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シリーズ 卸売市場を考える(2) 座談会−1
卸売市場のビジョンを描くために
―基本的な機能を再検討する―

日本にあった競争条件をどう確保するのか
――価格形成機能――

 

 卸売市場は、大正12年(1923年)に卸売市場法の前身である中央卸売市場法が制定されてから80年の歴史をもち、生産者や消費者にとって身近な流通の担い手だといえる。この間、何回か改定はされてきているが、それは部分的な改善にとどまったため、現在、基本的な部分を直さなければ時代の流れに対応できないと抜本的な検討が進められている。しかし、さまざまな立場から意見が出され、改革方向がまとまらないという状況にある。建設的な論議をするためには、藤島廣二教授が本紙で指摘しているように、まずビジョンを出して、それに対して意見を出していくことが必要だろう。
 そのために、海外も含めて卸売市場問題にくわしい藤島教授と全農大田青果市場長を経験し市場の現場を熟知している森口俊全農青果サービス社長と原田康氏に卸売市場の基本的な機能である価格形成、代金決済、品揃え、物流機能を再検討してもらった。


◆「流通革命」で必要になった「建値」 ―産地の大型化、量販店の成長

 原田 卸売市場の基本的な機能をもう一度検証しようというのがこの座談会の主旨ですが、まず価格形成機能について考えていきたいと思います。主力となる卸売市場の値段が全国の「建値」になっていくという価格形成機能がありますが、建値が形成されるようになったのはどういう経過からですか。

藤島廣二氏
ふじしま・ひろじ 昭和24年埼玉県生まれ。昭和47年北海道大学農学部農業経済学科卒業。農学博士。平成8年東京農業大学教授、10年同大学院農学研究科農業経済学専攻食品産業経済論特論担当教授(現在)、12年同大学国際食料情報学部食料環境経済学科長。日本農業経済学会員、日本流通学会員、食料・農業・農村政策審議会臨時委員

 藤島 卸売市場は全国に何カ所もできて、それぞれがセリを行っていましたが、それはそれぞれの卸売市場で価格形成をする必要があったからだと思います。そのなかで建値が出てくるわけです。どうして出てきたのかは議論があるところですが、一般的にいわれているのは、転送とのからみですね。つまり、東京の市場へ大産地から荷が入って、その荷が他の市場へ転送される場合、東京の市場価格が基準になって他市場でも価格が決まるわけです。そういう意味で、東京の市場が建値市場といわれるようになったということです。
 現在もそういう意味で建値といっているかというと、必ずしもそうではないと思います。それは流通が広域化してくるなかで、同じ産地の同じ商品が全国的に出回るようになる。そうすると、それぞれの卸売市場で別々の価格を形成するのはかなり難しいことになります。それではどうやって価格を決めたらいいのかということになります。それは産地が重視する卸売市場、例えば東京の大田市場とか大阪の本場の価格が参考にされる可能性が強くなっているということだと思います。
 ですから、卸売市場の場合、厳密な意味での建値ではなく、他の市場の価格を参考にして自分のところの需給状況をみて価格を決めるという意味合いが強いと思いますね。

 原田 建値は参考価格ということですね。ところで森口さん、卸売市場を通さない市場外流通で価格を決めるときにも、大田市場や大阪本場の価格を参考にして決められていますよね。

 森口 取引形態はいろいろありますが、指標価格としては、市場価格がきわめて重要な意味をもっています。他に依拠するものがありませんからね。
 建値が必要になったのは、比較的最近のことだと思いますね。昭和40年代に「流通革命」といわれて、大量の商品が流通するようになってからではないですか。それ以前は、出荷者も買い手も零細で、近郊の農家が自分でつくったものを地元の市場に持っていく。そして地元の買い手が集まってくる。そこでは、純粋にセリ価格が成り立っていた。しかし、40年代以降は、買い手側が大ロットで買えるように成長しましたし、産地もJAの共販という形でまとまり大型化され、加えて共選場とか予冷装置などのハードも整備されます。さらにオート三輪で運んでいた時代から、大型保冷トラックなど輸送手段も変わりましたね。そうしたなかで、建値という概念が生まれてきたのではないかと思いますね。

