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消費者の立場からの視点を批判 安い価格のみに価値があるのではない
−食に関する研究フォーラム (11/14)

「食料の自給施策」分科会
「食料の自給施策」分科会
 食に関する研究フォーラム実行委員会は、『食の不安と崩食をのりこえる』をテーマに食に関する研究フォーラムを11月14日、横浜市開港記念会館で約200名を集めて開催した。
 このフォーラムは、食の安全に対する不安や崩壊する「食」生活について問い直し、新たな行動指針を考えていこうと、多くの人々が参加して議論する機会をもつため開催したもの。▽地産地消を進めるためにはどのようなことが求められるのか、▽こどもたちに食の重要性をどのように伝え、定着させたらよいか、▽福祉の視点から食や農はどうあるべきか、▽BSEや鳥インフルエンザ、遺伝子組み換え作物問題などが多発するなか、安全・安心な食品を日常的に食べるためには、▽食料の自給についてどう考えるか、などを取り上げ討論した。
 農業ジャーナリストの榊田みどりさんから基調報告があり、「中食、外食を中心に業務用として輸入野菜が多く使われているなど食生活の現状を見渡すと、国内の農業を支えようとしない食生活になってしまった。偽装表示などの問題が表面化すると、消費者を被害者とするような一面的な報道が目立つが、そうではなく消費者と生産者が一緒になって、安全な食品をつくる取り組みが必要ではないか。持続可能な農業を行うためには、その裏付けとなるような食生活が求められている」と、とくにこどもたちを中心にスナックなどを何回に分けて食べるような食生活が中心を占めつつある現状に対し、かなり危機的だとする報告があった。消費者が食の安全に積極的に発言することで、生産・流通の現場を変えていけると、参加者に訴えた。
 基調報告に続いて、▽今、ほんとうの食育を語る、▽福祉の視点から見た食と農、▽食の安全性を確保する、▽食料の自給政策、の5つのテーマで分科会が行われた。
 食料の自給政策の分科会のパネリストは藤岡武義(財)生協総合研究所専務理事、原耕造JA全農大消費地販売推進部次長、加藤雅彦前津久井町長、杉山典子ネットワーク横浜・市議の4氏。司会は、今野聡参加型システム研究所研究員。
 藤岡氏は、「日生協は先に農業・食生活に関する提言を出した。これは、消費者の立場からの提言。そして、今なら危機的状況にある日本農業の再生が可能で、産業として自立させることができるのではという我々のエールと理解してほしい。自給率を支える農業の産業としての力は、担い手、農地、技術の3つだ。しかし、この3つの要素は厳しい状況にあり、大きな曲がり角にきている。提言は、担い手、農地の問題について言及している。WTOに関しては、WTOのルールで許容される保護政策をとるべきで、関税が下がった分は、直接支払の制度を充実させれば良いと思う」と、日生協の提言の意味するところを解説した。
 続いて原氏は、「多くの人にとって自給率とはと問いかけても、関心がないのが現実ではないか。経営安定対策によって農業の国際競争力をつけると政府は説明しているが、ほんとうにそうなのか、国民的議論がない。自給率に関しては、外国産100%のマックハンバーガーを食べることで自給率を下げているという自覚を消費者は持つべきだ」と、新たな経営安定対策が国の大きな政策転換であるのにもかかわらず、ほとんど世論にも上らなかったことが問題だと述べた。
 加藤氏は、元城山町町長時代の『城山町エコミュージアム』について、「町を豊かにするということは、地域を良く知り、愛することだとの信念で、20年近く自然観察会などの活動を続けてきた。エコミュージアムとは町長になるときの公約で、町全体を博物館に見立てて、地域の自然環境、歴史文化遺産、産業遺産などを現地でそのまま保存し、復元・展示するもので、フランスで始まった。地域づくりを促進し、地域産業の活性化を図る狙いもある。」と語り、エコミュージアムの活動によってファーマーズマーケットなどの地域の食文化も守られることを強調した。
 また、杉山氏は、「横浜の農業は、日本の都市農業の課題が凝縮されている。直売が盛んで、市民を巻き込んでの環境保全型農業、体験型農業なども行われている。横浜産ブランド野菜は約30品目生産されている。地価が高い、後継者の職業選択の幅が広いなどの環境では、国の進める大規模化は難しい。消費者との距離が近い分、市民参加の農業など独自の取り組みを行っている。横浜の農業は自給率という点では期待できないが、市民が食べる多様な農産物をつくり続けているという事実がとても大切」と、地域で農業を続けることの意義を訴えた。

■日生協提言に反論

 「外国との貿易交渉の場で、農産物の生産性向上、技術革新などを、工業製品と比べ議論するのはいかがなものか。古代米の時代から現代まで米の生産性や技術は進歩したが2000年もかかっている」、「北海道産の牛乳などがここ横浜のスーパーに並んでいる。輸入の問題も重要だが、地産地消を真剣に進めるべきではないか」、との質問があった。
 それに対し、藤岡氏は、「国際貿易と食料自給率は対立する。どこに妥協点を見いだすか、この点が重要になる。畜産を例にあげると、飼料は条件が悪くても国内で生産するのか、安い外国産を使うのか、トータルで考えて答えを出すべきだ。フードマイレイジについては、なるべく近い所のものを使う方が良いが、個人の嗜好の問題でもあるので、一概に否定するのは良くない」と答えた。
 また、東京都世田谷区から参加した主婦から、「農業保護コストを消費者だけが負担している、などと提言に書いてあるが、これはどのような意味か。日本農業が産業として再生するために、環境保全型農業の推進を揚げているが、これは効率化・大規模化と矛盾しないか」と、突っ込んだ質問がでた。
 藤岡氏は、「国内に入ってくる農産物は、関税によって高いものを買わされているという実感がある。環境保全型農業については、水路の管理などの助成を要請することで支援している」と答えたが、「農産物を価格だけで見るのではなく、作物だけでない価値、農業の多面的機能が生み出す価値について、誰がその価値を保障するのかが政策ではないか。提言では全くふれていない。また、環境保全型農業については、水路の管理などの助成を要請することとは意味が違い、環境保全型農業に配慮して少数多品目の生産を進めるなどの取り組みを進めることだ」と、質問者から反論があった。
 分科会終了後、各分科会の討議を踏まえ、『食の不安解消に向けて、輸入食材・食品・加工食品等、食に関する分野において、トレーサビリティも含め、安全性をめぐる必要な規制に向けた取り組みと、基本情報の公開を求めるとともに、私たち自らも情報を読む力を強め、市民の間で共有化を推進します』など、食に関する研究フォーラムのアピールが採択された。

(2005.11.21)


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