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第1回地域水田農業ビジョン大賞 授賞式も開催
−地域水田農業ビジョン実践強化推進大会−
地域特性を生かした農産物の生産・販売戦略を描こう
集落からの実践と検証で「生きたビジョン」に

 JA全中は7月19日、東京都内で地域水田農業ビジョン実践強化推進大会を開催、全国から関係者500名が出席し、優良事例報告をもとに売れる米づくりや地域特性をふまえた農産物づくり、担い手育成の課題などを話し合った。地域水田農業ビジョンは16年度からの米政策改革の中核として各地で作成されたが、大会ではビジョンの「実践、検証、見直し」を通じてさらに「生きたビジョンにすること」が強調された。また、当日は島村農林水産大臣も出席し第1回地域水田農業ビジョン大賞の授賞式も行われ、農林水産大臣賞に輝いた花巻地方水田農業推進協議会をはじめ合計13の協議会が表彰された。

◆ビジョンを地域産業の核に

島村宜伸農相
島村宜伸農相
宮田勇JA全中会長
宮田勇JA全中会長
今村奈良臣東大名誉教授
今村奈良臣
東大名誉教授

 JA全中の宮田勇会長は開会のあいさつで、地域水田農業ビジョンについて「計画、実践、検証、見直しを重ねることで生きたものになる」と強調、今回の大賞受賞事例など多様な取り組みに学び、明日からの実践に役立ててほしいと訴えた。
 とくにJAにとっては担い手育成を通じたJA改革への取り組みがなければ、「5年、10年後の地域農業ビジョンはない」と指摘、19年度から新たな米需給調整システムと品目横断政策の実施が見込まれるなか、「地域の実情をふまえた担い手づくりと売れる米づくりを一体としたビジョンの策定、実践にスピード感を持って取り組むことについて認識を統一する必要がある」と訴え、関係機関とともにビジョンの実践強化をと呼びかけた。
 また、島村宜伸農相は新基本計画にもとづく新たな農政は「やる気と能力のある農業を後押し」し創意工夫で進める構造改革を支援するものなどと話し、「農業を力強い地域産業にしていくため活気にあふれた地域の取り組みを期待する」などと述べた。

大賞―農林水産大臣賞―【花巻地方水田農業推進協議会(岩手県)】
大賞―農林水産大臣賞―
【花巻地方水田農業推進協議会(岩手県)】

◆ボトムアップ農政に対応 今年度は正念場の年

 地域水田農業ビジョンの策定にあたってJAグループは集落段階から担い手の特定や土地利用計画、栽培作物計画などの合意を積上げることを重視してきた。
 ビジョン大賞審査委員長の今村奈良臣東大名誉教授は「これまでのような中央集権、画一的な農政からボトムアップ方式に転換すること。自分たちで内発的に打ち出すことが大切」と改めて強調した。
 その点で今回受賞の協議会は▽集落を基本とした徹底した話し合いと実践、▽売れる米づくりと合わせ、麦、大豆などの作物の販売戦略、▽特徴ある担い手の育成などに優れた成果がある事例だと講評。ただし、「いずれも発展途上にある事例」であり、今後、力量をさらに高めることが期待されると指摘した。
 大会ではビジョン実践強化に向け決議を採択。「地域実態をふまえた担い手の育成・確保に取り組むことが喫緊の重要課題となっている」ことから「17年度を正念場の年と位置づけ、行政・JAグループをはじめ関係機関が一体となって取り組みを徹底強化する」ことを誓った。

