農業協同組合新聞 JACOM
   
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危機的な畜産・酪農に万全な経営安定対策を
−20年度畜産・酪農対策全国代表者集会開く (2/15)


畜産・酪農対策危機突破全国代表者集会
 

 JA全中と全国農政連は2月15日、東京都内で「平成20年度畜産・酪農対策危機突破全国代表者集会を開いた。
 全国から約600人が参加。飼料や原油価格の高騰により生産コストが急激に上昇、農家経営が急速に悪化して、わが国の畜産・酪農が危機立たされていることをふまえて経営安定・所得確保対策、生産基盤強化対策の実現などを訴えた。
 JA全中の宮田会長は「今、われわれは3つの面から危機的な状況にある」とあいさつ。ひとつは飼料価格の高騰による畜産酪農経営の危機。「畜産酪農は生き物が相手、経営が厳しくなっても飼料を止めることはできない。生産費を切りつめ必死で営農を続けているのが現状」だと訴えた。 また、畜産酪農家の離農が止まらないという危機も指摘した。「これまで規模拡大、生産性の向上に懸命に取り組んできた。しかし、生産者の努力はもう限界。これ以上、畜産酪農家が減少することになればわが国の畜産酪農の基盤自体が継続できなくなる」。飼料、乳業、食肉センターなど関連産業を含めて畜産酪農は地域経済における位置づけも大きく、「その崩壊は地域社会全体に大変な影響を与える」と深刻さを訴えた。
 こうしたなか3つめの危機として「国民が求める安全で安心な国産の畜産物を提供することが難しくなる危機」もあげた。畜産の危機は単に生産者だけの問題ではなく、食の安全、安心を強く求めている消費者にとっても大きな問題であることも指摘、「何としてもわが国の畜産酪農の危機を乗り越えていかなければならない。われわれが求める価格対策や経営所得対策の実現と畜産酪農経営の将来が展望できる基本政策の確立に向けて取り組む」と決意を話した。
 出席した与党国会議員に代表要請した茂木守JA全中副会長も現状について「世界的な穀物高騰という新たな環境変化によってわれわれの努力だけではどうにもならない状況が生まれている」と話し、現場の実態を十分理解し、生産者が将来展望を持てるよう経営と所得の安定が確保されるよう支援を求めた。

決意表明

◆竹村英久・高知県農協青壮年連盟委員長(JA全青協理事)

竹村英久氏

 8年前夢と希望を持って酪農の世界に足を踏み入れた。苦労したがだんだんと自信が出てきた。厳しい生乳需給によって減産型の計画生産を余儀なくされ、家畜排せつ物法の施行による負担が重くなるなど苦しい状況のなか計画生産を守り品質向上にも懸命に取り組んだ。
 まさにこれからというとき、飼料価格の高騰という状況になり生産コストが生乳価格を上回るというかつてない事態に追い込まれた。こうした危機的な状況を自らの努力でなんとか乗り越えようと飼料を切り替えたり耕作放棄地で飼料生産するなど自らできるコストダウンを進めている。しかし、飼料価格の高騰が続くなかこれ以上のコストダウンには限界がある。20年度の乳価交渉はコスト上昇分を価格転嫁できると期待していたが、大手乳業会社の圧力に屈したった3%の値上げしか実現できなかった。酪農家をやめろと言っているようなもの。
 このままの状況が続けばどれだけ多くの仲間を失うかわからない。畜産酪農は地域の循環型農業の中心であり、国民の重要な食料の供給源。その重要な役割をわれわれは担い続ける。また自給飼料の生産拡大など自らできる取り組みを徹底する。こうした取り組みを継続するためには現在の配合飼料価格安定制度を見直し、新たな補てん対策の早急な実施や、乳価交渉への国の関与も含めた飲用乳の経営安定ための対策の創設など生産者の経営安定がはかられる対策が何としても必要だ。未来に希望が持てる政策実現に向け一致団結を。

◆角井智仁・宮崎県農協青年組織協議会副委員長

角井智仁氏

 和牛の繁殖と肥育とJA委託のキャトルステーション事業を行っている。
 この10年間、口てい疫や、BSEといくども経営の難局に立たされたが仲間たちとJAと手を取り合いなんとか乗り越えてくることができた。
 しかし今回の飼料価格高騰という今まで以上の難局により大変厳しい経営を強いられている。生産者は政府の基本方針に従い、また自らの努力として安心・安全はもちろん生産コストの削減に徹底的に取り組んできた。そして消費者にも理解してもらうためさまざまな啓発活動をしてきた。
 これからも生産を続けていくためにはできることに徹底して取り組んでいくことには変わらない。しかし、今般の飼料価格の高騰は穀物の需要だけではなくて、一部の拝金主義の投資家によるマネーゲームの影響もあると聞く。金が金を生むようなマネーゲームで飼料価格が高騰し私たちが愛情を注いで育てる家畜を手放さなければならないこの危機的な状況が悔しくてならない。
 こうした世界的な穀物価格の高騰のなか欧米では生産価格の上昇が販売価格に反映されているというがわが国の生産現場では販売価格への反映をまったく実感することができない。畜産・酪農の担い手が安定して経営できるようにするためにはマルキンの充実強化や繁殖基盤の充実強化だけではなく、配合飼料価格安定制度の見直しなど今までの制度を大きく見直すことが必要だ。消費者の方々に私たちが愛情を注いで育てる家畜をしっかり評価して買っていただけるよう制度的な支援も必要だと考える。

◆瀧沢義一・JAくしろ丹頂代表理事組合長

瀧沢義一氏

 地元、釧路農業は酪農しかない。昭和44年から経営し幾多の苦難を乗り切り経営を確立してきた。しかし、最近の配合飼料価格の高騰はだめかも知れないと思うような最大の危機。将来に大きな不安を持ちながら営農を続けている現在だ。こうした気持ちは全国の酪農家共通だと思う。
 酪農家はこの狭い日本で土地を有効に活用し国民に安心・安全な牛乳・乳製品を提供していくことにプライドを持って報われない労働にも耐えてきた。
 現在の状況ではもう限界。この打開には政治の力が必要だ。
 このまま飼料価格高騰が続けば生産者がつぶれてしまう。配合飼料価格安定制度を今後の価格上昇に適切に対応する仕組みとして抜本的に見直してほしい。食料安全保障の観点から飼料問題に国家としてしっかり対応してほしい。
 良質で安心・安全な生乳生産に日夜取り組んでいるが19年には減産から増産への計画生産を進めてきたにも関わらず石油価格や飼料価格の高騰により酪農家の所得が大きく減少して現状を目の当たりにし非常に残念。生産者だれもが不安でいっぱいだ。
 こうした情勢をふまえ加工原料乳生産者補給金単価は飼料価格の高騰に十分対応できる水準まで引き上げ、限度数量は現行を基本に設定してほしい。
 また、肉用牛経営は配合飼料に対する依存度が高く飼料の品質や量が肉質に及ぼす影響が大きく配合飼料価格高騰の影響が非常に大きい。また、枝肉価格は下落傾向にあり、コスト上昇で生産費が粗収益を上回りさらに物財費の一部が回収できない状況になっている。このため肉用子牛生産者補給金制度の保証基準を引き上げ、肉用牛肥育経営安定対策事業では物財費の補てんできるよう見直してほしい。
 BSE問題はまだ終わっていない。原因究明と再発防止の徹底、BSE発生農家や牛せき柱適正処理への支援など安全・安心な食を守る政策が今後も必要だと考えている。生産現場の切実な声を受け止めてほしい。

(2008.2.20)

 

 

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