◆市場流通があって成り立つ市場外流通

森口 俊氏
もりぐち・たかし 昭和21年京都府生まれ。神戸大学農学部卒業。昭和45年全販連(全農)大阪支所入会。58年東京生鮮食品集配センター野菜第二課長、61年同青果総合課長、平成5年本所園芸販売部市場販売課長、6年同総合課長、8年全農大田青果市場場長、11年本所大消費地販売推進部次長、14年(株)全農青果サービス代表取締役社長

 原田 大田や本場の価格が基準になったのはなぜですか。

 藤島 規模が大きく全体的な需給関係のなかで取扱量が多い中心的な市場ですから、そこを中心に考えていくということではないでしょうか。それから首都圏には9つの青果物市場がありますが、ここでは大田市場の価格を見ると同時に隣の市場を大変気にし、互いに牽制しあっている面もありますね。

 原田 卸売市場は需給を反映した公正な価格ということになっていますが、最近は出荷量が少なくても必ずしも価格はあがりませんね。需給の反映という点でどう考えればいいんでしょうね。

 森口 私は市場外流通は市場流通があってこそ成り立っていると考えています。もし市場がなかったら、買い手と産地の売り手は利害が相反するわけですから、どう価格を形成するかということは容易ではないですね。市場の建値があるから、市場外流通でも価格が決められていると思いますね。
 いま確かに市場外流通のウエイトが増していますが、機能で見ても、市場流通を反面教師としている部分があると思います。例えば、市場では毎日価格を決めますが、大手の量販店や外食は長期の安定した価格で取引きをしたいわけです。これをいまの市場の中でやろうとするのはやはり難しいですね。店着とか量販店のセンターへの直納という対応もそうですね。その上で、代金決済や建値機能といった市場がもっているいいものだけはちゃっかり利用しているわけです。
 市場流通についていろいろ言われていますが、素晴らしい仕組みですから、ここを原点にもう一度、流通を再構築すべきだと思いますね。

 藤島 市場外流通が増えているのは間違いないことですが、それは卸売市場が扱わない加工品が増えているからだということも忘れてはいけないと思います。

◆セリは世界的には例外的な存在 ―食文化の違いも重要

原田 康氏
はらだ・こう 昭和12年9月生まれ。昭和36年全農(全販連)入会、平成5年全農常務理事、8年(株)全農燃料ターミナル社長、平成11年(財)農協流通研究所理事長。

 原田 世界的にみて、公設の卸売市場がセリで価格を決めるというのは例外的な存在だといえると思いますが、他の国での価格形成のルールはどうなっているのでしょうか。

 藤島 日本の場合は中央卸売市場はすべて公設ですが、外国の主要卸売市場は国立もありますが第3セクターとかいろいろあります。しかし、根本的な違いは、価格形成の仕方が、相対取引きだということです。ただ、大変興味深いのは、日本も外国も共通している点があるということです。それは、競争を通して価格を決めているということです。日本ではセリによる競争がありますが、欧米の卸売市場の場合には、卸会社の数が大変に多く、売り手とは相対ですが、卸売同士の競争があるので、だいたい妥当な価格になっていると思います。相対であっても、競争関係で価格がつくられていますから、その競争関係をどう維持していくかが大事なことだと思いますね。

 原田 欧米の場合は、買い手も多数、売り手も多数という競争によって妥当な価格がきまってくるわけですね。日本の場合にはどうですかね。

 森口 外国と比較する場合に考えておかなければいけないのは、日本の食文化の特異性を考慮すべきだと思います。米国のように貨車ごとレタスをバキュームクーラーにいれてしまうという日本では想定できないようなロット単位の取引きが行われる国では、セリではなく相対で買い手と大農場が結びつくと思います。しかし日本では品揃え、季節感とか品質・鮮度、そして出所にこだわる買い方が随所にみられますから、相対だけで取引きがうまくいくとも考えられません。確かに日本でも大きな取引きができる条件が整ってきていますから、必ずしもセリにこだわることはないと思いますが、食文化の差もおさえておかないといけないと思いますね。