第1回地域水田農業ビジョン大賞受賞協議会

▽大賞―農林水産大臣賞―【花巻地方水田農業推進協議会(岩手県)】
▽大賞―全国農業協同組合中央会会長賞―【鶴岡市水田農業推進協議会(山形県)】
▽優秀賞―農林水産省総合食料局長賞―【阿武地域水田農業推進協議会(山口県)】
▽優秀賞―農林水産省総合食料局長賞―【菰野町水田農業推進協議会(三重県)】
▽優秀賞―農林水産省生産局長賞―【五個荘地域水田農業推進協議会(滋賀県)】
▽優秀賞―農林水産省生産局長賞―【阿仁部地域水田農業推進協議会(秋田県)】
▽優秀賞―農林水産省経営局長賞―【留萌市水田農業推進協議会(北海道)】
▽優秀賞―農林水産省経営局長賞―【筑穂町地域水田農業推進協議会(福岡県)】
▽優秀賞―全国農業協同組合中央会水田農業対策本部委員会本部委員長賞―【関川村水田農業推進協議会(新潟県)】
▽優秀賞―全国農業協同組合中央会水田農業対策本部委員会本部委員長賞―【玖珠九重地域水田農業推進協議会(大分県)】
▽奨励賞―日本農業新聞会長賞―【砺波市水田農業推進協議会(富山県)】
▽奨励賞―【岩美町水田営農推進協議会(鳥取県)】
▽奨励賞―【相知町地域水田農業推進協議会(佐賀県)】

パネルディスカッション
パネルディスカッション

◆担い手育成が全国的に課題
JA全青協 藤木眞也会長
JA全青協
藤木眞也会長
農水省 宮坂亘 経営局審議官
農水省 宮坂亘
経営局審議官
JA全中 松岡公明 水田・営農ビジョン対策室長
JA全中 松岡公明
水田・営農ビジョン
対策室長
 事例発表を受けて行われたパネルディスカッションでは耕畜連携、担い手育成、ビジョン実践のための地域の推進体制などがテーマとなった。
 畜産農家のJA全青協の藤木眞也会長は自然循環型農業をめざす観点からまず国産稲わらが100%利用されるような仕組みが必要だとした。また、ホールクロップサイレージの量は畜産農家にとって供給不足であることや、一方で家畜排せつ物処理法の完全施行以降、畜産農家には「たい肥が山のようにたまっていて」水田に還元することが迫られていると話した。
 ただ、こうした取り組みを進めるには担い手を絞り込むのでは地域での連携が図れないことを強調した。
 担い手問題については、農水省の宮坂亘経営局審議官が、基本は「農地を誰がどう耕していくかが問題。農地を守り切れる継続的な形態が必要で、農地を集積するという名に恥じないための一定の要件は必要になる」との考え方を示した。
 一方、担い手育成についてはJAグループが最大の課題とし、自ら施策の対象となるような担い手づくりへの取り組みが行われているが、JA全中の松岡公明水田・営農ビジョン対策室長は「16年度のビジョン全国点検結果では半数の県が不十分だと回答している。この夏の陣の最大の課題」と指摘した。
 また、事例発表でも地域の推進協議会が行政、JAが一体となった体制で成果を上げていることが報告されたことから、「改革の推進力は人材」との指摘もあり、コーディネーターを努めた今村審査委員長も「JAがイニシアティブをとり、行政とのワンフロア化した協議会をつくるべき。関係者で考え方を共有することが重要だ」と指摘した。

集落営農が基礎、雑穀日本一をめざす
花巻地方水田農業推進協議会 大村保氏
(JAいわて花巻営農推進部農業改革推進室課長)

 16年2月に155の農家組合すべてでビジョンを作成。集落は60〜80戸で面積は平均100〜120ha。
 農家組合長など5、6人でチームをつくり集落リーダーとした。JA職員も支援チームとしてすべてに配置。ただ、農家自身が繰り返し話し合うことが基本で支援チームは「あくまでもみさんで決めてください」がスタンス。集落によってビジョン策定の温度差はあったが、現状のままでいいのか、と問いかけ認識してもらうようにした。
 特徴は作目と団地化などの条件によってポイント制を導入したこと。これによって自分が担い手に特定されただけでは助成金の単価が上がらないことが理解され、担い手を中心に集落全体での話し合いが進み、リストアップされた900名の担い手を核にした集落営農の確立に向かっている。個人での経営にはみなが不安。協力、共存していくことが理想だ。ただ、利用権設定までは難しいから集落にはどう土地を使うかだけ話し合ってもらい法的な手続きなどはJAがバックアップする形で推進した。
 作目は小麦、大豆、雑穀を中心に再編。とくに雑穀はビジョン見直しで昨年の250haから350haに増えた。販売先に困る状況にはなくヒエ、アワ、キビなどいかにバランスよく生産するかが課題。
 米は特別栽培米で安全・安心を提供。課題は品質の均一化だ。
 集落営農組織の法人化も課題となっているが、土地利用型農業ではなく新たな作物栽培ができなければ急いで法人化はしない。大規模農家との共存も必要でJAでは多様な販路開拓に力を入れている。大規模農家と集落営農が一体とならなければうまくいかない。

