農業協同組合新聞 JACOM
   
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米国産牛肉、輸入再開へ
−国民の半数超える反対なか、食品安全委員会が容認を答申 (12/8)


■意見募集では半数以上が反対

 食品安全委員会は12月8日、米国、カナダ産牛肉の安全性評価について10月31日にプリオン専門調査会が出した報告を答申とすることを決め、同日、厚労、農水両省に通知した。
 農水省は9日にBSE対策本部を開き、輸入条件を検討するとともに、米国、カナダの日本向け輸出プログラムが守られているかどうかを確認するための査察と消費者への情報提供について具体案を検討することを決めた。
 プリオン専門調査会がまとめた結論は、米国、カナダ産の牛肉の安全性についてはデータが少ないことから、日本と比較したBSEリスクについて「科学的同等性を評価することは困難」とした。しかし、一方で特定危険部位(SRM)の除去、20か月齢以下の確認という条件の日本向け輸出プログラムが守られることを前提にすれば「リスクの差は非常に小さい」とした。この記述が実質的に輸入再開を容認することになった。
 専門調査会の報告に対して食品安全委員会は各地での意見交換会と意見募集を11月末まで実施したが、意見交換会では結論について「分かりにくい」という声が相次いだ。また、意見募集で集まった8800通の意見では、輸入再開は容認すべきではないとの声が半数以上を占めた。

■改めて問われる「食の安全」

 しかし、8日の食品安全委員会では、「厳密に科学的な評価はできないとしても、結論は前提条件を守るにはリスク管理側の役割が重要だと指摘している」、「安全性確保に厳しいのは日本だけではなく米国も同じ。日本向け輸出を認可された食肉会社は、労働条件や経営状況まで含めて輸出プログラムが遵守できる企業でなければ認められていない」、「食の安全とは、ここまでは安全というデータが大切」、「米国はSRM除去の実施状況についてデータを出していることは評価できる。日本は出していない。今後、国内でのSRM除去の遵守状況を把握することも大事だ」などの意見が出て、調査会の報告を答申とすることが了承された。
 委員会では「今後は可能な限り国際的なレベルにそって議論することが日本には必要。たとえば、21か月齢で発症した患畜を材料にした他の牛での感染実験が行われているがすでに何か月も経っているのに結果は出てない。結果が出ないということについて、調査会では議論されなかった」とプリオン専門調査会への批判ともいえる意見も出された。
 調査会の吉川座長は答申は「ゴールではなくスタート。米国、カナダが輸出プログラムを遵守できるかどうかが問題。今回は通過点にすぎない」と今後は「リスク管理機関の力量が問われる」ことを強調した。
 ただ、今回の専門調査会の議論を通じて、「初めて評価することは不可能ということがあり得ることを意識した。科学は万能ではなく不確実なことは不確実なこととして出すほかはない」と食の安全性への評価の課題を語った。同時に米国が飼料規制を着実に実施していないことについて「国際的にも米国のためにも飼料規制はすべき。増幅の可能性はあり米国の責務だ」と強調した。

■「農」の安全に結論は出たのか

 プリオン専門調査会が出した結論は確かに分かりにくい。ただ、リスク管理機関の責任の重要性と同時に米国に対してサーベイランス拡充の必要性や飼料規制の実施も指摘している。これは科学者が検討した結果、食の安全性確保には生産段階から求められていることがあることを国際的にもアピールする必要性があることを示したものだ。
 一方、親委員会では、食肉にするための処理の仕方が安全であれば問題なしと評価すべきとでもいうような意見が目立った。SRMの除去こそ安全確保の唯一の指標といった意見は相次いだが、生産段階で安全確保に関わる米国の飼料規制についての調査会の指摘に触れる意見はなかった。
 今回の問題は輸入食料をめぐっての問題とはいえ、多くの消費者は食の安全を確保するための農業生産のあり方に関心を持ったのではないか。食と農の距離の開きを政府は白書などで指摘しているが、米国産牛肉の輸入再開問題をめぐって食と農の距離を考えはじめた消費者は多い。食品安全委員会の議論にいらだちを感じるのは食を議論するなら農のあり方を避けられないはずだからだ。国内外を問わず「処理」と「査察」で本当に安全が確保できるのかどうか、消費者の「農」のあり方への不安にどう応えるかはまだ「結論」が出ていない。

(2005.12.12)


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