大学大学院農学生命科学研究科長・農学部長)は12月17日、第3回目の会議を農水省で開催した。
 出席した若林農水大臣は、「国際的に食料生産が消費に追いつかず、穀物などの日本の買い負け、輸出国の輸出規制などで、食料の60%を海外に依存するわが国への影響が大きい。対応策について議論をすすめて欲しい」と挨拶した。
 農水省からは前回の情勢報告(当ホームページ「2007年10月11日付「農政・農協ニュース」で既報)をベースに最近の動向が報告された。
 新た加わった情勢の要旨は次のとおり。

◆飢餓人口さらに増

21世紀末までに地球の平均気温が1.1〜6.4℃上昇する(対1980〜90年比)と予測されており、温暖化が進む。気候の変動により干ばつや気温上昇、降雨不順で農業システムが崩壊し、農業生産量におよぼす影響は、2000年から2080年にかけて世界計で3.2%の減少となる。先進国は7.7%上昇するが、途上国は7.7%の減となる。アフリカは16.6%、ラテンアメリカは12.9%の減で、地域差はますます拡大する。
 栄養不足人口は1995〜97年に8億人いた。1996年の世界食料サミットでは、2015年に4.1億人まで半減させる削減目標が決められたが、実際は年間400万人づつ増えている。このため2080年までにさらに6億人が栄養不足となる可能性がある。
世界の食料需給がひっ迫の傾向を強めるなかで、わが国の経済力が低下した場合は、経済力に勝る国との食料の奪い合いに負けて輸入の減少、価格高騰を招く。また、輸出国が輸出規制・制限に乗り出し、わが国の食料輸入が途絶・減少する恐れがある。わが国の経済力が維持できた場合でも、現在のような国内農業生産(自給率39%)や食料廃棄(年間1900万t=リサイクル前)をするなかで食料輸入を行えば、貧困国への食料供給が減少して貧困国の飢餓が拡大する。
いざという時、食料は自国内の供給が優先されるため、最近の異常気象による収穫減や穀物価格の上昇などで、農産物の輸出規制が始まっている。ベトナムは、既契約や政府契約を除く輸出が禁止された。中国はタイトな国内の穀物需給の緩和のため、食料輸出の制限や市場管理の徹底を含む物価抑制策を公表した(2007年12月7日)。ロシアは、国内の穀物需給の緩和のため、大麦、小麦にそれぞれ30%、10%の輸出税を課して輸出を規制した(2007年11月〜2008年4月)。さらに、輸出が一定量を超えれば、小麦の輸出税の再引き上げ(40%)が行われる可能性がある。インドは、急速な経済発展にともなうインフレを抑制するため、小麦、乳製品、タマネギの輸出を禁止した。アルゼンチンは、国際価格の高騰にともなう過剰な輸出を抑えるため、とうもろこし(2006年11月以降)、小麦、小麦粉(2007年3月以降)の輸出承認の登録手続きの禁止や、牛肉について2005年の輸出量の50%まで輸出枠を制限する(2006年以降断続的に)等により、輸出を規制している。
わが国が買い負けや食料貿易相手国の輸出規制等により必要な食料を確保できなくなった場合に、現在の国内面積(田254万ha、畑213万ha、計467万ha)だけで国内への食料供給を行うとすれば、戦後の食糧難を脱した昭和20年代のカロリーを確保するのが精一杯といった食生活になる。

◆自給率向上が先決問題

 主な意見などは次の通り。
ニュージーランドのチーズが中国にドンドン輸出され、価格も上がっている。欧米は自国で消費しており、輸出余力がない。日本は長期的輸入計画を立てるべきだ。
生協での話題だが、日本農業の生産現場をどう保つかが重要だ。国産品を重視する生協としては、仕入れの道が途絶えかねない。
食料の確保について、出口のない大きな危機に直面していると感じる。経済力の向上、人口増で世界の食料需要が増える一方、温暖化の問題がある。日本国内で食料をどう確保するか。減反、食料廃棄、消費期限等の問題もある。需要を超える米は飼料に回し、とうもろこしの輸入を抑えて、浮いた資金を農家に回す方が有意義ではないか。
EU諸国で日本食ブームが早いスピードで進んでいる。チェコのプラハの店で秋刀魚の塩焼きが出る。日本食はおしゃれ、健康と考えられている。「ごはんはかっこよく、おしゃれ」だと国内でもPRすべき。さらに、「農業はかっこよい」とPRできるのではないか。
主人の転勤で、ロンドンで生活したが、日本の農産物がいかに優れているかを実感した。イギリスの肉は固い。キャベツも固いので、一度ゆでてからいためる有様だ。米はコシヒカリといっているが、べちゃべちゃで食べられないほどだ。乳製品はうまいが、ロンドンでも日本食ブームが勢い。日本食レストランは予約がとれないほどの盛況だ。味はまずいが、セレブが通う店もある、日本食の材料もありとあらゆるものが手に入る。椎茸は"ジャパニーズ・シイタケ"と命名され、鍋物の材料も揃う。日本食は世界で一番注目されている。しかし、日本国内では自給率が低い。まず、自国の自給率を高めるのが先決だ。
デンマークは家畜飼料の90%を自国でまかなっている。日本は逆に近い。国内で飼料の生産増を図ることが大切だ。
自給率低下の危機意識をもっと持つべきだ。日本農業は平安時代から農業用水路を作って、現在の長さは40万kmになっている。「農業は地域の宝」。他国の農業留学生を受け入れて、日本の農業が世界から学ばれるようにしたらどうか。
高齢化問題は社会保障問題として取り上げ、農業問題とは切り離すべきだ。
一次産業は国が責任をもつべきだ。
農家に兼業があるのだから、サラリーマンが農業を兼業する道もあるのではないか。"サラリーマン小作"として、借地によるまねごと程度でも、自給率向上に効果があろう。
農業は「先がなくて暗くて」、というイメージが強い。マスコミは農業の現場をしっかりと伝える必要がある。都会育ちの若者が農業を始め、家族を養っている例もある。
                                  
 若林大臣は議論のなかで、「(私は)大学卒業後(旧)農林省で25年、政界で25年やってきたが、わが国の農業の基本的条件はいまだに変わっていないなと思う。WTO交渉の場で、輸出規制にブレーキをかけよと主張しているが、議論が進まないのが実態だ」などと所感を述べた。
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 次回は平成20年1月に開催し、委員のそれぞれの立場(農業生産者、国民、食品産業、外食産業、政府)にとっての課題への取り組み方策を協議する予定。

(2007.12.19)

 

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