農業協同組合新聞 JACOM
   
農政.農協ニュース
農業構造改革の加速化を強調 (5/17)
−16年度「食料・農業・農村白書」

 5月17日に閣議決定した16年度「食料・農業・農村白書」は3月に決定した新たな基本計画を解説するとともに、基本計画が掲げた農業構造改革の加速化と食料自給率目標の達成に向けた課題の分析と、例年より6割増やした各地の事例紹介などによって、今後の農政のめざす方向を示している。

◆地域の創意工夫を重視

 16年度白書では基本計画の改定にともなって5年ぶりに巻頭で特集を組み、新基本計画策定の背景と農政改革の方向を解説した。
 基本計画見直しの背景として、前基本計画策定後の情勢変化を挙げた。
 具体的にはBSEの発生や不正表示などにより、食の安全についての関心の高まりとともに、食品産業では輸入農産物への依存が高まるなど食へのニーズが多様化・高度化している状況を指摘。一方、農業者の減少と高齢化、規模拡大の遅れなど構造改革が遅れていることを挙げた。また、WTO、EPA交渉の進展などグローバル化も改めて強調している。
 こうしたなかで農業の多面的機能の発揮など農村に対する期待も高まっていることもふまえ、新基本計画では改革の視点として▽効果的、効率的でわかりやすい政策の構築、▽消費者視点の反映、▽農業者や地域の主体性と創意工夫の発揮、▽環境保全の重視、▽輸出振興など攻めの農政、などを展開することを紹介している。
 また、これらに基づく、担い手育成や環境重視施策、企業などの農業参入の促進などの施策実現と、それによる食料自給率45%目標の達成は、工程表による管理によって推進することも強調した。

◆作付面積減少を指摘

 6年連続で40%と横ばいの食料自給率について、16年度白書では、これまでどおり米の消費減少と、飼料などを海外に依存している畜産物、油脂類の消費増加という食生活の変化を指摘し、依然として望ましい食料消費の姿が実現されていないことが原因と指摘。
 ただ、今回の白書ではその一方で平成10年から15年の間に米の生産減などにより国産の総供給熱量が26%減少し「農業生産面の変化も自給率低下に影響した」と分析した。
 また、この5年間に単収は増加したものの作付延べ面積は40%と大幅に減少していることも指摘した。
 そのうえで自給率向上に向けた今後の課題は、政府だけでなく、地方公共団体、農業者・農業団体、食品産業、消費者など「食にかかわるすべての人たちが適切な役割分担のもと主体的に取り組むことが不可欠」と訴えている。

◆地域合意の担い手育成

 農業生産面では、構造改革の加速化の必要性を指摘し、とくに都府県の水田経営の構造改革の遅れを強調している。
 「65歳未満の農業専従者がいる主業農家」の割合は、15年度で北海道の畑作・水田作では8割以上を占めているが、都府県では2割未満となっている。このため望ましい農業構造を実現するために、「地域で担い手を明確にして」農地利用の集積などを図る必要があるとしている。
 ただ、担い手への農地利用集積は10年から15年の間で10%増加しているがその伸び率は鈍化している。理由として、借り手がいない、自分が農作業できる間は続ける、などのほか、資産として保有しておきたいとの答えも18%程度あると指摘し、「地域の話し合いと合意形成」を図ることが重要だとしている。

◆農地利用集積の課題も指摘

 そのうえで大規模経営の現状を分析し、そのメリットを挙げた。
 10アールあたりの農業所得は作付面積が大きいほど高く、10ヘクタール以上層は、0.5へクタール未満層の3倍以上を確保。さらに家族労賃を含む生産費を差し引いても、10ヘクタール層以上の利潤は0.5ヘクタール未満層の農業所得を上回っていることを紹介した。
 こうした結果から、10ヘクタール以上層では0.5ヘクタール未満層への支払い地代を上回る利潤が確保されており、小規模農家の農地を集積して経営できる状態にあると指摘した。
 また、大規模経営層では農産物加工や契約栽培、環境保全など経営の多角化に取り組む傾向が見られ、地域農業の維持・発展に大きく寄与しているとした。
 ただし、最近の農産物価格の低迷によって大規模経営層でも農業所得が減少、全体として「農業生産構造のぜい弱化」が進行していることも強調。担い手に対する経営所得安定対策の必要性を解説した。
 今回の白書では、基本計画の議論のなかで担い手として位置づけられた集落営農についても記述し、その事例として6事例をあげて多様性があることを紹介している。ただ、大規模経営のような経営分析はまだ記述されておらず、小規模な農家や兼業農家の参加し得る営農組織であることを紹介しているものの、課題として法人化が必要との指摘にとどまっている。
 また、担い手への農地利用集積の課題として、農地の分散による効率性の低下や労働力確保の課題があること、さらに地域には安定兼業農家や生きがい的な農業を行っている人もおり、単に所得と利潤という財務面だけで農地利用集積ができない実態があることを指摘したことも特徴だ。

(2005.5.25)



社団法人 農協協会
 
〒103-0013 東京都中央区日本橋人形町3-1-15 藤野ビル Tel. 03-3639-1121 Fax. 03-3639-1120 info@jacom.or.jp
Copyright ( C ) 2000-2004 Nokyokyokai All Rights Reserved. 当サイト上のすべてのコンテンツの無断転載を禁じます。