◆妥当な価格形成には競争関係が必要 ―国・行政の役割

 原田 日本の場合にはセリの価格を基準に考えてきましたから、相対になじみがないことと、相対だとバイイングパワーに押されてしまうという現実もありますね。

 藤島 日本でも相対であっても、卸売市場間の競争もあるわけですから妥当なところに落ち着くと思いますね。だから、セリと相対とどちらがいいかということにはならないと思います。

 原田 最近、大田でも相対が増えているようですが、一番の要因はなんでしょうか。

 森口 買い手側からみればセリは安定した価格や量が確保されず、振れすぎるということは、仕入れのコスト管理をきちんとして安定的な仕入れをし、計画的に販売したいところには、致命的ですね。100店舗分同じ品質のものを揃えたいと思えば、セリだととんでもない価格を出さないといけなくなりますね。そうなると相対で、量は保障するからこのくらいの価格で欲しいと交渉することになると思いますね。もしセリを温存するとしたらそのリスクをどこかが負わなければ、いまの流通とは合わないですね。現実的に仲卸さんなどがそれを負っているわけですよ。
 100円ショップが支持されていますが、品揃えも豊富で、買う楽しさを消費者に提供していますね。あれはセリではなく競争条件下の相対で商品仕入れされ、消費者を満足させる価格を生んでいるわけです。そういう意味では、藤島先生がおっしゃったように、競争の条件がきちんと確保されていればセリでも相対でもいいと思いますね。

 原田 公正な価格を形成するためには、競争の条件をどうつくっていくかということですね。

 藤島 そうだと思いますし、それこそ国とか行政の役割ですね。いろいろなことを規制するよりも競争関係をつくることが一番考えるべきことですね。

 原田 具体的にはどういうことでしょうか。

 藤島 従来は、競争関係を維持し、公正な価格形成のためにセリを原則としてきたわけです。しかし、いまや相対でも大丈夫だというわけですから、相対での競争関係はどうあるべきかを、行政としても検討して、今後の卸売市場のあり方として出していくことが必要だと思います。

 原田 生産者にとっても消費者にとっても、基準となる価格は競争の中でつくられることが基本ですから、そういうものを行政が用意をすることは大事だということですね。


◆流通の効率性と競争関係をセットで考える ―相対でも競争はある

 藤島 あり方にはいろいろあると思います。相対であっても現在でも競争はあるわけですから、そういう形で競争関係を維持していくのか、それとも欧米のように卸の数をたくさんにして競争関係をつくるのか、そこを十分に検討して打ち出していくことが必要だと思います。

 原田 日本の場合には卸売会社は少数ですが、競争条件を考えるときにもう少し幅広く考えた方がいいわけですね。

 藤島 流通の効率性と競争関係を一緒にして考えていかないといけないと思いますね。
 私は日本のシステムは非常にいいシステムだと思っています。なぜかというと、欧米のシステムは卸売会社が多数あって競争という意味では悪くはありませんが、各々の卸会社の規模が小さくなります。そうなると当然のことですが、売れるものを中心に扱うことになり、品揃えの幅が狭くなってしまいます。日本のように卸会社の数が少なければ、お客さんを呼ぶためにできるだけ品揃えの幅を広げようとすると思います。小売店に行けば野菜だけで100を超えるアイテムがありますから、これに応えようとすれば、いまのシステムでないと効率が悪いと思いますね。

 原田 森口さんが言われたように食文化をベースにおいて、日本にあった競争条件をどう確保するかが、卸売市場のビジョンをつくるときには大事だということになりますね。

 藤島 行政で改革案をいろいろ検討していますが、競争の視点が不十分だと小手先の改革に堕する恐れがあります。  (2003.4.8)




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