農業協同組合新聞 JACOM
   

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シリーズ 卸売市場を考える(5) 座談会−4
卸売市場のビジョンを描くために
―物流機能を再検討する―
小手先の改革にとどめず将来見据えた市場体系づくりを

藤島 廣二 東京農大教授
原田 康 農協流通研究所前理事長

森口 俊 全農青果サービス社長

 価格形成機能、代金決済機能、品揃え機能、と卸売市場が持っている基本的な機能を再検討し、将来の卸売市場のビジョンを描くための課題を探ってきたこの座談会の最終回は、80年近くも基本的に変わってこなかった「物流機能」を検討した。座談会は今回で終わるが、今後もこのシリーズでは、4月24日に出された「食品流通の効率化等に関する研究会・報告書」を含めて、引き続き卸売市場のあり方について多角的に検討していくことにしている。

◆80年近くも変わっていない珍しい物流施設
藤島 廣二氏
藤島 廣二氏

 原田 次に物流機能について考えていきたいと思います。現在の原則は、現物を前において一斉に競売することになっていますから、都会の真ん中に荷物を持ち込んでいるわけですが、こうした物流について、森口さんはどう見ていますか。

 森口 価格形成、代金決済そして品揃え機能については、市場の素晴らしい面を強調してきましたが、物流ではほめる部分は基本的にありませんね。物流というときに、産地から市場へ持ち込む物流、市場内での物流、市場から取引先へ出て行く物流がありますから、市場内の物流だけをいじってもそれほどの合理化にはならないと思います。
 例えば、場内だけをみてもいまだに荷受という言葉が生きている労働集約的物流で、卸売会社という近代的なイメージが感じられませんね。パレット1つとっても、全国の市場が統一的な規格でやる気があるとは思えませんし、産地と協力して物流コストを3年とか5年かけて下げようという発想もあまり出てきませんしね。市場法では即日入荷、即日販売が原則ですが、365日24時間営業している小売業界の実態に対して、市場は鮮度を落とさずストックする機能をもたなくていいのかという問題もあります。あるいは、安全とか衛生という観念も希薄だといえますね。
 青果物物流の要である市場が一番、物流に疎く世間から隔絶し、非常に遅れています。物流コストを1円でも2円でも合理化して、産地なり取引先に還元すべきですね。

 原田 藤島先生、多少いいところはありませんか。

 藤島 物流面では、品揃えしてセットして配送できることぐらいですかね。その他の面は、森口さんに同感ですね。
 中央卸売市場でいえば、商流は相対を取り入れていくらかは変わりましたが、物流は昭和2年に京都中央市場ができてから変わっていません。例えば、現在に至るも場内の動線ができていませんが、これはいまどき珍しいことだと思います。あるいは、仲卸の店舗もすべて同じ広さのコマにする必要はないと思います。それに、卸売場と仲卸売場が別々になっていますから、必ず横持ちをかけなければなりませんが、そいう必要性が本当にあるのかということもあります。
 今後は、そういうことを十分に考えた物流施設をつくっていかないといけないと思いますね。とくに卸売市場は商流面を、なかでも価格機能とか評価機能を重視していますが、現在は、個々の市場が別々に評価機能を持たなくてもいい時代になっています。そうなると、卸売市場にとって重要なのは物流機能だといえます。その物流機能を十分に発揮できないなら、個々の量販店の集配センターで物流機能を肩代わりしますよということにもなりかねないですね。

◆コスト意識が薄い産地―コストを誰が負担しているかはっきりしない仕組み

原田 康氏
原田 康氏

 原田 卸売市場の場合には、コストを誰が負担するのかという意識が希薄なのではないでしょうか。

 藤島 市場までは委託販売ですから出荷者が負担するのは妥当で、買付けなら卸売業者が負担するわけです。しかし、コストをできるだけ下げていこうという競争関係ができてこないとコスト削減には結びついていかないと思います。そのあたりの厳しさをどうつくりだしていくかですね。

 原田 産地の意識はどうなんでしょうね。

 森口 産地も物流コストに対する意識が低いですね。いまは、価格には期待できないわけですから、物流でコストダウンをはかって手取りを上げるという発想を産地がもつことが大事ではないでしょうか。もう一つは、小売も激しい価格競争をしていて、利益をどう上げるかが至上命題だと思いますから、市場からの引取りコストをどうしたら下げられるのかと、それぞれ市場を利用している人が、いまのコストでは困ると厳しく迫ることが、コストダウンを促進する重要な要件ではないかと思いますね。

 原田 市場までのコストは出荷側が持っているわけですが、共販だと運賃は選果場とか予冷装置の経費と一緒に諸経費に含まれているので、生産者は物流コストがいくらなのか、それが妥当なのかどうかあいまいになり、切実さがないといえませんか。