産地指定米の拡大とだだちゃ豆販売が核
鶴岡市水田農業推進協議会 田沢繁氏
(JA鶴岡営農部長)

 ビジョン策定以前に地域農業振興計画を策定。目標は産地指定米の拡大とだだちゃ豆の栽培面積を1000haとすること。ビジョン策定ではこれに米の生産目標数量配分の公平性確保と法人育成支援などを加えた。
 産地づくり交付金は生産者に分かりやすい簡素化を心がけ、配分のキーワードは「収穫」、「重点推進品目」、「経営体育成」とした。捨てづくりでは助成単価が低く収穫によってはじめて上積みされるほか、だだちゃ豆や野菜、果樹などの重点品目を重視した配分とし、重点品目への新たな取り組みと面積拡大にも上乗せしている。また、特定農業法人と農業生産法人の立ち上げ支援にも活用している。
 ビジョンの実践成果は、「JA米」が98%に達したほか、産地指定は16年産では大手コンビニを含めて約80%となった。生協との販売契約締結や東京都内の学校給食への鶴岡米供給などの実績もあがった。また、有機減農薬栽培なども推進している。販売はJA直売と全農経由を販売先の特徴で分けるなどそれぞれの機能を考えている。
 担い手づくりでは認定農業者が48名増えて716名となったほか、新たに4つの法人が立ち上がった。このうちにはJAと45名の認定農業者が出資した法人があり担い手のない農地の受け手として機能させる方針だ。
 だだちゃ豆は前年比121ha増の602haまでになった。900トンの生産量を予定している。首都圏の枝豆需要量は7000トンありまだまだ伸ばせる。だだちゃ豆は地元で作っていてだれもが知っていておいしいもの。評価が高まるまで苦労したが今は生産者が販売促進費を拠出し、JAの販売努力と一体となって進めている。

JA直売の拡大めざしコメの食味向上に努力
阿武地域水田農業推進協議会会長 上村照男氏
(JA山口阿武理事)

 ビジョンではJAの独自販売の拡大を掲げた。現在は集荷数量13万俵のうち4万俵だがそれを8万俵にすることが目標だ。農家の手取りを増やすためである。
 米づくりでは最近の気候にあわせ田植え時期を5月10日以降に標高別に設定する「510運動」を展開。品質低下を防ぐことに努力している。
 また、山間部では無農薬のコシヒカリづくりに取り組むなど食味が評価され価格も上がってきた。一方、手ごろな価格の米も求めれておりその対応も必要になっている。
 食味計を全倉庫に設置し食味値別に倉庫に積み込んでいる。売買も食味別が基本。生産者も実際に価格が上がったことから米づくりの意識が変わった。
 担い手育成では4集落66戸が参加する集落農業法人(うもれ木の郷)が中心でそのほか2法人で阿武町管内の7割の農地を集積している。水稲のほか、大豆、ホウレンソウなどを生産しているが、専任のオペレーターによる作業の効率化でコストダウンが実現できている。高齢農家は管理作業に従事している。女性の農業者たちは加工事業に取り組むなど多彩な活動ができている。
 法人は個人経営ではないため病気やけがのときでも誰かがカバーしてくれるメリットがある。また、法人化すれば土地の出し手は米代金(小作料)のほか管理作業の日当も入るし、さらに残った労力で個人で園芸もできる。地域ぐるみの取り組みに対しては、農業は個人完結が基本との声もあったが、基盤整備をきっかけに「次の代にどう農業を残すのか」と説得して合意を得た。リーダーが信頼されることが大切だ。

(2005.8.5)


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