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麦価格高騰で売買差益7割減


 政府は20年4月から輸入麦の政府売渡価格を現行価格より30%引き上げることを決めたが、買い付け価格の高騰で今年度の売買差益額は当初見込みよりも7割も減少することが見込まれている。輸入麦の売渡制度では、買い付け価格と売り渡し価格の差額は、麦作振興のために品目横断対策の経費に充当されることになっている。
 品目横断対策予算の支出は国の義務のため一般会計からの繰り入れで不足分を補うため支出総額に支障をきたすことはないが、今後も国際相場の高騰が続くと、売買差益から充当するという仕組みには限界が出てくる可能性もある。麦作をはじめ国産農産物の生産振興を図るための財源について抜本的な検討の必要に迫られることも考えられる。

◆小麦、史上最高値を更新

 輸入麦の売渡制度は、食糧法の改正で19年4月から年間固定価格での売却ではなく、過去一定期間の買い入れ価格に連動した価格で売り渡す相場連動性に移行した。これによって国際相場や為替変動に連動して売渡価格が変動することになった。
 改定時期は4月と10月の年2回。昨年4月には24年ぶりに引き上げられたが値上げ幅は1.3%にとどまり主要5銘柄平均で1トン4万8430円とされた。その後、国際相場が高騰し10月には前期比10%引き上げの同5万3270円と改定された。
 その後、輸出規制を始めた国が出はじめたことなどから国際相場の高騰は続き、小麦相場は今年2月、1ブッシェル10ドルを記録。「天井感水準を突破」し06年1月対比で約3.2倍アップと史上最高値を更新した。
 農水省は、価格改定ルールに即して19年6月から20年1月(価格改定月の3か月前からさかのぼって8か月間)までの平均買い付け価格をもとに売渡価格を試算したところ、前期比38%の引き上げとなったが、関係業界、消費者への影響を考慮して30%の引き上げとした。主要5銘柄の平均価格は1トン6万9120円となり、昨年4月期の売渡価格にくらべて1トン2万円以上の値上げとなる。農水省は今回の価格改定による物価・家計への影響は消費者物価指数にして0.03%程度の上昇、1世帯あたりの月の消費支出については72円程度の増加と見込んでいる。

◆売買逆ざやが収支圧迫

 ただ、これだけの値上げをしても現時点の国際相場では売買逆ざやとなっている。昨年10月から今年3月までの売渡価格は1トン5万3270円だが今年1月の政府買付価格は6万5878円。「高く買って安く売る異常な状態」(農水省食料貿易課)だ。
 このため政府の輸入麦売買の収支は悪化した。今年度の買い付け予算には1800億円を組み、買い付け価格と売り渡し価格の差額で年間固定額の売買差益(マークアップ)610億円と港湾諸経費など政府管理費155億円、合わせて765億円を確保する収支計画だった。
 ところが価格高騰から買い付け予算が不足、政府は500億円の予備費支出(食料供給特会)を決めた。これによって買い付け資金の不足は解消されたが収支は悪化、政府管理費の155億円を確保したうえでの残り110億円しか品目横断的経営安定対策に充当できる額はない見込みだという。年度当初予定の610億円よりも7割も減となる。
 日本の小麦消費量は年間約600万トンで9割を輸入に依存している。それでも必要な量は確保しなければならないことから、麦の政府買い付け予算として20年度は今年度の倍の3600億円を計上している。
 しかし、小麦の貿易率は生産量の17%と少ないうえに、輸出量のうち何らかの輸出規制を行っている国のシェア合計は3割以上になっており、「輸出規制をしていない国にオーダーが集中している」(食糧貿易課)。こうした状況のなかで国際相場の高騰が続けば、政府買い付け量は確保できたとしても、麦作振興予算に充当する売買差益が確保できるかどうか。
 生産性や品質向上など麦作には課題も多いが国内の食料供給力の維持はますます重要になってきた。品目横断的経営安定対策のうち麦への助成額は約900億円。生産性向上への待ったなしの努力が現場には求められているが、一方で生産振興のための「助成財源はどうするかが常につきまとう状況」(食料貿易課)だ。生産現場に不安のない安定的な予算確保のあり方も検討課題ではないか。

農産物の輸出規制の現状(農水省調べ)
【セルビア】
・政府が小麦、小麦粉、とうもろこし、大豆等の輸出を規制(07年8月〜08年3月予定)
【ウクライナ】
・南部の不作による国内供給確保のため政府は小麦、とうもろこし、大麦、ライ麦に輸出枠を設定し規制(07年11月〜08年3月)
・1月22日、今年4月1日〜7月1日の穀物輸出割当を250万トン(うち小麦100トン)とすることを示唆。
【ロシア】
・政府は大麦に30%、小麦に10%の輸出税を課し輸出規制(07年11月〜08年4月)
・07年12月28日、同国農相が小麦輸出関税を40%、または105ユーロ/トンへの引き上げに署名(今年4月30日まで適用)。
【カザフスタン】
・政府は小麦の輸出業者に対し輸出量の20%を国内市場に販売する義務を課すと発表(07年10月)。
【中国】
・07年12月7日、政府は食料輸出の制限や市場管理の徹底を含む物価抑制策を公表。
・小麦、大豆、とうもろこしなど57品目への輸出税の賦課、食料品約100品目を含む471品目について輸出数量割当を実施(08年1月〜)。
【インド】
・急速な経済発展にともなうインフレ抑制のため政府は米、小麦、乳製品等の輸出を禁止(07年10月〜)。1月20日、小麦の輸入関税(36%)を廃止。
【ベトナム】
・台風による不作でコメ価格が高騰したため政府はコメについて、既契約や政府契約を除き輸出禁止。
【アルゼンチン】
・過剰輸出を避けるため政府はとうもろこし(06年11月〜)、小麦・小麦粉(07年3月〜)の輸出承認の登録手続きを停止。小麦は07年11月13日、輸出税率を20%から28%へ引き上げ。一時輸出登録を再開したが、07年11月28日以降、再度輸出登録を停止、12月26日には無期限延長を発表。牛肉について05年輸出量の50%までの輸出枠を設定。
・08年1月29日、輸出登録を1月31日から5か月間、小麦200万トン(月40万トン)について再開することを発表。

(2008.2.26)

 

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