 森口 共計運賃として自分の預金口座から引き落とされるだけですから、負担感を直接感じていないと思います。これからは、生産農家も出荷者も意識改革をし、自らコストとして妥当かどうか確かめないと経営者はいえないと思いますね。

 藤島 生産者が直接払えば実感できると思いますが、農協が払っているので実感できないんですね。生産者がコスト負担する原則をもっと厳密に適用すべきだと思いますね。農協も替わりに払っているだけですから、あいまいになりますね。

 原田 物流についてはコスト負担者があいまいなままに、安くしなくても成り立つ世界になっているといえますね。

◆公共的使命を果たすために物流の協議会を

森口 俊氏
森口 俊氏

 原田 他の業界では、パレットや通い箱でも便利なシステムができているのに、卸売市場ではそうはなりませんね。

 森口 トータルの物流でみないとコストダウンは容易ではないと思います。例えば、段ボールのサイズが何百種類もあっていいのか。トラックの荷台の幅から発想したサイズにしてはどうか。パレットを統一規格にしてどこの市場、どこの産地でも使えるようにするとか。通い箱のシステムを使えないかとか。取引先には共同配送はできないか、とかを検討する物流の協議会をつくり、国も従来のように物理的な施設に金を使うのではなく、国民的メリットのでるシステムに予算をとることで、市場の公共的な使命を果たしていくことが必要だと思います。
 もう1つ大事なのは、情報とどう連動しているかということです。仕切りとか売り立ての情報については整備されてきていますが、物流と連動した仕組みは遅れていると思いますから、これをどう構築していくかですね。これがないと物流のコストダウンは容易ではないと思います。

 原田 欧州では木の通い箱が主流になっていますね。

 藤島 欧州の場合には輸入が多いので、輸送単位が明確になっていますから、日本のようにいろいろなサイズはありません。それから、日本ではサービス残業的に直接は見えない隠れたコストが多いですね。例えば、トラックへの積み込み労働は運送料と一括で、それだけのコストがわかりません。それゆえ、積み込み労働を節減しようということをあまり考えないと思います。また、そのために、一貫パレチゼーションが実現しないのではないかと思いますね。

◆市場の機能分担と情報化で効率的で合理的な物流を

 森口 市場は本来、物流機能を兼ね備えているはずなのに、大手量販店は自分で物流拠点をつくり、独自の物流体系をつくっています。これは無駄な投資ですし、矛盾だと思います。ですから思い切って商物分離をする市場が出てきて、商取引きは立地の良い所で、物流倉庫機能は土地が広くて地代が安い立地の所で、となってもいいと思います。

 原田 卸的な機能だけではなく、畜産物を含めた品揃えや消費者も利用できるといった将来ビジョンを考えると、物流が大きなウェイトをもってきますね。

 藤島 物流コストを下げるときに大事なことは、1つは、大規模物流に対応できるようにすることです。2つ目は、すべての生鮮品を扱っている量販店などに対応できる総合市場的なものが必要になってくると思います。そうすると量販店の物流拠点からではなく、卸売市場から一括して運ぶことができるようになります。また、森口さんが指摘された専門的市場があってもいいと思います。つまり、市場の機能分担をすることで、いかに物流コストを安くするかですね。
 機能分担しながら全体として市場として一体化する必要がありますから、そうなると情報化が重要になりますね。そして、市場の配置をどうするかということも考えるべきです。集荷のための大規模市場は東京近辺に数か所あればいいでしょうし、それとは別に配送のための仲卸的な市場をどう配置するかも検討する必要があります。

 原田 鮮度管理面からは、いま卸売市場で切れているコールドチェーンの問題もありますね。

 森口 行政が今後どう関わるかということがあると思います。商取引そのものからは行政は手を引いていくべきだと思います。その上で行政が果たす役割は、1つは、公正な取引きができているのかどうかのチェックです。2つ目は、安心・安全面のチェックですね。3つ目が、市場から出る廃棄物とか電力など環境問題の指導。そして4つ目が、コストダウンへの援助です。その中に、鮮度管理・鮮度維持のための施設やソフトへの援助も含まれると思いますね。

 原田 問題はいろいろありますが、卸売市場とはどういうものかというビジョンを明確にし、その中で物流という大きな問題のあり方を描きながら、市場の体系をつくっていくことがどうしても必要になってきますね。

 藤島 小手先の改革ではなく、10年先、20年先を見た改革をしていくべきだと思います。大正12年の中央市場法に基づく中央卸売市場のコンセプトが昭和40〜50年頃までは有効だったと思いますが、そういう先を見越したビジョンが必要ですね。 (おわり) (2003.5.6)


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